KADOKAWA Technology Review
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Emotional Chatting Machine Assesses Your Emotion and Copies It

世界初!人間の感情を操作するチャットボットが誕生

人間は、自分の話に相手がどう返すかで感情が変わってしまう。清華大学の研究者が、相手の感情を制御するように受け答えすることで、ロボットだと気付かれにくいチャットボットの基礎技術の研究成果を発表した。 by Emerging Technology from the arXiv2017.04.14

チャットボットは、1960年代から続く由緒のある技術だ。有名なボット「ELIZA(イライザ)」とチャットした一部のユーザーは、人間とチャットしていると思ったほどだった。それ以来、内容を理解して適切に受け答えをする能力は着実に向上し、会話能力のあるコンピューター・プログラムは進化し続けている。

ただし、チャットボットは人間の会話能力を十分に再現できているとはいえない。ある程度の時間チャットボットと話すと、相手が機械だと気付いてしまうのだ。

コンピューターには会話の感情的な内容を測定して、共感を示せないのがひとつの理由だ。チャットボットの正体が見破られてしまうのは感情的知性がない以上は必然的だ。

4月12日、この状況は変わろうとしている。清華大学(北京)の周海军教授の研究チームは、会話の感情的な内容を分析し、状況に合わせて受け答えできるチャットボットを開発した。

この研究によって、感情を認識する新世代のチャットボットが実現する可能性が出てきた。研究チームは「私たちの知る限り、大規模な会話の生成において感情要素を処理できる世界初の研究成果です」という。

心理学者の一般的な分類では、感情には幸福感、悲しみ、嫌悪、怒り、驚き、恐怖の6つの基本カテゴリーがある。私たちは、書き言葉では、特定の感情価を持つ言葉を使うことで、こうした感情を伝える。会話の中で、感情価がどう変化するかは、会話の感情的内容を評価するよい尺度になる。

たとえば、「笑う」や「ほほ笑む」などの単語は幸福感に結びつけられるし、「憂鬱」や「泣く」は悲しみと関係がある。単語別の感情価一覧表は心理学者が作成済みだ。

すでに同様のデータベースにより、ツイートがポジティブかネガティブかを判断するアプリもある。「感情分析」の手法により、スライディング・ウィンドウ方式で分析対象である小説のストーリーラインを窓のように小さな範囲に絞り、窓を移動させることで、ストーリー全体の感情の起伏を数値化した社会科学者もいる。

研究チームは同様の手法で、会話中の感情的内容を分析し、感情に基づいて発話内容を制御した。タスクは、ふたつの部分に分解できる。まず、人間どうしの会話の感情的内容を、感情分析に似た手法で分析した。

もうひとつは、文脈に沿っていて、かつ感情的に適切な応答を生成するやや面倒な処理だ。

研究チームは、比較的単純な方法で研究を進めた。まず、中国のブログサービスWeiboから2万3000文のデータセットを収集し、手作業で感情価を当てはめた。6つの基本感情に「好き」という感情価を追加した一方、まれにしか出現しない「驚き」と「恐怖」を除外、怒り、嫌悪、幸福感、好き、悲しみの5分類でブログ内の文の感情価を判定した。

次に研究チームは、このデータセットを使って、深層学習アルゴリズムが文の感情価を分類できるように訓練した。

最後に、普通のチャットボット会話ジェネレーターを使って、応答を生成した。このとき、深層学習アルゴリズムにより、正しい感情的内容を含む受け答えを生成するため、研究チームは、このシステムを「感情チャット機械」と呼ぶ。

たとえば、「最悪な日だよ、渋滞のせいで遅れてしまったよ」という文に応答するとき、感情チャット機械はその会話で求められる感情に応じて、異なる応答を生成できる。

幸福感が求められる場合は「笑顔でいましょう! きっといいことがあります」と答えるし、悲しみなら「イヤになりますね」と答え、嫌悪感なら「人生、うまくいかないこともありますよ」と言い、怒りなら「渋滞って最悪ですね」と言い、好意を表す場合は「いつでもサポートしますよ」と言うのだ。

この研究は、さらに応用できる点で興味深い。共感する(あるいは、共感しているように見せる)能力は、人間のコミュニケーションで重要だ。さまざまな研究によって、人間は、共感的な会話にポジティブな反応をしやすいことがわかっている。コールセンター用途のチャットボットなど、多くの場面で有用であることは間違いないだろう。

参照:arxiv.org/abs/1704.01074:感情的なチャットマシン:内的および外的記憶による情緒的会話の生成

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