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オープンAI「2人の頭脳」
独占インタビューで語った
AGI実現への道筋
Courtesy of OpenAI
人工知能(AI) Insider Online限定
The two people shaping the future of OpenAI’s research

オープンAI「2人の頭脳」
独占インタビューで語った
AGI実現への道筋

サム・アルトマンCEOの華々しい活動の陰で、オープンAI(OpenAI)のイノベーションを実際に牽引しているのは誰なのか。最高研究責任者マーク・チェンと主任科学者ヤクブ・パチョッキ——この2人が同社の研究戦略を決定し、AGI実現への道筋を描いている。本誌の独占インタビューで、そのすべてを語った。 by Will Douglas Heaven2025.08.05

この記事の3つのポイント
  1. オープンAIの技術開発を牵引するマーク・チェンとヤクブ・パチョッキにインタビュー
  2. コーディングと数学での人間超越がAGI実現の鍵、直近の成果に確かな手応え
  3. AGI到達には「推論モデルの限界突破」と「長期自律学習」が課題
summarized by Claude 3

オープンAI(OpenAI)はここ数年、ワンマンブランドのような様相を呈していた。ショービジネス的なスタイルと派手な資金調達により、CEOのサム・アルトマンは、社内の他の著名人物たちの存在感をかき消してきた。アルトマンはCEO解任騒動を経ても再びトップに返り咲き、かえって以前よりも有名になった。しかし、このカリスマ的なフロントマンの背後に目を向けることで、同社の進むべき道がより明確に見えてくる。結局のところ、オープンAIの名声の基盤となっている技術を実際に構築しているのは、アルトマンではないのだ。

その責任を担っているのは、オープンAIの研究部門を率いる2人、最高研究責任者(CRO)のマーク・チェンと主任科学者のヤクブ・パチョッキである。この2人は、グーグルをはじめとする強大なライバル企業に対して、オープンAIが一歩先を行き続けられるよう役割を分担している。

私は最近、チェンとパチョッキがロンドンを訪れた際に独占インタビューの機会を得た。ロンドンは、オープンAIが2023年に初めて海外オフィスを設置した場所でもある。この2人に対し、研究と製品開発の間に存在する本質的な緊張関係をどのように管理しているのかを尋ねた。また、彼らがなぜコーディングと数学がより高性能な汎用モデルの鍵であると考えているのか、AGI(汎用人工知能)について語る際に本当に意味するところは何なのか、そして、共同創業者で元主任科学者のイリヤ・サツケバーが設立した「スーパーアライメント(superalignment)チーム」に何が起きたのかについても聞いた。このチームは、将来登場し得る超知能が暴走しないよう制御するために作られたが、サツケバーの退社後まもなく解散した。

とりわけ私が知りたかったのは、ここ数か月で最大のリリースとなるGPT-5に向けて、2人がどのような考えを持っているかだった。

次世代モデルは8月にリリースされるとの報道も出ている。オープンAI(正確にはアルトマン)の公式な説明によれば、GPT-5は「近日中」にリリースされるという。期待は高まっている。GPT-3、GPT-4でオープンAIが達成した飛躍的な進歩は、この技術で何が可能かという認識の水準を大きく引き上げた。しかし、GPT-5のリリースが遅れていることで、オープンAIが社内外の期待に応えるモデルの構築に苦戦しているのではないかという噂も生じている。

とはいえ、ここ数年業界の議題をリードしてきた企業にとって、期待のコントロールは仕事の一部である。そして、その議題を社内で設定しているのがチェンとパチョッキである。

ツインピークス

オープンAIのロンドンオフィスは、バッキンガム宮殿から東に数百メートル進んだセント・ジェームズ・パークにある。しかし、私がチェンとパチョッキに会ったのは、キングス・クロス近くのコワーキングスペースの会議室だった。オープンAIはこの場所を、ロンドンのテック街の中心にある拠点として活用している(グーグル・ディープマインドやメタの拠点がすぐ近くにある)。オープンAIの研究コミュニケーション責任者であるローレンス・フォーコネットが、テーブルの端にノートパソコンを広げて座っていた。

マーク・チェンは栗色のポロシャツ姿で、整った身なりに育ちの良さを感じさせる雰囲気だった。報道対応にも慣れており、記者との会話にも自然に応じていた(「GPT-4oの紹介」動画でチャットボットと戯れている人物が彼である)。一方のパチョッキは、黒地に象のロゴが入ったTシャツ姿で、テレビドラマに出てくるハッカーのような風貌だった。話すときには、手元をじっと見つめることが多い。

しかしこの2人は、見た目以上に密接なパートナーシップを築いている。パチョッキは、自分たちの役割をこう説明した。チェンは研究チームの組織化とマネジメントを担っているという。「私は研究ロードマップの策定と長期的な技術ビジョンの確立を担当しています」。

「ただし、役割は柔軟性があります」とチェンは補足する。「私たちは2人とも研究者であり、技術的な糸をたぐる役割を担っています。何か気づきがあれば、それを引っ張って解決するのが私たちの仕事なのです」。

チェンは、2018年にオープンAIに入社する以前、ウォール街のジェーン・ストリート・キャピタル(Jane Street Capital)でクオンツトレーダーとして勤務していた。同社では、先物取引向けの機械学習モデルを開発していた。オープンAI入社後は、画期的な画像生成モデル「DALL-E(ダリー)」の開発を主導し、その後GPT-4に画像認識機能を統合するプロジェクトにも取り組んだ。さらに、GitHub Copilot(ギットハブ・コパイロット)を支える生成コーディング・モデル「Codex(コーデックス)」の開発も主導した。

パチョッキは、2017年に理論計算機科学の学術研究者としてのキャリアを離れ、オープンAIに加わった。そして2024年、イリヤ・サツケバーの後任として主任科学者に就任した。サツケバーとともに、科学・数学・コーディングなどの複雑な課題を解決するために設計された「推論(reasoning)モデル」と呼ばれるモデル群、特に「o1」「o3」の主要設計者である。

私たちが話をしたとき、オープンAIの技術が相次いでコンテストで好成績を収めた直後で、2人は興奮気味だった。

7月16日、オープンAIの大規模言語モデルの1つが、世界屈指のプログラミングコンテスト「AtCoder World Tour Finals」で2位に入賞した。7月19日には、オープンAIが、自社のモデルが2025年国際数学オリンピックで金メダル相当の成績を収めたと発表した。

この数学の成果が大きく報じられたのは、オープンAIの快挙だっただけでなく、ライバルのグーグル・ディープマインドも同じスコアを達成したことを2日後に明らかにしたためだ。グーグル・ディープマインドは大会のルールに従い、主催者による採点が終わるのを待ってから発表したが、オープンAIは事実上、自社で解答を採点した形となった。

チェンとパチョッキにとって、これらの結果こそがすべてを物語っている。ちなみに、2人が特に興奮していたのは、数学よりもプログラミングの勝利だった。「この成果はかなり過小評価されていると思います」とチェンは語った。国際数学オリンピックで金メダルを取っても、全体では上位20位〜50位に入る程度だという。一方、AtCoderではオープンAIのモデルが2位に入った。「人間のパフォーマンスという、まったく新たな領域に踏み込むことができたのは前例のないことです」。

リリース、リリース、リリース!

オープンAIの社員は今でも、自分たちは研究機関で働いているのだと言いたがる。しかし、3年前にChatGPT(チャットGPT)をリリースする以前とは、会社の様相は大きく変わった。オープンAIは現在、世界最大かつ最も資金力のあるテクノロジー企業と競争しており、企業評価額は3000億ドルに達している。もはや、限界に挑むような研究や注目を浴びるデモだけでは通用しない。製品を世に出し、人々の手に届ける必要がある。そして実際に、それをやっている。

オープンAIは、GPT-4シリーズの大規模アップデート、画像・動画生成モデルのリリース、そしてChatGPTとの音声会話機能の導入など、次々と新製品を投入してきた。6か月前には、「o1」のリリースで新たな「推論モデル」の波を起こし、間もなく「o3」も続いた。そして直近では、ブラウザーを操作できるエージェント「O …

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