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主張:バイドール法の危機、米国のイノベーションの源を枯らすな
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倫理/政策 Insider Online限定
A plan to bring down drug prices could threaten America’s technology boom

主張:バイドール法の危機、米国のイノベーションの源を枯らすな

バイデン政権が進める「介入条項」の適用拡大により、米国のイノベーションを支えてきたバイドール法は危機を迎えている。長らくMITの技術移転オフィスの責任者を務めたリタ・ネルセン氏による寄稿。 by Lita Nelsen2024.04.15

40年前、マサチューセッツ州ケンブリッジのケンドール・スクエアは、寂れた倉庫と倒産しそうなローテク工場でいっぱいだった。今では、間違いなく世界のバイオ産業の中心地となっている。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の技術移転オフィスに30年間勤務していた私は、この変貌を目の当たりにしてきた。そして、これが偶然の出来事でないことを知っている。その多くは、1980年に議会が可決した超党派の法律「バイドール法( Bayh-Dole Act)」の直接的な結果だ。

この改革により、ケンドール・スクエアから数キロ圏内にあるMITやハーバード大学のような世界トップクラスの大学が、科学者が発見した特許権やライセンス権を保持できるようになった。ほとんどすべての研究所でそうであったように、連邦政府が研究費を支出していた場合でもだ。こうした発見が、今度は、ボストン一帯の多くのバイオテクノロジー関係スタートアップの立ち上げと成長を後押しすることになったのだ。

バイドール法の前は、政府が特許権やライセンス権を保有していた。しかし、米国立衛生研究所のような連邦政府機関は、大学での基礎科学研究に多額の資金を提供する一方で、有望ではあるがまだ始まったばかりの発見に対するライセンス供与や開発に興味を持つ民間企業を見つけるには不向きだった。なぜなら、政府機関はえこひいきと非難されるのを恐れ、特許技術を開発するための非独占的ライセンスしか企業に与えようとしなかったからだ。

非独占的に技術をライセンスすることに前向きな企業はほとんどなかった。非独占的ライセンスでは、スタートアップが製品開発に何百万ドルも費やしたとしても、政府がその特許をライバル企業に再ライセンスする可能性があった。

その結果、税金が投入された多くの発見が実際の製品にならなかった。この法律以前は、連邦政府が保有する約2万8000件の特許のうち、民間企業にライセンスされて開発されたものは5%にも満たなかった。

バイドール法に関わった超党派の議員たちは、このような焦点のずれたインセンティブが科学技術の進歩を阻害し、経済成長と雇用創出を妨げていることを理解していた。そして、特許が自動的に連邦政府に渡ることがないようにルールを変更した。その代わりに、大学や医学部は特許を保有し、独自にライセンスを管理できるようになった。

これに対して研究機関は、私がMITで運営していたような、学術界から民 …

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