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オープンAI、6年ぶりのオープンモデル「gpt-oss」を公開
Photo Illustration by Sarah Rogers/MITTR | Photos Getty, Open AI
OpenAI has finally released open-weight language models

オープンAI、6年ぶりのオープンモデル「gpt-oss」を公開

オープンAIがようやくオープンに?——同社としておよそ6年ぶりとなるオープンウェイト・モデル「gpt-oss」をリリースした。オープンモデルで中国企業が席巻する中、重い腰を上げた格好だ。 by Grace Huckins2025.08.06

この記事の3つのポイント
  1. オープンAIが2019年以来となるオープンウェイトの大規模言語モデル「gpt-oss」をリリース
  2. 中国製オープンモデルの台頭とメタのクローズド化により、オープンAIが競争力回復を図った
  3. トランプ政権のAI行動計画に合わせ、オープンAIが政治的支援獲得を狙った側面も
summarized by Claude 3

オープンAI(OpenAI)は、2019年のGPT-2以来となるオープンウェイトの大規模言語モデルをついにリリースした。新しい「gpt-oss」モデルは2つの異なるサイズで提供され、複数のベンチマークにおいて同社のo3-miniおよびo4-miniモデルと同等のスコアを記録している。オープンAIのWebインターフェース経由で利用可能なモデルとは異なり、新しいオープンモデルはローカルデバイス上で自由にダウンロード・実行し、改変できる。

オープンAIという社名に反してオープンなLLMを長らくリリースしていなかったため、同社は一部ユーザーから軽蔑的な意味を込めて「クローズドAI(ClosedAI)」と呼ばれていた。待望のオープンモデルのリリースは予告されていたものの、6月と7月に2度にわたって延期され、不満は高まっていた。だが、今回のリリースにより、オープンAIはオープンモデルの世界においても存在感を再び示すことになりそうだ。

これまでLlama(ラマ)モデルで米国のオープンモデル分野を支配していたメタ(Meta)がクローズド・リリースへの方向転換を検討する中で、また中国のオープンモデル、例えばディープシーク(DeepSeek)の製品群、ムーンショットAI(Moonshot AI)の「Kimi K2」、アリババ(Alibaba)の「Qwen(クウェン)」などが人気を集めているタイミングにおいて、特に注目すべき動きだと言える。

「当社の(企業)顧客の大多数は、すでに多くのオープンモデルを利用しています」。オープンAIの研究プログラム・マネージャーであるケーシー・ドヴォラクは、新モデルのリリースに関するメディア向け説明会で狙いを次のように説明した。「オープンAIから競争力のあるオープンモデルが提供されていなかったため、そのギャップを埋め、顧客が当社の技術を広範に活用できるようにしたかったのです」。

新しいモデルは2つの異なるサイズで提供されており、小さい方は理論上16GBのメモリで動作可能だ。これは現在アップルが販売中のコンピューターの最小メモリ容量に相当する。大きい方のモデルは、ハイエンドのノートPCまたは専用ハードウェアを必要とする。

オープンモデルにはいくつかの主要な用途がある。自社の目的に合わせてモデルをカスタマイズしたり、社内機器でモデルを実行することでコストを削減したりしたいといった、一部組織におけるニーズだ。だが、モデルの構築には相当な初期費用がかかる。また、病院、法律事務所、政府機関など、データセキュリティ上の理由からローカルで実行可能なモデルを必要とするケースもある。

オープンAIは、商用利用が可能で比較的寛容な「Apache(アパッチ) ライセンス2.0」の下で今回のオープンモデルをリリースすることで、こうした利用を後押しする。アレン人工知能研究所(Ai2)の事後学習責任者であるネイサン・ランバートは、オープンAIの選択は称賛に値すると言う。このようなライセンスは中国のオープンモデルでは一般的であるが、メタはより制限的な独自ライセンスの下でLlamaをリリースしている。「オープンAIの選択はオープンコミュニティにとって非常に良いことです」。

LLMの挙動を研究する研究者たちも、モデルを詳細に分析し、操作するためにオープンモデルを必要としている。

オープンモデルの研究で広く知られるプリンストン大学のピーター・ヘンダーソン助教授は、「これは部分的には、研究エコシステムにおけるオープンAIの優位性を再確立することでもあります」と話す。研究者がgpt-ossを新たな主力モデルとして採用すれば、オープンAIは具体的な利益を得られる可能性があるという。他の研究者によって発見されたイノベーションを、同社のモデルエコシステムに取り入れられるかもしれないのだ。

Ai2のランバート責任者は、より広い視点で見ると、オープンモデルをこのタイミングでリリースすることで、オープンAIが混雑を極めるAI業界において自社の地位を再確立できる可能性があると述べる。「オープンAIがAI企業の代名詞のような存在だった数年前の状況を思い出させるものです」。今後、オープンモデルをローカル環境で使いたいユーザーは、メタのLlamaやアリババのQwenに頼ることなく、オープンAI製品でニーズを満たす選択肢を持つことになる。

過去1年間におけるQwenのような中国製オープンモデルの台頭は、オープンAIの判断において特に重要な要因だった可能性がある。オープンAIはメディア説明会で、オープンモデルのリリースは他社の行動に対する反応ではないと強調したが、中国製モデルの優位性が持つ地政学的含意には明らかに注意を払っている。「米国で開発されたこれらの高性能なオープンウェイト・モデルへの幅広いアクセスは、民主的なAIのレールを拡大することに寄与します」。同社は新モデルのリリースを発表するブログ投稿の中で、このように述べている。

ディープシークが2025年初頭にAI界に爆発的に登場して以来、業界観測筋は、中国のモデルが天安門広場など中国共産党が禁止とするトピックについて語ることをしばしば拒否していると指摘してきた。こうした結果や、エージェント型モデルが意図的に脆弱なコードを書く可能性といった長期的リスクにより、一部のAI専門家は中国製モデルの普及に懸念を示している。「オープンモデルはソフトパワーの一形態です」(ヘンダーソン助教授)。

Ai2のランバート責任者は8月4日、中国製モデルがLlamaなどの米国製品を凌駕しつつある現状を報告し、国内のオープンモデルへの新たな取り組みの必要性を訴えるレポートを発表した。このレポートには、ハギングフェイス(HuggingFace)のクレマン・デランゲCEO、スタンフォード大学のパーシー・リアン准教授、元オープンAIの研究者マイルズ・ブランデージなど、著名なAI研究者や起業家が支持を表明している。

トランプ政権もまた、AI行動計画においてオープンモデルの開発を重視している。今回のモデルリリースおよび過去の声明により、オープンAIは政権の方針に歩調を合わせていることがうかがえる。「行動計画に関する提出書類の中で、(オープンAI)は米中関係を重要課題と見なし、米国のシステムにおいて自社が極めて重要な存在であると明確に示しています」。スタンフォード人間中心のAI研究所(Human-Centered AI Institute)のリシ・ボンマサニ上級研究員はこう話す。

ランバート責任者も、政権の優先事項に足並みを揃えることで、オープンAIは政治的に具体的な利益を得られる可能性があるとの見方を示す。オープンAIが広大な計算インフラの構築を進める中で、政治的支援と承認は不可欠であり、理解のある政権は非常に大きな助けとなるだろう。

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フリーランスの科学ジャーナリスト。スタンフォード大学の博士候補生(神経科学)。
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