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米政府系サイトの常識を変えた「デザインシステム」革命
USWDS
Inside the US government’s brilliantly boring websites

米政府系サイトの常識を変えた「デザインシステム」革命

官僚主義からスタートアップ精神へ——。およそ10年前、新サービスの立ち上げ失敗を機に生まれた米国政府の新組織が作ったWebデザインシステムは、今では160サイト・11億ページビュー規模にまで広がりを見せている。 by Jon Keegan2024.07.03

この記事の3つのポイント
  1. 米国には公共デザインシステムとカスタムフォントがある
  2. 政府系Webサイトのアクセシビリティと一貫性を高めることが目的
  3. これらのプロジェクトでは透明性や協働、継続的な改善が重視されている
summarized by Claude 3

米国には、公式のWebデザインシステムとカスタムフォントがある。この公共デザインシステムは、政府のWebサイトを単に美しいものにするだけでなく、すべての人にとってアクセスしやすく機能的なものにすることを目的としている。

インターネットが普及する以前、米国民は印象的な石柱や輝く大理石の床で飾られた壮大な建物に足を踏み入れ、連邦政府とやり取りしていたかもしれない。今日では、これらの物理的な空間の新古典主義建築は、(少なくとも部分的には)HTMLコード、テーブル、フォーム、ボタンといったWebサイトのデジタル・アーキテクチャに置き換えられている。

学生ローンの申請や退役軍人給付金について調べたり、メディケア(高齢者および特定の障害者向けの医療保険プログラム)に加入したりするために、政府のWebサイトを訪れる人々は、こうしたデジタルの要素には気づかないかもしれないが、それらは重要な役割を果たしている。Webサイトが不具合を起こしたり、スマートフォンで表示できなかったりすると、納税者は自分が支払ったサービスにアクセスできず、政府への不信につながる可能性がある。

米国には連邦政府だけでも約2万6000の政府系Webサイトがある。当初は、各サイトが独自のデザイン、フォント、ログインシステムを採用していたため、国民の間では不満が生じ、リソースを無駄にしていた。2013年に「Healthcare.gov」が問題を抱えたまま立ち上がったことは、政府のデジタルサービスの構築における改善の必要性を浮き彫りにした。2014年、オバマ大統領は政府のテクノロジーの改善を後押しする2つの新しいチームを結成した。

一般調達局(GSA)内に創設された「18F(ワシントンD.C.のFストリート1800番地にある事務所にちなんで名付けられた)」という新しいチームは、「他の政府機関と協力し、技術的な問題を解決し、製品を開発し、テクノロジーを通じて公共サービスを改善する」ことを目的としている。このチームは、動きが遅い従来の官僚的な機関ではなく、テック系スタートアップ企業のスピード感を持って動くように作られた。

米国デジタルサービス(USDS)は、「テクノロジーとデザインを通じて、国民により良い政府サービスを提供すること」を目的として設立された。2015年には、この2つのチームが協力し、政府系Webサイト全体のアクセシビリティと一貫したユーザー体験を確保することを目的としたスタイルガイド、ユーザーインターフェイス・コンポーネント、デザイン・パターンをまとめた「米国Webデザインシステム(USWDS)」を構築した。「一貫性の欠如は、必ずしもユーザビリティ調査の結果に明確に表れていなくても、感じられるものです」。USWDSプログラムのリーダーであるダン・ウィリアムズはメールでこう述べる。

今日、このシステムでは、ボタン、アラート、検索ボックス、フォームなど、47のユーザーインターフェイス・コンポーネントが定義され、それぞれデザイン例、サンプルコード、それに「礼儀正しく」「やり過ぎない」などのガイドラインが添付されている。現在、第3世代にあたるこのシステムは、160の政府系Webサイトで使用されている。「2023年9月現在、94の機関がUSWDSのコードを使用しており、連邦政府のWebサイトにおけるページビュー数は約11億に達しています」と、ウィリアムズは語る。

明瞭で一貫性のあるタイポグラフィを確保するため、2019年には米国政府向けにオープンソースのフリーフォント「Public Sans」が作られた。「これはデザインの実験として始まりました」と、フォントをデザインしたウィリアムズは語る。「デザインシステムにおける他のデザイン要素と同様に、フォントについてもオープンソースのソリューションを確立してみようと考えました」。

Public SansとUSWDSに関わったチームは、透明性や政府機関や一般市民との協働を大切にしている。

また、苦労して学んだ教訓を忘れないように、プロジェクトでは継続的な改善を取り入れている。Public Sansのデザイン原則の1つは、この分野における重要な指針となっている。つまり、「必ずしも完璧でなくとも、より良いものを作ろうと努力する」という考えだ。

ジョン・キーガンは、地方、州、連邦政府機関が収集した視覚的に興味深いデータセットを編集したニュースレター『ビューティフル・パブリック・データ(beautifulpublicdata.com)』を執筆している。

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ジョン・キーガン [Jon Keegan]米国版 寄稿者
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