KADOKAWA Technology Review
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How Los Alamos Is Learning to Track Disease Outbreaks Around the World

感染症データベース
世界の公衆衛生を改善

公衆衛生を脅かす疾病のデータをどう収集するのかの取り決めは存在しない。症状のパターンを記述するデータベースは、この状況を変えられる。 by Emerging Technology from the arXiv2016.09.29

14世紀、黒死病(ペスト)がヨーロッパを打ちのめした。この細菌性の病気で、当時のヨーロッパの人口の3分の2に相当する約2億人が亡くなった。特にベネチアのような港町では、病気の蔓延を止めることが公衆衛生上の緊急課題になった。

そこで、ベネチア共和国は過激な行動に出た。共和国政府は、3人の公衆衛生担当官を感染者がいる船を見つけて港から締め出す任務に就かせたのだ。この措置はヨーロッパで、政府による初の公衆衛生上の政策だ。病気がさらに広がるのを防ぐため、伝染病がある地域から来た旅行者を40日間にわたり拘留することまでされた。

現在、人間や動物、植物の健康に影響する病気の検知、追跡、調査は「生物学的監視」と呼ばれ、急速に発展している分野だ。

しかし、問題がある。生物学的監視の起源は古いが、どう実施するのが最適なのかの取り決めがほとんどないのだ。結果としてこの分野には、病気とその症状、感染病原体、病原菌媒体などをどのように定義するかにも手間取っている。

この問題は大きな混乱の原因でもある。疫学者は、どのように特徴を描写するかの合意がない場合に病気を追跡することが非常に難しいという不便な状況に気づいたのだ。

ロスアラモス国立研究所(ニューメキシコ州)のアシュリン・ダウトン研究員らのチームにより、この状況は変わりつつある。研究チームは、全く異種の分野をまとめ、国際的な牽引力を生み出すために設計された新しい病気の記述方法を発明した。この新しい分類システムは「疾患生物学的監視の作品集」と呼ばれている。研究チームは、このシステムを支えるオンラインデータベースの構築を完了している。

データベースがどんな問題点を解決するために設計されているのかは簡単に理解できる。よくある問題点のひとつは、たとえば「三日ばしか」は「はしか」の名称ではなく風疹を指すなど、病気の異名が混乱を引き起こすことだ。「私たちの概念体系が、このような異名や似たような言葉をうまく表現していることを確証するのは非常に大切なことでした」と研究チームはいう。

生物学的監視のもうひとつの側面は、病気の広がり方を正確に記録することだ。さて、この新しいシステムは関係するベクトルを詳細に記述できる。たとえば、デング熱はネッタイシマカという種類の蚊によって媒介されるのに対し、チクングンヤ熱はヒトスジシマカという蚊、鶏痘は蚊全般によって媒介されることを記録できる。

症状から記述されたり、検索されたりする病気もよくあるので、それも考慮しなくてはならない。また、病気の届出義務がある場合には、迅速に公衆衛生機関に警告を出せる必要がある。

研究チームは、APIで簡単に調べられ、既存の生物学的監視ツールに組み込めるデータベースを開発した。この既存のツールには、いくつかの非常に便利な機能が欠けているのだと研究チームはいう。

もちろん難題もある。ひとつは全データベースが専門家の人手によって構築されるので、手のかかる、時間を要する作業になることだ。また、人間に関してだけではなく、動物、植物も取り扱うことになれば、登録される病気の数が増えるにつれて作業はさらに面倒になるだろう。

この難題は、データベースを常に最新の状態に維持するための過程をどのように改善できるかについての重要な問いを投げかけている。「過程を部分的に自動化する方法についての見識を得ることに関心があります」と、研究チームはいう。いかにも、機械学習の専門家が数時間でできる作業のようだ。

今のところ、研究チームはhttps://brd.bsvgateway.org/disease/でデータベースを閲覧可能にしている。ベネチア共和国政府も感心するに違いない。

参照:arxiv.org/abs/1609.05774:地球規模で応用可能な生物学的監視のための病気の概念体系:疾患生物学的監視の作品集(ABD)

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