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MIT Tech Review: そして弁護士の仕事は残った——「44%自動化」の誇大宣伝、司法試験クリアも実務遠く
KADOKAWA Technology Review
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そして弁護士の仕事は残った
「44%自動化」の誇大宣伝
司法試験クリアも実務遠く
Derek Brahney
人工知能(AI) Insider Online限定
AI might not be coming for lawyers’ jobs anytime soon

そして弁護士の仕事は残った
「44%自動化」の誇大宣伝
司法試験クリアも実務遠く

生成AIの登場で狙い撃ちにされたのが、弁護士だった。2023年、GPT-4が司法試験をクリアし、「弁護士の仕事の44%が自動化される」と警告された。だが2024年の米国のロースクール就職率は93.4%で過去最高を記録し、最優秀モデルでも新ベンチマークでは37%しか正解しない。弁護士の仕事は残った。 by Michelle Kim2025.12.17

この記事の3つのポイント
  1. GPT-4が司法試験に合格し法的業務の44%自動化予測も、実際の法的推論能力には重大な限界
  2. 弁護士の47.8%がAI活用するも、複雑な法的判断や新規問題への創造的適用は依然人間が優位に
  3. ロースクール卒業生就職率は過去最高93.4%を記録、人材育成システム再構築が今後の課題
summarized by Claude 3

2022年に生成AI(人工知能)ブームが始まったとき、ルディ・ミラーとロースクールの同級生たちは突然不安に襲われた。「卒業前に、AIが導入されたら私たちの就職市場がどうなるかという議論がありました」と彼女は振り返る。

専門分野を選ぶ時期が来たとき、現在オリック(Orrick)法律事務所のジュニア・アソシエイトであるミラー弁護士は、法廷で依頼人を代理する訴訟弁護士になることを決めた。法廷が人間に残された最後の舞台であることを望んだからだ。「裁判官は、まだChatGPT(チャットGPT)対応のロボットに法廷で弁論させることを許していませんから」とミラー弁護士は言う。

不安を感じるのも無理はなかった。AIによる雇用崩壊は、弁護士にも迫っているように見えた。2023年3月、研究者たちはGPT-4が統一司法試験に圧倒的な成績で合格したと報告した。同月、業界レポートでは、法的業務の44%が自動化される可能性があると予測された。法律事務所が、膨大な文書を精査し契約書を作成するために生成AIの導入を始めると、リーガルテック業界は活況を呈した。これらは本来、ジュニア・アソシエイトが担う業務である。先月、クリフォード・チャンス(Clifford Chance)法律事務所は、AIの利用増加を理由にロンドンオフィスの職員の10%を削減した。

しかし、どれほど大げさに宣伝されようとも、大規模言語モデル(LLM)は、弁護士のように考えることからは程遠く、ましてや弁護士を代替するには至っていない。これらのモデルは、判例の引用で幻覚(ハルシネーション)を繰り返し、法律のグレーゾーンの扱いや新たな論点の推論に苦労し、法令・規制・判例にまたがる情報を統合しようとする際にもつまずく。そして、AIが法的職を代替するには制度的にも根深い障壁がある。AIは弁護士の雑務を再構築しつつあるが、弁護士という職業がすぐに終焉を迎えることはなさそうだ。

大きな実験

長時間労働と過酷な業務量に長らく特徴づけられてきた法律業界にとって、超人的な効率性という約束は魅力的だ。法律事務所は、ChatGPTやMicrosoft Copilot(マイクロソフト・コパイロット)といった汎用ツールや、Harvey(ハーベイ)、トムソン・ロイターのCoCounsel(コ・カウンセル)といった専門的な法務ツールを試しており、一部の事務所は最先端モデルを基に独自の社内ツールを構築している。各社はAIブートキャンプを開催し、アソシエイトにAI実験に数百時間を費やすことを認めている。2024年現在、アメリカ法曹協会(American Bar Association:ABA)によると、弁護士を500人以上雇用する法律事務所では、その弁護士の47.8%がAIを利用しているという。

だが、弁護士たちは、LLMが彼らを代替できるほどには推論能力を備えていないと話す。マクダーモット・ウィル・アンド・シュルテ(McDermott Will & Schulte)のジュニア・アソシエイトであるルーカス・ヘイル弁護士は、日常的な雑務には積極的にAIを活用している。「Relativity(リレイティビティ)」を使って長い文書を選別し、Microsoft Copilotで法的引用を起草している。しかし、複雑な法的質問をChatGPTに投げかけると、幻覚のような誤答が返ってきたり、話題から逸れて長話になったり、まったく答えられなかったりすることがあるという。

「非常に限定的な質問や、裁判所にとって初めての問題のような場合です」。これは、裁判所が過去に判断したことのない新しい法的問題を指している。「そうした思考は、このツールにはできません」。

ヘイル弁護士の仕事の多くは、法律を新たな事実関係に創造的に適用することに関わっている。「現在のところ、訴訟弁護士の仕事の多く、少なくとも私が担っている仕事の多くは、AIツールにアウトソーシングできるとは思えません」と同弁護士は言う。

ジェナー・アンド・ブロック(Jenner & Block)のシニア・アソシエイトであるアリソン・ダグリス弁 …

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