気候テック10:中国独占に対抗、レアアース再生のサイクリック
レアアースに対する需要が高まる一方で、レアアースのサプライチェーンは中国の支配下にあり、供給は不安定な状況にある。サイクリック・マテリアルズは使用済み機器からレアアースを回収・リサイクルする施設を展開することで、この状況を変える。 by Maddie Stone2025.10.13
- この記事の3つのポイント
-
- サイクリック・マテリアルズが2026年に中国以外で最大級のレアアース磁石リサイクル事業を開始予定
- 現在世界全体で使用済み機器からリサイクルされるレアアースはわずか0.2%に留まっている状況
- 中国のサプライチェーン支配と輸出規制強化により代替供給源確保が急務となっている
レアアース(希土類)磁石はクリーン・エネルギーに不可欠だが、その中に含まれる金属のうちリサイクルされるのはごくわずかな割合に過ぎない。2026年に中国以外で最大級のレアアース磁石リサイクル事業を開始するサイクリック・マテリアルズ(Cyclic Materials)は、この状況を変えることを目指している。同社は幅広い機器を回収し、複数の金属をリサイクルすることで、長らくこうした取り組みを阻んできた経済的課題を克服しようとしている。
強力なレアアース磁石は、電気自動車のモーターや風力タービンの発電機から、スマートフォンやロボットまで、多くの先端技術の中核を担っている。エネルギー転換の進展に伴い、ネオジムなどの主要磁石金属の需要は急増すると予想されており、新たな供給源が緊急に必要とされている。特に、レアアースのサプライチェーンを支配し、最近の米国の関税に対応して輸出規制をさらに強化した中国以外での供給源が求められている。
ほぼ未開拓の供給源の一つが、毎年廃棄される大量のレアアース磁石を含有する機器である。中国では、レアアース磁石メーカーが製造工程で発生するスクラップを大量にリサイクルしており、より少数ながら製品寿命を迎えた磁石もリサイクル用に回収されている。しかし世界全体では、使用済み機器からリサイクルされるレアアースはわずか0.2%に過ぎない。これは主に、数十億台の古いガジェットに内蔵された磁石を回収することが困難だからである。
サイクリック・マテリアルズはこの課題に取り組もうとしている。同社の2段階リサイクルプロセスでは、まずレアアース含有機器を「スポーク」施設に集める。機器は破砕され、磁石廃棄物は鋼鉄部品やその他のリサイクル可能金属から分離された後、集約型の「ハブ」施設に送られる。そこで同社は化学抽出プロセスを用いて、精製されたレアアース金属の混合物を回収する。
現在、サイクリック・マテリアルズはアリゾナ州メサに初のスポーク施設を、オンタリオ州キングストンに初の商業ハブ施設を建設中である。これらの工場は2026年に商業的な磁石リサイクルを開始する予定で、西側世界で最大級のこうした事業の一つとなる見込みである。
基本データ
- 業界:重要鉱物
- 設立:2021年
- 本社:カナダ、トロント
- 注目すべき事実:サイクリック・マテリアルズは風力タービンからレアアース磁石を回収しており、3大陸で使用済みタービンを収集している。
潜在的なインパクト
電気自動車と風力タービンの第一波が耐用年数の終わりに近づく中、レアアース磁石のリサイクルは貴重な資源を回収し、エネルギー転換をより持続可能なものにする可能性がある。サイクリック・マテリアルズによると、同社のプロセスはレアアース採掘と比べて使用する水が95%少なく、二酸化炭素排出量が約60%削減するという。
同社は小規模からスタートする計画で、キングストンのハブ施設は年間500トンの磁石廃棄物をリサイクルする設計となっている(2035年までに、リサイクル可能なレアアース磁石が米国だけで4万3000トンを超える可能性がある)。しかし、約2000の潜在的機器供給業者と顧客のリスト、そして1億ドルを超える資金調達により、同社は世界展開に向けて態勢を整えている。
留意点
レアアースのリサイクルで利益を上げることは容易ではない。異なるサイズや形状の機器に深く組み込まれたレアアース磁石を回収・リサイクルするコストが、リサイクル業者が金属を再販して得る収益を上回る場合があるからだ。レアアース金属を費用対効果よくリサイクルできたとしても、中国以外でそれらを販売できる磁石メーカーは少数しか存在しない。
サイクリック・マテリアルズは、電動スクーター/電動自転車大手のライム(Lime)や、古い風力タービンを廃止するリナーサイクル(RenerCycle)など、さまざまな供給業者と契約を結び、可能な限り磁石を収集している。2025年に入って、サイクリック・マテリアルズはリサイクルしたレアアース混合物をブリュッセルに本拠を置く化学会社ソルベー(Solvay)に販売すると発表した。しかし、さらなる規模拡大には、より多くの買い手が必要であり、中国以外にサプライチェーンが拡大するのを待つ必要があるかもしれない。
その間、サイクリック・マテリアルズのスポーク施設はアルミニウム、鋼鉄、銅もリサイクルし、追加の収益源を提供する。
次のステップ
サイクリック・マテリアルズは世界中にスポーク施設とハブ施設を建設する予定だ。まず北米での事業を拡大し、その後、欧州とアジアに展開する。イノベーションも続ける。キングストンの研究開発センターでは、風力タービン発電機の迅速な解体や超大型磁石の分離方法など、特定業界のリサイクル課題に対処する方法を開発している。
- 人気の記事ランキング
-
- How AI and Wikipedia have sent vulnerable languages into a doom spiral AI翻訳のゴミに汚染された ウィキペディア、 マイナー言語にとどめ
- The three big unanswered questions about Sora 時間も資金も溶かす? AI動画SNS「Sora」3つの疑問
- Microsoft says AI can create “zero day” threats in biology AIが危険タンパク質を「再設計」、DNA検査すり抜け=MSが警鐘
- Inside the most dangerous asteroid hunt ever 史上最も危険な小惑星 「2024 YR4」追った 科学者たちの60日間

- マディ・ストーン [Maddie Stone]米国版 寄稿者
- 米フィラデルフィアを拠点とするフリーランスの科学ジャーナリスト。ナショナルジオグラフィック、ワシントンポスト、グリスト(Grist)などに定期的に寄稿している。