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迫る「知能爆発」の兆し、
AIによるAIの進化は
5つの領域で起きている
Sarah Rogers/MIT Technology Review | Getty Images
人工知能(AI) Insider Online限定
Five ways that AI is learning to improve itself

迫る「知能爆発」の兆し、
AIによるAIの進化は
5つの領域で起きている

人工知能(AI)が自己改善を繰り返し、人間を凌駕する「知能爆発」を現実化させる動きが進んでいる。訓練の自動化からハードウェアの最適化まで、大規模言語モデル(LLM)はすでにAIそのものの進歩を加速させており、今日のAIにおける最も重要なトレンドとなるかもしれない。 by Grace Huckins2025.08.13

この記事の3つのポイント
  1. AIが自分でコード作成・チップ最適化・研究論文執筆など5領域で自己改善を実現
  2. メタが「超知能」目指して自己改善型のAI開発に注力するなど、競争が激化
  3. 専門家の中には「知能爆発」の実現性が高まっているとの見方も
summarized by Claude 3

メタ(Meta)のマーク・ザッカーバーグCEOは7月末、同社が人間よりも賢い人工知能(AI)の実現を目指していることを宣言した。ザッカーバーグCEOには目標を達成するための秘策があるようだ。その第一の要素は、優れた人材だ。報道によれば、億ドル単位のオファーでトップ研究者をメタ・スーパーインテリジェンス・ラボ(Meta Superintelligence Labs)に引き抜こうとしているという。第二の要素はAIそのものである。ザッカーバーグCEOは最近の決算説明会で、メタ・スーパーインテリジェンス・ラボが自己改善型AI、すなわち自らより高いレベルの性能へと向上できるシステムの構築に注力すると述べた。

この自己改善の可能性こそが、AIを他の革新的技術と一線を画すものにしている。CRISPR(クリスパー)はDNA配列の標的化を自ら改善することはできず、核融合炉は商業化の方法を自ら見いだすことはできない。しかし、大規模言語モデル(LLM)は、自らが動作するコンピューターチップの最適化や、他のLLMの低コストかつ効率的な訓練、さらにはAI研究のための独創的なアイデアの創出さえ可能である。そして、LLMはこれらすべての領域ですでに一定の進歩を遂げている。

ザッカーバーグCEOによれば、AIの自己改善は、人類を日々の単調な労働から解放し、卓越した能力を持つ人工コンパニオンの支援を受けながら、最高の目標を追求できる世界をもたらす可能性がある。しかし、非営利のAI研究団体であるMETRのクリス・ペインター政策部長は、自己改善は根本的なリスクも伴うと指摘する。AIが自らの能力開発を加速させれば、ハッキング、兵器設計、人間の操作能力を急速に高める可能性があるという。一部の研究者は、この正のフィードバックループが「知能爆発」、すなわちAIが急速に人間の能力をはるかに凌駕するレベルに到達する可能性を指摘している。

とはいえ、自己改善型AIの影響を真剣に考えるのに、悲観論者である必要はない。オープンAI(OpenAI)、アンソロピック(Anthropic)、グーグル(Google)はいずれも、化学兵器やサイバーセキュリティといった既知のリスクカテゴリーに加え、自動化されたAI研究についてもAIの安全性(AIセーフティ)フレームワークに盛り込んでいる。「自己改善型は強力なAIへの最速の道だと考えています」。ブリティッシュコロンビア大学の教授(コンピューター科学)で、グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)の上級研究顧問を務めるジェフ・クルーンは述べる。「おそらく、私たちが最も考えるべき重要なことです」。

同様に、クルーン教授はAI研究開発の自動化には計り知れない利点があると指摘する。人間だけでは、将来AIががんや気候変動といった途方もない課題に取り組むことを可能にするような革新や改良を思いつくことはできないかもしれない。

現時点では、人間の知恵が依然としてAI進歩の主な原動力である。そうでなければ、メタが自社のスーパーインテリジェンス・ラボに研究者を引き寄せるために、これほど法外な額のオファーを提示することはなかったはずだ。一方で、AIはすでに自らの進化に寄与しており、今後数年間でさらに重要な役割を担うことになるだろう。以下に、AIが自らを進化させている5つの方法を紹介しよう。

1. 生産性の向上

現在、LLMがAI開発に果たしている最も重要な貢献は、最も平凡なものかもしれない。「最大の要素はコーディング支援です」。こう話すのは、非営利のAI研究団体であるフォアソート(Forethought)のトム・デイビッドソン上級特別研究員だ。Claude Code(クロードコード)やCursor(カーソル)といった、エンジニアによるソフトウェア開発の迅速化を支援するツールは、AI業界全体で人気を集めている。グーグルのサンダー・ピチャイCEOは2024年10月、同社の新しいコードの4分の1がAIによって生成されたと発表した。また、アンソロピックは最近、従業員がClaude Codeを活用する多様な方法を文書化した。こうしたコーディング支援によってエンジニアの生産性が向上すれば、新しいAIシステムをより迅速に設計、テスト、導入できるようになる。

しかし、これらのツールがもたらす生産性向上の程度は依然として不透明だ。もしエンジニアがAIシステムのエラー修正に多くの時間を費やしているのであれば、たとえ手作業でコードを書く時間が減っても、実際の仕事量は増えない可能性がある。METRの最近の調査では、AIコーディング・アシスタントを使うと、開発者はタスク完了に平均して約20%長く時間がかかることがわかった。ただし、この調査を共同で主導したMETRの技術スタッフであるネイト・ラッシュは、この調査が対象としたのは、大規模なコードベースを扱う非常に経験豊富な開発者に限られると指摘する。そのため、実験用の簡単なスクリプトを作成するAI研究者には結果は当てはまらない可能性がある。

ラッシュによれば、最先端の研究機関で同様の調査を実施すれば、コーディング・アシスタントが最先端のAI研究者の生産性を向上させているかどうかを、より明確に把握できる可能性があるという。ただ、そのような調査はまだ実施されていない。一方で、ソフトウェア・エンジニアの自己申告をそのまま受け入れるのも不十分である。METRが調査した開発者たちは、AIコーディング・ツールによって効率が上がったと感じていたが、実際には作業速度が大幅に低下していたのだ。

2. インフラの最適化

コードをすばやく書けても、実行までに何時間、何日、あるいは何週間も待たなければならないのでは、大きな利点とは言えない。特にLLMの訓練は、苦痛なほど時間のかかるプロセスであり、最先端の推論モデルでさえ、1つの応答を生成するのに数分を要することがある。これらの遅延はAI開発における大きなボトルネックであると、スタンフ …

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