小型衛星や深宇宙探査機など、宇宙機の用途やサイズが多様化する中、小型で高効率な推進技術の開発が求められている。だが、推進剤を燃焼させて高圧ガスを噴射する従来のロケットエンジンは、構造の小型化に限界があり、反応性の高い燃料を扱う必要があるなどの制約を抱えていた。
名古屋大学 未来材料・システム研究所の助教、伊東山 登は、こうした技術的な課題を解決するため、デトネーション(爆轟)現象を応用したロケットエンジン「回転デトネーションエンジン」の研究開発を進めている。デトネーションとは、燃料と酸化剤の混合気中を超音速で伝わる衝撃波によって燃焼が進行する“爆発現象の一種”である。きわめて短い時間と狭い空間で燃焼が完結することから、従来の燃焼方式では困難だった小型・高性能化の両立が可能とされる。だが、デトネーションを実際にロケットの推進に使うには、この現象を意図的に生じさせ、燃焼ガスの膨張過程を推力軸に沿った方向に制御する必要がある。
化学工学をバックグラウンドに持つロケット推進科学者である伊東山は、燃焼を支える化学反応論と、衝撃波を扱う圧縮性流体工学を組み合わせ、さらに設計工学の視点から実際のエンジンシステムへと展開する総合的なアプローチを採る。まず、学術的な研究において上述の知見を蓄え、地上でのシステム試験で原理の有効性を検証。従来の手法では小型性と十分な燃焼効率の両立が難かった燃料でも、デトネーション方式により燃焼器寸法をほとんど変えずに燃焼効率を向上できることを示した。また、学術研究にとどまらず、2021年と2024年に打ち上げられたJAXAの観測ロケット「S-520」による宇宙実証実験では、プロジェクト全体を主導し、回転デトネーションエンジンの宇宙空間での動作実験を成功に導いている。
伊東山らの成果は、宇宙空間でのラストマイル輸送や、衛星の軌道制御、将来の恒星間航行などへの応用が期待される。国際的な研究連携と産学協働による商用化の動きもあり、日本の宇宙輸送インフラを支える革新的な推進技術として注目される。
(中條将典)
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