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気候テック10:インドのEV化は二輪車から、アザー・エナジーの挑戦
Courtesy of Ather Energy
2025 Climate Tech Companies to Watch: Ather Energy and its premium e-scooters

気候テック10:インドのEV化は二輪車から、アザー・エナジーの挑戦

インドの電動スクーターメーカーであるアザー・エナジーは、ソフトウェアスタックからハードウェアまで、ほぼすべてを社内で設計・開発している。高級車種で売り上げを立てる一方で、より安価なリン酸鉄リチウムバッテリーへの移行も始めている。 by Nilesh Christopher2025.10.12

この記事の3つのポイント
  1. アザー・エナジーはファミリー向け電動スクーター「Ather Rizta」を発表し、発売1年で10万台以上を販売した
  2. インドでは2億台の車両の70%以上が二輪車で、電動化により輸送排出量の3分の1削減が可能とされる
  3. 政府補助金削減と競合激化の中、同社は安価なLFPバッテリー採用と年産50万台体制構築を目指している
summarized by Claude 3

インドで登録されている2億台の車両のうち、70%以上が二輪車である。台頭する中間層向けの電動スクーターの製造を手掛けるアザー・エナジー(Ather Energy)は、高汚染源でありガソリンを大量消費するモデルから通勤者が脱却するのに貢献するかもしれない。

テスラ(Tesla)やBYD(比亜迪)の自動車販売が世界の地域で電気自動車(EV)の普及を牽引した一方で、インドでは二輪車がグリーン・エネルギー転換をリードしてきた。最も初期に「純粋な」電動スクーターを開発・販売したメーカーの1つとして、アザー・エナジーはインド全土でマイクロモビリティEVの普及を推進し、炭素排出車両からの転換を後押ししてきた。

2018年、同社はタッチスクリーン・ダッシュボード、内蔵ナビゲーション、無線によるソフトウェア更新など、二輪車では前例のない機能を備えた高価なスポーツ・スクーターを発表した。現在、同社は2つの製品ラインを展開している。スポーティな高性能スクーターの「Ather 450」と、日常使用に適したファミリー向けのスクーター「Ather Rizta(アザー・リズタ)」である。

成功の核となっているのは、製品品質とライダー体験への注力である。アザー・エナジーは独自のソフトウェアを二輪車に搭載し、ハードウェアの大部分を自社製造しており、IPO(新規株式公開)による収益の多くを研究開発に投資したい考えだ。


基本データ

  • 業界:電気自動車
  • 設立:2013年
  • 本社:インド、ベンガルール
  • 注目すべき事実:取得したスクーターをリブランドしたり、中国からEVを輸入したりして販売する競合他社とは異なり、アザー・エナジーはソフトウェア・スタックからハードウェアまで、ほぼすべてを社内で設計・開発している。

潜在的なインパクト

個々の二輪車が排出する温室効果ガスの量は、自動車や大型車両と比べてはるかに少ない。だが、インドの道路を走るスクーターの台数は膨大に積み上がっている。二輪車からの排出量はインドの輸送排出量の約3分の1を占めており、電動化が成功すれば、その割合を2050年までにわずか3%にまで削減できる可能性がある。ガソリンを大量消費するスクーターから電動スクーターへの移行に成功すれば、インドは2070年までの炭素排出実質ゼロの目標により近づくだけでなく、汚染された空気を吸うことで国内年間約150万人の死者が出ている同国の健康問題も軽減できる可能性がある。同時に、国際的な市場プレゼンスの構築にも貢献するだろう。

2024年半ば、アザー・エナジーはAther Riztaを発表した。これは大きなシート、より多くの収納スペース、高速充電を備えたゆったりしたファミリー向けのスクーターで、発売から1年で10万台以上を販売した。オラ・エレクトリック(Ola Electric)などの十分な資金力を持つ競合他社に追いつくため、アザー・エナジーは2027年3月までに年間50万台の二輪車生産を目指す第3工場の建設に1億500万ドルを投じている。同社はまた、充電ネットワークを約4000カ所にまで拡大し、ネパールやスリランカを含む新しい市場に進出している。

留意点

過去5年間、州および連邦政府のインセンティブに後押しされ、インドでは電気自動車の競争が激化した。TVSモーター(TVS Motor)やバジャージ・オート(Bajaj Auto)などの既存自動車メーカーを含む自動車・スクーターメーカーが市場獲得競争を繰り広げた。両社はその後、広範な販売網を活用してより安価な電動スクーターを販売し、より速く規模を拡大することで、アザー・エナジーを追い抜いた。両社合わせて、インドの電動スクーター市場の40%のシェアを獲得している。

一方、インドでの電気自動車の普及は予想よりも緩やかに進んでいる。インドでの電気自動車の販売台数は2024年に自動車全体の販売の7.6%で、政府の2030年までに30%という目標達成には程遠い状況である。

アザー・エナジーがインドの輸送排出量に真のインパクトを与えるには、大幅な規模拡大が必要だ。同社は小売拠点を700店舗に倍増させ、中小都市への拡大に継続的に取り組んでいる。しかし、地政学的要因が干渉する可能性がある。4月に発表された米国関税への報復として中国が実施した重要なレアアース鉱物の輸出禁止は波及効果を引き起こし、アザー・エナジーは8月に、モーター用の磁石の確保が困難になったと述べた。

次のステップ

利用者がより安く電動スクーターを購入できるようにするための補助金をインド政府が段階的に廃止する中、アザー・エナジーはより安価な選択肢の発売を計画している。2024年半ば、同社はリン酸鉄リチウム(LFP)と呼ばれる新しいバッテリー化学への移行を開始した。これは環境への影響が少なく、高価な鉱物の必要量を減らすことで、他のバッテリー・パックより約20%安価になる見込みだ。

同社はまだ利益を上げていないが、車両あたりの粗利益は改善している。勢いが増しているようで、5月に2025年3月までの年間売上が前年比42%増加したと発表した。現在、同社は製品イノベーションへのさらなる投資が、インドの二輪車革命でリードを取るのに役立つと確信している。

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