米国北西部で記録的な熱波、電力不足が深刻に
持続可能エネルギー

The Northwest’s blistering heatwave underscores the fragility of our grids 米国北西部で記録的な熱波、電力不足が深刻に

米国北西部を襲った猛烈な熱波によって電力需要が急激に高まり、電力不足が懸念されている。気候変動が加速し、熱波、大雪、山火事などが起こる中で、電力供給を維持し人々の命を守るには電力システムの見直しが必要だ。 by James Temple2021.06.30

気候変動による致命的な課題に対処する準備がいかにできていないか? 米国北西部を襲った記録的な熱波は我々に新たな懸念を突きつけた。

多くの地域で気温が華氏3桁(日本版注:華氏100度は摂氏37.8度に相当する)に達し、住民が扇風機やエアコンを使用したことで電力需要が急激に高まった結果、電力網への負荷が生じた。空調設備の多くは、それまで設備が必要なかった地域で新たに購入されたものだ。ここ数日間でポートランドシアトル周辺をはじめとする地域で少なくとも数千世帯が停電し、熱中症を起こしやすい気温が続く中で危機的な状態に陥った。

今週はさらに気温が上昇し、他の地域にも熱波が広がっていることから、気象観測者らは停電のさらなる拡大を懸念している。

気候変動の影響によって、世界各地で極端かつ頻繁な熱波が長期間にわたって発生している。今回の場合、カナダ国境沿いに停滞した気圧の尾根によって「ヒートドーム」が発生し、南はカリフォルニア州北部、東はアイダホ州にまで及ぶ地域に熱気が閉じ込められた。

カリフォルニア州の送電事業者は6月27日、電力使用の自主的削減努力を呼びかける可能性が高いと発表した。州の内陸部で気温が摂氏40度程度に達する恐れがあり、電力供給の不足が予想されているためだ。

コンサルティング企業「エナジー・アンド・エンバイオメンタル・エコノミクス(Energy and Environmental Economics Inc)」のシニアパートナーであるアルネ・オルソンによると、主な懸念事項は住民が空調を強めることによる電力需要の急増だが、暑さそのものも他の面から送電網を弱体化させる可能性があるという。とりわけに、発電所の効率が下がったり、変圧器がオーバーヒートを起こしたり、送電線が緩んで垂れ下がり樹木と接触することで停電が起こったりする可能性が懸念されている。

カリフォルニア州は、極度の干ばつのために水力発電による発電量が通常より少ないという課題にも直面している。さらに、熱波の影響が国内のかなり広い範囲に及んでいるために、相互接続された西部の送電網の運営事業者は他の地域からの余剰供給にもあまり期待できないかもしれない、とオルソンは付け加える。

ローレンス・リバモア国立研究所の元副所長、ジェーン・ロング博士は、「私たちは今、基本的に過去の気候に合わせて構築された電力システムが、様々な面で現在の気候に対応できなくなっていく過程を目の当たりにしているのです」と言う。

今夏の熱波や昨冬の暴風雪のように、ますます頻繁になり、深刻化する異常気象に備えて電力システムを強化するには、米国の送電網を大幅に改善しなければならないだろう。送電網の改善には、現代的な送配電システムへの移行、耐候性のある風力や天然ガスといった電力源の導入、電力貯蔵量の大幅な増強が含まれる。

天候や時間帯に関わらず安定した電力供給ができるように発電所の多様化を進めていく必要もあるとロング博士は言う。電力の安定供給は、発電量が絶えず変動する風力や太陽光による電力の割合が大きくなるほど、難しくなっていくだろう。ロング博士らによる研究では、地熱、原子力、水素、天然ガスなどの、需要量に応じた出力が可能で、温室効果ガスの排出を相殺するシステムを備えたカーボンフリーの電力源を各州でさらに取り入れる必要があるとの 結果が出ている。

また、より効率性が高く環境に配慮した空調システムも必要になるだろう。

熱波が襲う中での停電はただ不便というだけではなく、熱性疲労から熱中症を引き起こし、瞬く間に命に関わる状況になることもあると、地域活動家のステーシー・チャンピオンは言う。チャンピオンは、アリゾナ州の熱中症による屋内死亡事例を追跡調査し、地元の電力事業者 に高気温時の計画停電を取りやめるよう働きかけてきた。「熱中症は『サイレント・キラー』と呼ばれています」(チャンピオン)。

実際、米国では、熱波による死者数がハリケーン、竜巻、地震による合計死者数を上回っている。子どもや高齢者、妊婦は特に被害を受けやすい。

研究によると、気温の急激な上昇による死亡者数や疾病者数は、気候変動が加速するにつれて増加の一途をたどるという。