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英政府が「AI科学者」を選出、予算倍増で研究自動化に本腰
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Getty Images, Adobe Stock
The UK government is backing AI that can run its own lab experiments

英政府が「AI科学者」を選出、予算倍増で研究自動化に本腰

英国の研究機関ARIAが、実験の設計から実行、結果分析まで自動化する「AI科学者」プロジェクト12件を選出した。245件の応募に対し当初予定の倍額を投じる。博士学生の単調作業を代替し、研究スピードの大幅な加速を目指す。 by Will Douglas Heaven2026.01.21

この記事の3つのポイント
  1. 英国ARIAが実験設計から実行まで自動化する「AI科学者」開発に245件の応募から12チームを選定し資金提供を決定
  2. 科学研究の単調作業自動化により人間研究者をより創造的業務に集中させる狙いでムーンショット技術開発が加速
  3. エージェントシステムの自律動作限界や過剰期待など技術課題解決と将来的影響への準備が急務
summarized by Claude 3

実験室で実験を設計・実行する「AI科学者」(ロボット生物学者や化学者を含む)を構築している多数のスタートアップや大学が、ムーンショット研究開発に資金提供する英国政府機関から追加資金を獲得した。高等研究発明局(ARIA)が設立したこのコンペティションは、この技術がいかに急速に進歩しているかを明確に示している。同機関は、実験室作業の自動化を拡大できるツールをすでに構築している研究チームから、245件の提案を受け取った。

ARIAは、仮説の立案、その仮説を検証する実験の設計・実行、そして結果の分析という科学的ワークフロー全体を実行できるシステムを「AI科学者」として定義している。多くの場合、システムは得られた結果を自分自身にフィードバックし、このループを何度も繰り返す。人間の科学者は監督者となり、最初の研究課題を設定し、その後はAI科学者に単調な作業を任せる。

「博士課程の学生が、実験を最後まで実行するために午前3時まで実験室で待機するよりも、もっと有意義な使い方があります」。ARIAのアント・ロウストロンCTO(最高技術責任者)は述べている。

ARIAは245件の提案から12のプロジェクトを選び、資金提供を決定した。提出数の多さと質の高さから、当初予定していた資金配分額を倍増した。チームの半数は英国から、残りは米国と欧州からである。一部のチームは大学から、一部は産業界からの参加だ。各チームは9カ月間の作業をカバーするため約50万ポンド(約67万5000ドル)を受け取る。この期間の終了時には、各チームのAI科学者が新たな発見を生み出せたことを示す必要がある。

資金を獲得したチームの1つに、米国企業のライラ・サイエンシズ(Lila Sciences)がある。同社は「AIナノ科学者」と呼ばれるシステムを開発しており、これは医療画像、太陽電池、QLEDテレビに使われるナノメートルスケールの半導体粒子である量子ドットの最適な組成と処理方法を発見するための実験を設計・実行する。

「私たちは、この資金と時間を使ってある主張を証明しようとしています」と、ライラの物理科学担当CSC(最高科学責任者)であるラファ・ゴメス=ボンバレリは語る。「この助成金によって、特定の科学的課題を中心に真のAIロボティクスループを設計し、それが機能するという証拠を生み出し、他の研究者がそれを再現・拡張できるようにプレイブックとして文書化できます」。

英国リバプール大学の別のチームは、複数の実験を同時に実行し、ロボットがエラーを起こした際にはトラブルシューティングを支援するビジョン言語モデルを活用するロボット化学者を開発している。

ロンドンに拠点を置き、まだステルスモードにあるスタートアップ企業は、「ThetaWorld(シータワールド)」というAI科学者を開発している。このAIは、バッテリーの性能にとって重要な物理的・化学的相互作用に関する実験を設計するために大規模言語モデル(LLM)を用いている。これらの実験は、米国のサンディア国立研究所の自動化実験室で実施される予定だ。

温度を測る

ARIAが通常支援する、2〜3年にわたって500万ポンドを投じるプロジェクトと比べると、50万ポンドはごく小規模な額である。しかし、それこそが狙いだったとロウストロンCTOは語る。これはARIA自身による実験でもあるのだ。短期間で多様なプロジェクトに資金提供することで、同機関は最先端の動向を把握し、科学の進め方がどのように変わってきているのか、そしてその変化のスピードを評価しようとしている。こうして得られた知見が、今後の大規模プロジェクトへの資金配分の基準になる。

ロウストロンCTOは、特に現在では主要なAI企業の多くが科学に特化したチームを持っていることから、過剰な期待や誇大広告が存在することを認めている。成果が査読ではなくプレスリリースで発表されると、技術の実力や限界を見極めることが難しくなる。「最先端に資金を提供しようとする研究機関にとって、それは常に課題です。最先端で活動するには、そもそも最先端がどこにあるのかを知らなければなりません」。

現時点での最先端は、既存のさまざまなツールをその場で呼び出すエージェント・システムを含んでいる。「彼らは、アイデアの創出には大規模言語モデルのようなものを使用し、その後、最適化や実験の実行には別のモデルを使っています」とロウストロンCTOは説明する。「そして、結果を再度フィードバックしていきます」。

ロウストロンCTOは、こうした技術が階層的に構築されていると捉えている。最下層には、AlphaFold(アルファフォールド)のように、人間が人間のために設計したAIツールがある。これらのツールは、科学の進行における時間のかかる困難な工程を飛ばすことを可能にするが、結果を検証するためには依然として何カ月もの実験室作業が必要となる場合がある。AI科学者という構想は、そのような作業すらも自動化することを目指している。

AI科学者は、これら人間が設計したツールの上位層に位置し、必要に応じてそれらを呼び出すとロウストロンCTOは語る。「しかし、ある時点で──それは10年も先のことではないと私は思っていますが──AI科学者が『必要なツールが存在しない』と判断し、問題解決の過程でAlphaFoldのような新たなツールを自ら生成するようになるでしょう。その結果、最下層全体が自動化されることになるのです」。

とはいえ、それはまだ先の話だと彼は言う。ARIAが現在支援しているプロジェクトはいずれも、新たなツールを創出するのではなく、既存のツールを呼び出すシステムに基づいている。

また、エージェント・システム全般には未解決の問題があり、どれだけ長時間にわたって逸脱やエラーなしに自律的に動作できるかが制限されている。たとえば先週、インドのAI研究機関であるロスファンク(Lossfunk)の研究チームがArxiv(アーカイブ)に投稿した「LLMがまだ科学者ではない理由(Why LLMs Aren’t Scientists Yet: Lessons from Four Autonomous Research Attempts)」と題された研究では、LLMエージェントに科学的ワークフローを完遂させようとする実験において、4回中3回の試行が失敗に終わったと報告されている。研究者によれば、失敗の要因には、初期仕様の変更や、「明らかな失敗を無視して成功を宣言してしまう過剰な楽観」が含まれていた。

「現時点では、これらのツールはまだ開発初期の段階にあり、進化が頭打ちになる可能性もあります」とロウストロンCTOは言う。「私は、これらのツールがノーベル賞を取るとは期待していません」。

「しかし、これらのツールの一部は、私たちの研究スピードを大幅に加速させるようになる世界があり得ます。そして、もしそのような世界が現実になったとしたら、私たちがその変化に備えていることは極めて重要です」。

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ウィル・ダグラス・ヘブン [Will Douglas Heaven]米国版 AI担当上級編集者
AI担当上級編集者として、新研究や新トレンド、その背後にいる人々を取材。前職では、テクノロジーと政治に関するBBCのWebサイト「フューチャー・ナウ(Future Now)」の創刊編集長、ニュー・サイエンティスト(New Scientist)誌のテクノロジー統括編集長を務めた。インペリアル・カレッジ・ロンドンでコンピューターサイエンスの博士号を取得しており、ロボット制御についての知識を持つ。
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