高すぎる「培養肉」、 植物肉とのブレンドが現実的
生命の再定義

Your first lab-grown burger is coming soon—and it’ll be “blended” 高すぎる「培養肉」、
植物肉とのブレンドが現実的

環境や倫理的な問題の解決策として培養肉の作成に取り組む企業が増えているが、コストがかかりすぎることが商品化の障壁となっている。しかし、植物由来の代替肉と混合することで、両者のいいとこ取りをした「ブレンド肉」が私たちの食卓に届く日は遠くないかもしれない。 by Niall Firth2021.06.18

10年前のある涼しい秋の夜、ジェシカ・クリーガーは頭をスッキリさせるため、ジョギングに出かけた。当時、神経科学を専攻する大学生であったクリーガー博士は、多くの動物が食用として屠殺される残酷なシーンを描いたドキュメンタリーを見たばかりであった。「動物は恐怖や苦痛を感じながら死んでいきました」とクリーガー博士は回想する。

クリーガー博士は当時、食肉産業が気候変動に与える影響について既に懸念していたが、ドキュメンタリーを見て以来、肉を全く食べなくなり、ビーガンに転向した。さらに、友人や家族にもビーガンになるよう説得を試みたが、失敗に終わった。しかし、クリーガー博士はもっと何か行動を起こしたいと考え、過激な手段を取ることに決めた。

「動物や地球を守ることに対して本当に無力だと感じ、絶望的な気持ちになりました」とクリーガー博士は言う。「なんとも言えない嫌な気持ちでした。そこで、何もしないよりクレイジーなアイデアを追求することを選択しました」。

クリーガー博士は、当時バイオテック研究の周辺分野であった研究に身を投じた。感覚のある生き物を殺さずに、食用の動物細胞を培養し、収穫する研究である。当時、食用の動物細胞は話題になっており、家1件分ほどの価格もするラボ産の人工肉バーガーなど興味深い結果も出ていた。とはいえ、食肉業界に食い込めるようになるのは、まだまだ先のことであった。

ところが、現在は状況がやや異なるようだ。培養肉(あるいは、もう少しマーケティングを意識する場合はこのハイテク食品を「栽培肉」と呼ぶとよいだろう。業界は現在、「ラボ産人工肉」や「試験管肉」などの表現を避けている)はすでに黎明期の産業である。とはいえ、まだ、従来の肉と比べて非常に高価であり、スーパーマーケットで買うこともできない。味や見かけも本物と思えないものがほとんどである。少なくとも培養肉だけを利用した製品はそうである。そこで、クリーガー博士が共同創業したスタートアップ企業、アルテミス・フーズ(Artemys Foods)が登場する。

ラボ産人工肉がペトリ皿から商品化への道を探っている間に、植物由来の代替肉の分野では革命が起こっていた。インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)やビヨンド・ミート(Beyond Meat)などの企業が植物由来のタンパク質と脂肪を利用して、牛ひき肉や豚ひき肉、鶏ひき肉の味や食感を巧みに再現し、メインストリームに躍り出たのだ。今日、数十の国では、バーガーキングでインポッシブル・ワッパー(Impossible Whopper)を購入したり、スーパーマーケットでビヨンド・ミート・ソーセージを入手したりできる。

このような競合の存在は培養肉のスタートアップにとって良くないニュースだと捉えられるかもしれない。しかし、クリーガー博士や他の多くの起業家は、自分たちの商品を市場に出すために必要なきっかけだと考えている。植物由来の代替肉と培養肉の良い点を融合させた「ブレンド肉」という形態に目をつけたのだ。ブレンド肉製品には世界最大のファストフード企業でさえ興味を示している。ケンタッキーフライドチキン(KFC)は、ブレンド肉のチキンナゲットの生産に取り組んでおり、年内にも発売する可能性があると発表している。

誰が最初に発売するにせよ、ブレンド肉はいずれ登場するだろう。そして、消費者がブレンド肉を味わう機会が来るまでそう長くはかからないかもしれない。

鶏肉のような味?

業界の話題という観点では、培養肉はこれまでになくホットなトピックである。非営利団体のグッド・フード・インスティチュート(Good Food Institute)によると、2016年末に培養肉に取り組んでいる企業は4社だけであった。しかし、2020年初めまでにその数は急増し、世界中で少なくとも55社のスタートアップが豚やエビ、鶏、鴨、子羊、さらにはフォアグラに至るまで15種類以上の異なる動物肉を再現しようとしている。

オランダのマーストリヒト大学のマーク・ポスト教授が自身のラボで培養した肉を使って32万ドルのハンバーガーを調理する番組が、2013年にテレビで放映されて以来、このような製品の製造プロセスは大きく進歩した。しかし今でも基本的に同じ原理に従っている。通常、生検によって動物から採取された小さな細胞のサンプルに、栄養を与えて育てる。そして、数百万個もの新しい細胞に成長すると、筋細胞に分化して最終的には筋繊維の束になるように促すのである。

このテクノロジーの利点は、動物を屠殺したり、動物を育てるために大きな環境負荷をかけたりすることなく、肉の風味や食感を再現できることである。さらに、培養肉は病気を媒介せず、薬剤耐性菌の繁殖につながる抗生物質を必要としないと支持者は指摘している。

投資家も乗り気だ。培養肉を開発する最大のスタートアップのひとつ、メンフィス・ミーツ(Memphis Meats)は2020年1月、1億6100万ドルの資金調達に成功したことを発表した。2021年内には大量生産向けに同社初のパイロット工場の開設を予定している(メンフィス・ミーツはすでにビーフ・ミートボールや鶏肉、鴨肉のバージョンを作成している)。魚肉を培養するブルーナル(BlueNalu)や、豚肉と牛肉を培養するミータブル(Meatable)など、他の多くの企業も相当な額をかき集めている。

業界の成熟度が高まっているもうひとつの兆候は、プロセスの特定の側面に特化する第2層の企業が登場してきたことだ。例えば、高品質の培養基や新しいバイオリアクターの設計を開発したり、異なる動物から幹細胞株を収集して保管したりする企業である。宣伝やプレスリリース、プロモーションビデオ(俳優がおしゃれな照明のレストランや自宅で小さな肉片を嬉しそうに食べている映像)などから考えると、最初の培養肉が登場するのはほんの数カ月先のように思われるかもしれない。

しかし、ひとつ問題がある。細胞の培養基は高価である。研究開発段階のスタートアップ企業が生物医学的研究用のものを転用した培養基に頼っていた初期の頃と比べて価格は下がっている。とはいえ、培養基は依然として生産費の大部分を占めており(全体の55%から95%と推定される)、培養肉1キログラムはまだ数百ドルの値段になる。工場が開設され、稼働するようになれば、やがて規模の経済性が見込めるが、それでも成功する保証はない。そう考えると、培養肉の企業が植物肉企業が開拓した巨大な市場の一部を手に入れる方法を考え始めたのも不思議はない。

「100%細胞培養の製品を製造する際の費用を調べると、天文学的な数字になることがわかりました」とクリーガー博士は言う。「また、ビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズが開発したバーガーに感心することが増えるにつれ、培養肉と植物肉のブレンドは自然な流れのように感じられました」。

最近、注目を集めるようになったアルテミス・フーズは、近日中にもアルテミス・バーガーのプライベートな試食調査の実施を発表する予定だ。細胞培養の牛肉と植物性タンパク質を組み合わせて製造したハイブリッドバーガーであ …

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