KADOKAWA Technology Review
×
12/16開催 「再考ゲーミフィケーション」イベント参加受付中!
代替フロンが不要に、「熱量材料」が実現する新冷却システム
Courtesy: Ichiro Takeuchi
気候変動/エネルギー 無料会員限定
How materials you’ve never heard of could clean up air conditioning

代替フロンが不要に、「熱量材料」が実現する新冷却システム

圧力を利用して大量の熱を放出・伝達できる「熱量材料」の研究が大きな進歩を遂げている。エアコンや冷蔵庫の冷媒として使われている温室効果ガスが不要になるだけでなく、冷却器のエネルギー効率を大幅に高められる可能性もある。 by James Temple2020.11.19

カタルーニャ工科大学とケンブリッジ大学の研究者が数年前に実施した一連の簡単な実験が、冷蔵や冷却の技術に大きな影響を与える可能性がある。

その実験は、塗料や潤滑剤の製造に一般的に使用される化学物質であるネオペンチルグリコールの柔粘性結晶をチャンバーに入れ、油を加えてピストンを押すというものだった。液体が圧縮され、圧力が加わるにつれ、ネオペンチルグリコールの結晶の温度は約40˚C上昇したのだ。

これは、少なくとも、学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Commnications)」に昨年研究結果が発表された時点では、記録に残る限り、材料に圧力を加えることによって得られた最大の温度変化であった。そして、圧力を緩和すると逆の効果をもたらした。結晶が劇的に冷却されたのである。

この結果は、ネオペンチルグリコールが従来の冷媒に取って代わる有望なアプローチになり得ることを示していると研究チームは述べる。「性能を損なうことなく、環境に優しい冷却」を実現できる可能性がある。国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)は、大きな技術的改善がない限り、富の増大や人口の増加、気温上昇などによって、2050年には屋内冷房用のエネルギー需要が3倍にもなると予測している。このような進歩は大変重要だ。

ネオペンチルグリコールによって起こされる温度変化は、標準的なエアコンや冷蔵庫の冷却で使われるハイドロフルオロカーボン(HFC、オゾン層の破壊能が低い「代替フロン」の一種)の場合と同等であった。ただし、ハイドロフルオロカーボンは強力な温室効果ガスである。

この研究は、風船を引き伸ばして唇に当てると熱く感じることからもわかるように、いわゆる「熱量材料(caloric materials)」が圧力やストレスにさらされると熱を放出するという昔からよく知られる現象に基づいている。特定の材料を磁場や電場、あるいはこれらを組み合わせたものに晒すことによっても同じ現象が生じる場合がある。

科学者は数十年にわたり、こうした原理に基づいて磁気冷蔵庫を開発してきたが、ほとんどの場合、大型で強力で高価な磁石が必要となる。しかし、上記の実験に携わったケンブリッジ大学の材料科学者ザビエル・モヤ博士とニール・D.マトゥール教授が執 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #31 MITTR主催「再考ゲーミフィケーション」開催のご案内
  2. 3 things that didn’t make the 10 Breakthrough Technologies of 2025 list 2025年版「世界を変える10大技術」から漏れた候補3つ
  3. OpenAI’s new defense contract completes its military pivot オープンAIが防衛進出、「軍事利用禁止」から一転
▼Promotion 再考 ゲーミフィケーション
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る