代替フロンが不要に、「熱量材料」が実現する新冷却システム
圧力を利用して大量の熱を放出・伝達できる「熱量材料」の研究が大きな進歩を遂げている。エアコンや冷蔵庫の冷媒として使われている温室効果ガスが不要になるだけでなく、冷却器のエネルギー効率を大幅に高められる可能性もある。 by James Temple2020.11.19
カタルーニャ工科大学とケンブリッジ大学の研究者が数年前に実施した一連の簡単な実験が、冷蔵や冷却の技術に大きな影響を与える可能性がある。
その実験は、塗料や潤滑剤の製造に一般的に使用される化学物質であるネオペンチルグリコールの柔粘性結晶をチャンバーに入れ、油を加えてピストンを押すというものだった。液体が圧縮され、圧力が加わるにつれ、ネオペンチルグリコールの結晶の温度は約40˚C上昇したのだ。
これは、少なくとも、学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Commnications)」に昨年研究結果が発表された時点では、記録に残る限り、材料に圧力を加えることによって得られた最大の温度変化であった。そして、圧力を緩和すると逆の効果をもたらした。結晶が劇的に冷却されたのである。
この結果は、ネオペンチルグリコールが従来の冷媒に取って代わる有望なアプローチになり得ることを示していると研究チームは述べる。「性能を損なうことなく、環境に優しい冷却」を実現できる可能性がある。国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)は、大きな技術的改善がない限り、富の増大や人口の増加、気温上昇などによって、2050年には屋内冷房用のエネルギー需要が3倍にもなると予測している。このような進歩は大変重要だ。
ネオペンチルグリコールによって起こされる温度変化は、標準的なエアコンや冷蔵庫の冷却で使われるハイドロフルオロカーボン(HFC、オゾン層の破壊能が低い「代替フロン」の一種)の場合と同等であった。ただし、ハイドロフルオロカーボンは強力な温室効果ガスである。
この研究は、風船を引き伸ばして唇に当てると熱く感じることからもわかるように、いわゆる「熱量材料(caloric materials)」が圧力やストレスにさらされると熱を放出するという昔からよく知られる現象に基づいている。特定の材料を磁場や電場、あるいはこれらを組み合わせたものに晒すことによっても同じ現象が生じる場合がある。
科学者は数十年にわたり、こうした原理に基づいて磁気冷蔵庫を開発してきたが、ほとんどの場合、大型で強力で高価な磁石が必要となる。しかし、上記の実験に携わったケンブリッジ大学の材料科学者ザビエル・モヤ博士とニール・D.マトゥール教授が執 …
- 人気の記事ランキング
-
- Two Nobel Prize winners want to cancel their own CRISPR patents in Europe クリスパー特許紛争で新展開 ノーベル賞受賞者が 欧州特許の一部取り下げへ
- Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
- A brief guide to the greenhouse gases driving climate change CO2だけじゃない、いま知っておくべき温室効果ガス
- Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
- Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません