2023年、再エネ拡大の鍵を握る「次世代電池」を探す旅
持続可能エネルギー

Why 2023 is a breakout year for batteries 2023年、再エネ拡大の鍵を握る「次世代電池」を探す旅

再生可能エネルギーへのシフトが進む中、蓄電池の重要性が高まっている。気候変動対策として太陽光や風力の導入を拡大するには、発電した電力を蓄える必要があるからだ。現在主流のリチウムイオン電池に代わる技術は現れるか。 by Casey Crownhart2023.02.17

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

あらためて考えてみると、電池はちょっとした魔法のようなものだ。電池は私たちが持ち運べる小さな化学工場であり、エネルギーを溜め込み、必要な時に放出するということを何度も繰り返している。信じらないことだ。

気候変動担当記者として記事を書き、それ以前にはエンジニアとして働いた経験から、私は電池に対する強い執着を持っている。電池はそのコンセプトが極めて刺激的であるだけでなく、電気自動車と送電網の両方において、再生可能エネルギーへの移行において主役の座を射止めようとしている。

MITテクノロジーレビューは「2023年のテクノロジー大予測」という新たなシリーズを掲載した。ここで何を書くかはすぐに決まった。電池に関する記事だ。電池技術の分野で今年は何が重要になるか、私の予想をぜひチェックしてみてほしい。そして今回は、気候変動対策における電池の役割について少し深掘りし、私が電池に興奮している理由、さらに電池技術の向かう先についてお伝えしたい。

エネルギーパズル

貯蔵されたエネルギーは、私たちの生活において非常に重要だ。照明を点ける、料理を作る、車で通勤するといった行動は、私たちが必要としている時にいつでも開放できるエネルギーに依存している。現在、エネルギー貯蔵の形態としては化石燃料が最も普及している。石炭、天然ガス、石油、あらゆる形の化石燃料が、その化学結合の中にエネルギーを蓄えている。化石燃料は、数百万年前の植物や動物たちの名残である。この燃料は、私たちが必要な時に発電所や車両の内部で燃やされ、そのエネルギーを私たちが利用可能な形に変えている。

だが今の私たちは、化石燃料を燃やすことを止めようとしている。新たなエネルギー源にはいくつかすばらしい候補があり、特に有望なのは太陽光と風力だ。だがこれらのエネルギー源は「間欠的」なものである。つまり、太陽は常に光を照らし続けているわけではないし、風も常に吹き続けているわけではないということだ。

そのため私たちは、風力発電タービンや太陽光発電パネルが作り出した電力を貯蔵する方法を必要としているわけだが、これが想像よりも複雑だということが明らかになった。 

ここでちょっとした余談を挟むと、間欠性に対処するだけであれば方法はいくつか存在する。原子力、地熱、水力発電といった、ベースロード電源や調整可能なエネルギー源を追加することで、間欠的な太陽光発電や風力発電のバランスを若干取ることはできる。また、より優れた、長距離送電線で電気を届けることも有効かもしれない。

エネルギー貯蔵の話に戻ろう。

世界にはエネルギーを貯蔵するさまざま方法があり、これまでにそのうちのいくつかを紹介してきた。物理的なエネルギー貯蔵設備を考えてみよう。もっともなじみのある例として挙げられるのが、揚水式水力発電だ。揚水式水力発電では、低い位置にある湖やダムの水を、高い位置にある湖やダムへと汲み上げる。実際に揚水式水力発電は、現在の世界のエネルギー貯蔵設備のおよそ90%を占めている。

加圧ガスもエネルギー貯蔵に利用できる。熱を貯蔵する方法もある。特に工業分野では、いわゆる熱電池が重要な役割を担う可能性がある。

しかし結局のところ、化学はエネルギーを貯蔵する洗練された方法の1つであり、まさにどこでも再現可能な方法でもある。ここで電池の話に移ろう。

可能性の周期表

電池に関していえば、世界は大きく1つの元素に集中している。リチウムだ。リチウムイオン電池はスマートフォンからノートPC、電気自動車、さらにはデータセンターや送電網といった大規模施設に至るまで、あらゆる場所で使われている。

それ自体はいい。リチウムイオン電池は大量のエネルギーを比較的小さなスペースに蓄えられ、すばやく充電や放電ができ、安価になってきている。

だがリチウムイオン電池が現時点で優勢な理由としては、現在独り勝ちしている技術だからという事実もある。私たちがリチウムイオン電池の作り方をよく知っているのは、それが個人用電子機器向けに数十年前に開発されたものだからだ。それが今や、電気自動車や送電網における貯蔵設備といった新たな用途にも採用されている。

一方で周期表を見ると他にもたくさんの元素があり、状況を一変させるかもしれない技術がいくつか存在する。そのような技術は、気候危機との戦いに向けて私たちが生み出そうとしている新たな産業にとって、より適性が高い可能性さえあるのだ。

新たな種類の電池を作るのは難しく、数多くのスタートアップが夢の実現に挑んで失敗してきた。この一見すると単純そうに思える課題に対して、こうしてさまざまな新しいアプローチが出てくるというのは非常に興味深い。より詳しく見ていけばいくほど、その複雑さと面白さは増していく。

私が今回紹介したテクノロジーの一部についての詳細、そして2023年の予想についてのこちらの記事をぜひチェックしてほしい。

太陽光地球工学のスタートアップが物議

続いて別の話題。本誌のジェームス・テンプル編集者が先日、公開したあるスタートアップについての記事を紹介しよう。このスタートアップは、気候に変化を加えられる可能性があるとして、大気中に少量の微粒子を放出し始めたという。

これによって、太陽光を宇宙に反射できる可能性があるというのだ。この方法は太陽光地球工学と呼ばれるもので、議論を呼んでいる。私たちが気候変動への対応に取り組む上で、この技術は気温を下げることによって数々の命を救えると主張する専門家もいるが、その副作用の解決は難しい可能性があり、現時点でそれを予測するのは不可能だ。

太陽光地球工学に関しては世界的に議論の的となっており、この考え方に近づくことさえすべきではないと主張する向きもある。だがこれまでは、この分野の研究の支持者でさえも、慎重に実験をし、人々に関与させることが必要だという意見には同意してきた。その流れは、この冷却技術に興味本位で手を出し、それで金儲けをしようと決めたスタートアップによって変わってしまった。

このスタートアップの実験は小規模なものだ。彼らは気象観測気球でわずか数グラムの硫黄を散布しているだけである。この記事へ反応する形でテッド・パーソンがリーガル・プラネット(Legal Planet)に書いているように、この実験自体は規模が小さいということもあり、おそらく違法ではない。

だが、挑発する目的も部分的にはあったと同社の創業者が認めているように、今回の実験はその効果についての理解が欠けているにもかかわらず、企業、国家、あるいは個人がいかに簡単に地球工学に参入できるのかを示している。

さらに知りたい人は、ジェームス・テンプル編集者の記事を参照してほしい。米国政府による、太陽地球工学の研究計画を策定する取り組みについても記事にまとめている。

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