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相棒はチャットGPT、
幻覚剤×AIセラピストの
危うい組み合わせ
Sarah Rogers/MITTR | Getty
人工知能(AI) Insider Online限定
People are using AI to ‘sit’ with them while they trip on psychedelics

相棒はチャットGPT、
幻覚剤×AIセラピストの
危うい組み合わせ

マジックマッシュルームやLSDなどの幻覚剤体験中に、人間のトリップシッターの代わりにChatGPT(チャットGPT)などのAIチャットボットを使う人が米国で急増している。安価で24時間利用可能な「AI相棒」は魅力的だが、専門家は深刻な危険性を警告する。 by Webb Wright2025.08.08

この記事の3つのポイント
  1. 幻覚剤の摂取時にAIチャットボットをトリップシッターとして活用する人が増加
  2. 専門家は訓練を受けたセラピストの代替としてAIを使うことは危険だと警告している
  3. チャットボットは会話を促進するよう設計されており、幻覚剤セラピーの本質と相容れない
summarized by Claude 3

ピーターは寝室にひとりで座り、多幸感の最初の波が電流のように自分の身体を駆けめぐるのを感じた。部屋は真っ暗で、スマホのスクリーンだけが、彼の膝の上でやわらかな青い光を放っていた。まもなく、鋭いパニックが彼を襲った。彼はスマホを手に取り、ChatGPT(チャットGPT)にメッセージを打ち込んだ。「摂りすぎた」と、彼は綴った。

およそ30分前、ピーターは大量(約8グラム)のマジックマッシュルームを飲み込んでいた。2023年当時、カナダ・アルバータ州で修士課程に在籍していた彼は、感情的にどん底の状態だった。飼い猫を亡くし、仕事も失っていたのだ。強烈な幻覚剤(サイケデリックス)体験が、自らの心に立ちこめる暗雲を晴らす助けになるのではと、彼は期待していた。それまで幻覚剤を摂取するときは、いつも友人と一緒か完全にひとりだった。だが今回のトリップでは、人工知能(AI)に見守ってもらうつもりだった。

望み通り、ChatGPTは不安を帯びた彼のメッセージに、心安らぐおなじみのトーンで答えた。「手に負えないと感じているのですね。お気持ちをお察しします」と、ChatGPTは返した。「あなたがいま感じている効果は一過性で、時が経てば消えるものであることを、忘れないでください」。そのあと、気分を落ち着けるために彼にできることをいくつか提案した。深呼吸をする。別の部屋に移動する。マジックマッシュルーム摂取前にChatGPTが彼のために作成したカスタムプレイリストの音楽を聴く(プレイリストには、降伏と受容をテーマにしたテーム・インパラの「Let It Happen(レット・イット・ハプン)」も含まれていた)。

しばらくChatGPTとのやりとりを続けるうちに神経の高ぶりは和らぎ、ピーターは落ち着きを取り戻した。「気分がいいよ」。彼はチャットボットに送った。「本当に安らいでいる」。

ピーター(プライバシーの理由から、この記事では名字を伏せている)は、けっして例外ではない。幻覚剤の影響下にある人を見守る「トリップシッター」(通常はしらふの人間)の代わりとして、AIチャットボットを活用し、体験をネット上に共有する人が増えているのだ。これは、AIをセラピーに用いる動きと、メンタルヘルス問題の軽減を目的とした幻覚剤使用という、2つの文化的トレンドが強烈に交差した現象である。ただし、専門家は、この心理的カクテルは危険になものになりかねないと指摘する。対面での幻覚剤セラピーよりもはるかに安価だが、深刻な事態を招くおそれがある。

強烈なミックス

ここ数年、多くの人々が、生身のセラピストの代役として、AIチャットボットを頼るようになっている。従来のカウンセリング・サービスの高額な費用、アクセスの困難さ、そして社会的スティグマといった問題を避けるためだ。彼らははまた、少なくとも間接的には、AIがメンタルヘルス治療に革命を起こす、というテック業界の有名人物たちに背中を押されてきた。「将来(中略)、非常に効果的で、信じられないほど安価なAIセラピーが登場するだろう」。オープンAIの共同創業者で元主任科学者のイリヤ・サツケバーは2023年にXのポストで述べている。「人々の人生経験の本質的改善につながるはずだ」

一方、シロシビン(マジックマッシュルームの主要な精神活性成分)、LSD、DMT、ケタミンといった幻覚剤のメインストリーム化への関心が急激に高まっている。セラピーとの併用により、こうした物質がうつ病、依存症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった、深刻な精神疾患の治療に役立つ可能性があることを示す臨床研究が、続々と発表されているのだ。それに呼応するように、幻覚剤を非犯罪化する都市が増えており、現在では米国オレゴン州やコロラド州では、幻覚剤を補助的に使った合法的なセラピーも受けられるようになっている。ただし、そうした合法ルートは一般人には手の届かないほど高価だ。たとえばオレゴン州の認可を受けたシロシビン・セラピストは、1回あたり1500〜3200ドルを顧客に請求するのが一般的となっている。

こうした2つのトレンドも熱烈な支持者たちからは、あらゆる社会問題を解決する「万能薬」のように讃えられており、この2つが交差するのは、もはや必然だったようにも思える。

Reddit(レディット)には、ピーターのようにトリップ中の気分をAIチャットボットに打ち明けた人々の体験記がいくつも投稿されている。こうした投稿では、しばしば神秘的な表現が用いられる。あるRedditユーザーはおよそ1年前、「r/Psychonaut」というサブレディットにこう書き込んだ。「AIをこんなふうに使うのは、広大な未知の領域にシグナルを送るような感覚に近い。意識の深淵の中で、意味やつながりを探している気分だ」。

「従来の(トリップ)シッターのような人間的な温かさや共 …

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