人工知能(AI)技術の1つである大規模言語モデル(LLM)は、社会やビジネスに大きな影響を与えつつある。特に医療分野への適用は、高齢化社会と医療人材不足に直面する日本にとって極めて重要である。だが、日本語のような非英語言語に適応した信頼性の高いLLMの研究開発は、英語言語に後れを取っているのが現状だ。
東京大学の特任講師であるリ・ズフウェイ(Li Zihui)は、日本語に特化した医療向けLLMの開発に取り組んでいる。リの目標は、英語に最適化された既存AIの限界を超え、日本語環境に根ざした医療AIを実現することにある。具体的には、日本の医療現場で臨床判断を支援し、記録作成の負担を軽減、最終的には患者の予後を改善する、信頼性が高く文化的にも妥当な日本語医療LLMを構築している。この取り組みは2025年、日本を拠点とする研究者として唯一、自然言語処理分野で「Google Research Scholar Award(グーグル・リサーチ・スカラー・アワード)」に選出されたことでも注目を浴びた。リは、将来的にアフリカ言語を含むリソースの限られた言語に研究対象を拡大し、AIの恩恵をより公平に社会に届けたい考えだ。
リの研究は、優れた技術力だけでなく、日本語特有の言語的・臨床的文脈への深い理解に基づいている。知識グラウンディングや説明可能な推論といったAI手法を活用することで、モデルが流暢な日本語医療文を生成するだけでなく、その根拠を明示できるようにしている。これは、医療者がAIを信頼して活用するうえで不可欠な特性である。
工学博士であるリは、自然言語処理および医療テキスト解析の研究経験を有し、学術にとどまらず、米国拠点のスタートアップであるアイモジ(AImoji)では主任AIアドバイザーを務める。同社では「Kinabot(キナボット)」の開発に参画し、安全性・説明可能性・臨床的信頼性の強化に取り組んでいる。会話型AIで認知機能を評価・支援する同社の技術は、高齢者の早期スクリーニングや個別化介入を可能にし、日本でも介護負担の軽減や健康寿命の延伸に貢献することが期待される。
(中條将典)
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