ようやく出てきた生成AIの電力消費、残された3つの疑問
これまで公表されていなかったAIモデルの電力消費が今夏、AI企業から相次いで発表された。だが、AIデータセンターの消費電力が急上昇している現在、依然として問題は残っている。 by James O'Donnell2025.09.15
- この記事の3つのポイント
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- AI企業が2025年夏にクエリ単体のエネルギー消費量を初公開し、透明性が向上した
- AI電力需要が異常増加し、2028年には全米世帯22%に相当するとの予測
- AIバブル懸念と投資収益率低迷でエネルギー負荷の永続性に不確実性が残る
2025年に入って、AI担当記者である私は、気候担当のケーシー・クラウンハート記者と共同で、人工知能(AI)の気候・エネルギー負荷について6カ月間調査した。その際、私たちの目標として捉えるようになった一つの数値がある。それは、ChatGPT(チャットGPT)やGemini(ジェミニ)のような主要なAIモデルが、単一の応答を生成する際にどれだけのエネルギーを消費するかという数値である。
この基本的な数値は、AIに電力を供給する競争がホワイトハウスや国防総省にまで拡大し、3年後にはAIが全米世帯の22%に相当する電力を消費する可能性があるという予測が示されても、依然として把握困難であった。
5月に公開した記事で説明したように、この数値を見つけることにおける問題点は、AI企業しかその数値を知らないということであった。私たちグーグル、オープンAI(OpenAI)、マイクロソフトに執拗に問い合わせたが、各社とも数値の提供を拒否した。私たちが取材したエネルギー網へのAIの影響を研究する研究者たちは、このことを実際に運転することなく車の燃費を測定しようとすることに例え、エンジンサイズの噂や高速道路を走る音に基づいて推測するようなものだと述べた。
しかし、記事を公開した後の今夏、奇妙なことが起こり始めた。6月、オープンAIのサム・アルトマンCEO(最高経営責任者)は、ChatGPTの平均的なクエリが0.34ワット時のエネルギーを使用すると記した。7月、フランスのAIスタートアップであるミストラル(Mistral)は直接的な数値は公表しなかったが、生成される地球温暖化ガス排出量の推定値を発表した。8月にはグーグルが、Geminiが1つの質問に答えるのに約0.24ワット時のエネルギーを使用することを明らかにした。グーグルとオープンAIの数値は、本誌が中規模AIモデルについて推定したものに近かった。
では、この新たな透明性により、私たちの仕事は完了したのだろうか。ついに目標を達成したのか、もしそうであれば、AIの気候への影響を研究する人々にとって次に何が起こるのか。私は複数の情報源に連絡を取り、話を聞いてみた。
数値は曖昧でチャットしか対象にしていない
彼らが最初に言ったのは、テック企業らが今夏公表した数値には多くの欠落があるということであった。
例えば、オープンAIの数値は詳細な技術論文ではなく、アルトマンCEOのブログ投稿で明かされたものである。どのモデルを指しているのか、エネルギー使用量がどのように測定されたのか、どの程度変動するのかなど、多くの未回答の疑問を残している。クラウンハート記者が指摘するように、グーグルの数値はクエリあたりのエネルギー量の中央値を指しており、推論モデルを使って困難な問題を「考え抜く」場合や、非常に長い応答を生成する場合など、よりエネルギーを要求するGeminiの応答については把握できない。
これらの数値はまた、チャットボットとのやり取りのみを対象としており、人々がますます利用するようになっている生成AIの他の用途は含まれていない。
「動画生成や画像生成がより顕著になり、より多くの人々に使用されるようになるにつれ、異なるモダリティからの数値とそれらがどのように比較されるかが必要です」と、AIプラットフォームであるハギング・フェイス(Hugging Face)のAI・気候責任者であるサーシャ・ルッチオーニ博士は述べる。
これはまた重要である。なぜなら、チャットボットに質問する際の数値は、予想通り、間違いなく小さく、電子レンジがわずか数秒で使用するのと同じ量の電力だからである。これが、AI・気候研究者が個人のAI使用が重大な気候負荷を生み出すと言わない理由の一部である。
AIのエネルギー需要の完全な説明、つまり個別のクエリに答えるために使用されるものを超えて、気候への完全な正味影響を理解するためには、これらすべてのAIがどのように使用されているかに関するアプリケーション固有の情報が必要である。気候・エネルギーグループのアナリストであるケタン・ジョシは、研究者は通常他の産業からそのような具体的な情報を得ることはないと認めるが、この場合はそれが正当化されるかもしれないと述べる。
「データセンターの成長率は議論の余地なく異常です」とジョシは言う。「企業はかなり多くの精査を受けるべきです」。
エネルギー効率について疑問がある
AIに数十億ドルの投資をしている企業は、このエネルギー需要の増加を持続可能性目標と両立させることに苦労している。今年5月、マイクロソフトは主にAIのために2020年以降排出量が23%以上急増したと述べた一方で、同社は2030年までにカーボン・ネガティブになると約束し、「カーボン・ネガティブへの私たちの旅は短距離走ではなくマラソンであることが明らかになりました」と記した。
テクノロジー企業はしばしば、やがてAI自体がさまざまなものを効率化し、気候にとって正味プラスになるだろうと主張し、AIによる排出負荷を正当化する。適切なAIシステムがあれば、建物のより効率的な暖房・冷房システムを設計したり、電気自動車バッテリーに必要な鉱物の発見を支援したりできるかもしれない、という考えだ。
しかし、AIがこうしたことに使用されて役立ったという兆候はまだない。企業は例えばメタン排出ホットスポットを見つけるためにAIを使用することについて逸話を共有している。だが、これらの成功がAIブームでビッグテックが生み出した電力需要と排出量の急増を上回るかどうかを知るのに十分な透明性を提供していない。その間にも、より多くのデータセンターが計画され、AIのエネルギー需要は上昇し続けている。
「AIバブル」についての疑問
AIの「エネルギー方程式」の大きな未知数の一つは、社会がテクノロジー企業の計画に組み込まれているレベルでAIを採用するかどうかである。オープンAIは、ChatGPTが1日25億のプロンプトを受信していると述べている。この数値と他のAI企業の同じような数値は、今後数年間で上昇し続ける可能性がある。2024年にローレンス・バークレー国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory)が発表した予測では、その場合、2028年までにAI単体で全米世帯の22%に相当する電力を年間消費する可能性がある可能性を示している。
この夏にはまた、業界の楽観主義を否定する減速の兆候も見られた。オープンAIのGPT-5の発表は、同社自身によってさえも、大部分が失敗と見なされ、その失敗により批評家たちはAIが壁にぶつかっているのではないかと疑問視するようになった。マサチューセッツ工科大学(MIT)のグループが企業の95%が大規模なAI投資に対してリターンを得ていないことを発見すると、株価は低迷した。AI専用データセンターの拡張は、特にAI企業の収益が依然として捉えどころがない中で、回収困難な投資かもしれない。
AIの将来のエネルギー負荷に関する最大の未知数の一つは、単一のクエリがどれだけ消費するかや、開示可能な他の数値ではない。それは、需要が企業が構築している規模に到達するか、それとも技術が自らの誇大宣伝の下で崩壊するかである。その答えが、今日におけるシステムの拡大が私たちのエネルギーシステムの永続的な変化になるか、短期間のスパイクになるかを決定するだろう。
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- ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
- 自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。