チャットGPTに「学習モード」、答えを教えずヒントを提示
オープンAIは、ChatGPT(チャットGPT)に「学習モード(Study Mode)」を追加する。学生が単に答えを与えられるのではなく、トピックを段階的に理解できるように支援する。 by James O'Donnell2025.07.30
- この記事の3つのポイント
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- オープンAIが大学生向けのChatGPT学習モードを開始した
- ソクラテス式問答法で学生と対話し理解度を確認する仕組みである
- 誤情報を含むリスクはあるものの学生からは肯定的な評価を得ている
オープンAI(OpenAI)は、ChatGPT(チャットGPT)の大学生向けバージョンである「学習モード(Study Mode)」を開始する。学習モードは、検索ツールのように動作するのではなく、親しみやすく、常に利用可能な家庭教師のように振る舞うことを目指す。9月の新学期開始にあわせ、人工知能(AI)を教室により深く組み込もうとする同社の広範な取り組みの一環である。
オープンAIの記者向けデモンストレーションでは、学生がゲーム理論のような学術的な内容について、学習モードに質問した際に何が起こるかが示された。このチャットボットは、まず学生に何を知りたいのかを尋ね、その後、両者が体系的に答えに向かって共に取り組むような対話を構築しようとする。オープンAIによると、40以上の教育機関の教育学の専門家の協力を得て開発されたという。
オープンAIのテストグループに参加していた、プリンストン大学、ウォートン校、ミネソタ大学の一部の学生たちは、学習モードについて肯定的な感想を述べ、理解度の確認や自分のペースに合わせてくれる点で非常に優れていると語った。
オープンAIが学習モードに組み込んだ学習アプローチは、部分的にソクラテス式問答法に基づいており、適切な手法であるように思えると、AIリテラシー教育のカリキュラム作成に取り組んだニューヨークの教育者、クリストファー・ハリスは述べた。こうしたアプローチによって、教育者が学生にAIの使用を許可したり、奨励したりすることへの信頼感が高まる可能性があるいう。「教授たちは、これを学生が課題でカンニングをするための手段ではなく、学習を支援するために協力するツールとして見るようになるでしょう」。
学習モードの背後には、より野心的なビジョンがある。オープンAIが最近、主要な教職員組合と提携したことで示されたように、同社は現在、チャットボットをカンニングの道具ではなく、個別学習の支援ツールとして再定義しようとしている。この構想の一部として、AIが高額な人間の家庭教師のように振る舞うことが期待されており、現時点ではそのような家庭教師を雇えるのは、ごく一部の裕福な家庭に限られている。
「学習リソースや質の高い教育へのアクセスがある層と、歴史的に取り残されてきた層との格差を縮めていくことができます」。オープンAIの教育部門責任者であるリア・ベルスキーはこう述べている。
ただ、学習モードを教育の平等化ツールとして描くことは、一つの明白な問題を覆い隠している。実際には、このツールは学術教科書や公認教材だけで訓練されているわけではない。むしろ、従来のチャットGPTに新しい対話フィルターを加え、学生への応答を「答えを少なく、説明を多く」という方向に調整したものである。
このAIチューターは、必要な教科書だけでなく、レディット(Reddit)、タンブラー(Tumblr)、そしてWebの最も深いところに投稿された不正確な説明までも読んでいる人間の家庭教師のようなものだ。そしてAIの仕組み上、正しい情報と誤った情報を見分けることは期待できない。
教授が学生にこのツールの使用を奨励すれば、学生が誤ったアプローチで問題に取り組んでしまうリスクがある。さらに悪いことに、でたらめまたは完全に虚偽の教材を学ばされる危険性もある。
このような制限を踏まえ、私はオープンAIに対して、学習モードが特定の科目に限定されているのかを尋ねた。同社は「いいえ」と回答し、学生は通常のチャットGPTと同じように、あらゆる話題について学習モードで議論できると述べた。
特定の科目では1時間あたり200ドルを超えることもある家庭教師の利用は、一般的には裕福な一部の層に限られている。AIモデルがその恩恵を大多数の人々に広げられるという考えには魅力がある。実際、AIモデルが個人の学習スタイルや背景に適応できることを示す少なくともいくつかの初期研究によって裏付けられている。
しかし、このような改善には見えにくい代償が伴う。学習モードのようなツールは、少なくとも現時点では、大規模言語モデルの人間らしい会話スタイルを利用する一方で、その根本的な欠陥を修正していない。
オープンAIもまた、学習モードでは、答えを求めてイライラした学生が通常のチャットGPTに戻るのを防げないことを認めている。「もし誰かが学習を回避し、答えだけを得て楽な道を取りたいと考えたら、それは可能です」とベルスキーは語っている。
それでも学生たちは、学習モードの良いところの一つは、ベイズ定理について教科書を何度も読み返すよりも、いつも励ましてくれるチャットボットと一緒に勉強する方が、単純に楽しいという点だと述べている。「あっ、待って、こんな小さなことでも学べるんだ、っていう報酬信号みたいなものがあるんです」と、テストに参加したプリンストン大学の学生マギー・ワンは語っている。このツールは現在無料であるが、ウォートン校の学生プラジャ・ティクーは「たとえ有料でも、これは絶対に使いたいと思えるものです」と話している。
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- ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
- 自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。