グーグル、ツイッター新方針でデジタル遺品整理が必要に
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Your digital life isn’t as permanent as you think it is グーグル、ツイッター新方針でデジタル遺品整理が必要に

ツイッターとグーグルが相次いで、長期間にわたって使われないアカウントを削除する方針を発表した。こうした方針を打ち出すテック企業は、この先もっと増えるだろうと専門家は予測する。 by Tate Ryan-Mosley2023.05.22

ロビン・キャプランは、デジタル記憶の脆さを身に染みて感じている。不幸にも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで両親を亡くしてしまったキャプランは、受け継いだデジタル遺品を大切にしている。母親のアイパッド(iPad)、父親のメール受信箱へのアクセス、そして両方のメッセージ・スレッドは、大切な宝物だ。それによって、両親の目を通して世界を見ることができるのだとキャプランは言う。

キャプランがカナダの実家を離れてニューヨークへ引っ越した後、母親は毎朝、キャプランが住む街の天気予報の気温を華氏から摂氏に変換し、ネット上で拾った、やってみると面白そうな事柄とともにメールで送ってくれた。「最初の10年間はこれに頼っていたので、華氏の感覚が実際に身につくことはなかったです」とキャプランは言う。

データ&ソサエティ( Data & Society )の研究者でデューク大学の助教授であるキャプランは、母親とのメールのやり取りを必死で守ろうとしている。メッセージの内容は複数の方法で保存しているが、スマホを新しくするたびに、それが消えてしまうのではないかと怯えている。

グーグルは2023年5月16日、2年以上使用されていない個人アカウントを、2023年12月から削除すると発表した。使われていないアカウントに添付された写真、メール、ドキュメントはすべて、この方針の一環として削除されることになる。

ただし、この方針は歴史的に重要なビデオクリップの破壊につながる恐れがあるとの指摘があったことを受け、ユーチューブ(YouTube)動画を持つアカウントは削除しないと、グーグルは後に明らかにした。だが、現在進行中の法的問題のために使用されていない場合や、投獄中や医療上の問題で活動できなくて使われていない場合、そうしたアカウントにグーグルは例外を設けるのかどうかなど、ほかにも不明な細部は残っている。グーグルは我々の質問に返答しなかった。

今回の新たな方針は、セキュリティを高めるためだとグーグルは説明する。古いアカウントはハッキングに対して脆弱で、二要素認証が有効になっていない場合が多く、使われているパスワードもあまり強力なものではない傾向があるからだという。

グーグルの発表の前の週に、ツイッターも同様の発表をしており、数年間活動していないアカウントを削除するとしている。同社の発表は、亡くなった大切な人のアカウントを削除してほしくない人々の間で大騒動となった。 

こうした方針の変更は、我々のデジタルライフがいかに脆く、その保持はいかにコントロールできないものであるかを思い知らせてくれると、近刊『Death Glitch: How Techno-Solutionism Fails Us in This Life and Beyond(死の誤作動:技術解決主義は我々をこの世とあの世でいかに見捨てるか)』の著者であり、カリフォルニア大学バークレー校の客員研究員を務めるタマラ・ニース博士は言う。クラウド・ストレージを利用するようになった人々は、データは無限であり、自分たちのデジタル空間は永遠に存続するという期待、あるいは幻想を抱くようになった。

「グーグルがこの方針を貫き、他の企業も追随すれば、豊かな個人的思い出とともに、歴史的アーカイブ全体がまとめて失われる危険があります」とニース博士は言う。

グーグルは、新たな方針の一番の理由としてセキュリティ上の懸念を挙げているが、我々が取材した専門家らは、コスト負担も影響しているだろうと推測する。

人々のデータすべてを無制限に保管することをテック企業に求めるのは大変だとキャプラン助教授は言う。過去10年間でデータ・ストレージのユニット当たりのコストは約90%減少したが、データ量が指数関数的に増加する中で、さらに多くのストレージが必要になる。また、データを保存するコンピューターの電力にかかる環境コストや、データを無制限に保存することでサイバー犯罪者にとってますます大きな「攻撃対象領域」が生じるリスクなども考慮しなければならない。

歴史は巡る

こうしたすべてのデータは、人間の行動の記録で構成されている。非アクティブなアカウントにも、何千もの家族の写真や動画、個人的メッセージのやり取り、未発表の研究、実生活を如実に記録したメモなどが含まれている可能性がある。たとえば、エミリー・ディキンソン、ジョン・キーツ、フランツ・カフカといった作家たちの死後に発見された、未発表の作品や書簡の歴史的な重要性について考えてみるといい。

「人々は多大な労力を費やして、自分の考えを共有し、歴史を作り、経験を記録して他の人々と共有してきました。しかし、これらのプラットフォームは、基本的にはビジネス的な見地で意思決定をしているため、こうした資料は簡単に歴史から消されてしまうのです」と公共のWebからデータを保存・保管するプロジェクト「インターネットアーカイブ(Internet Archive)」のマーク・グレアム事務局長は言う。

テック企業が自分たちのデータを永久に保存してくれるものだと思い込むのをやめて、自分のデジタルライフは自分でアーカイブし始めることが重要だとグレアム事務局長は言う。ニース博士もこれに同意し、データの使用と保存の要件が拡大するにつれ、オンラインデータに対して同様の「使うか、失うか」という方針を導入する企業が増えるだろうと言う。

ニース博士は、個々のユーザーは現在も死後も自分のデータにもっと責任を負わなければならなくなるだろうと言い、それはデジタル財産を後世に伝えたいと考える人々にとっての課題となると語る(グーグルは、2年間使用しなかった場合に自分のアカウントがどうなるかを指定できるツールを提供しており、指定した人物にファイルを送るなどの選択肢もある)。

「巨大テック企業は、本当にデータ遺品の管財人になりたいと考えているのでしょうか。法的にも倫理的にも、この役割を果たす体制は整っているのでしょうか。私はそうは思いません」とニース博士は言う。

キャプラン助教授の家族は、今でも定期的に父親のメール受信箱を参照しながら父親の用事の整理をしている。キャプラン助教授は、「誰かが亡くなった後、製紙会社が家に来て手紙を燃やすと脅してくるようなことは決してなかったでしょう」と語り、我々との電話の直後に母親のメールアカウントのバックアップをとるつもりだと言った。