KADOKAWA Technology Review
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AIブームで脱炭素に暗雲、
「天然ガス発電しかない」の
大前提を疑う
Ricardo Santos
気候変動/エネルギー Insider Online限定
AI could keep us dependent on natural gas for decades to come

AIブームで脱炭素に暗雲、
「天然ガス発電しかない」の
大前提を疑う

AIデータセンターが、全米で新たな天然ガス火力発電所の急増を促している。クリーンなエネルギーを目指す私たちにとって、それは何を意味するのか? by David Rotman2025.05.28

ルイジアナ州北東部の田舎に広がる数百ヘクタールもの広大な土地は、20年近く誰からも必要とされてこなかった。2006年、州内で最も貧しい地域の1つであるリッチランド郡にあるこの土地を、ルイジアナ州当局が経済開発を促進する目的で購入した。州当局はこの元農地を「フランクリン・ファーム」メガ用地として何年にもわたり売り込んできた。最初は自動車メーカーに(買い手はつかなかった)、その後は州間高速道路のすぐそばにある400ヘクタール以上の土地を求める可能性のある他の産業に向けて売却を試みた。

だからこそ、メタ(Meta)が現れたときに州や地元の政治家たちが歓喜したのも無理はない。2024年12月、メタはこの土地に100億ドルを投じて人工知能(AI)モデルの訓練用データセンターを建設し、2028年から稼働させる計画を発表した。ジェフ・ランドリー知事は「ゲーム・チェンジャーだ」と述べ、建設に5000人、データセンターの運営に500人の雇用が創出される見込みであることを挙げて、このプロジェクトを州史上最大の民間資本投資と位置づけた。辺境の田舎から、活気あるAI革命の中心地への大転換である。

このAIデータセンターは、ルイジアナ州のエネルギーの未来をも一変させる可能性を秘めている。全長約1.6キロメートル以上に及ぶこの施設は、メタにとって世界最大のデータセンターとなる予定で、その電力消費量は膨大だ。計算処理だけで2ギガワットを必要とし、これに冷却や建物のその他の電力需要が加わる。稼働すれば、まるでこの地域の電力網に中規模都市が突然追加されたかのようになる。その都市は一日たりとも休まず、常に安定した電力供給を必要とするのである。

このデータセンターに電力を供給するため、エンタジー(Entergy)は32億ドルを投じて、総発電容量2.3ギガワットの大規模な天然ガス火力発電所を3基建設し、急激な需要の増加に対応できるよう送電網をアップグレードする計画だ。エンタジーは州の電力規制当局に提出した書類の中で、天然ガス火力発電所が「かなりの量のCO₂を排出する」ことを認めつつも、この巨大なデータセンターの24時間365日にわたる電力需要に迅速に対応するには、天然ガスが唯一現実的で経済的な選択肢であると主張している。

メタは、エンタジーと協力し、ゆくゆくは太陽光発電を含む少なくとも1.5ギガワットの新たな再生可能エネルギーを送電網に加えるつもりであるが、そのために投資する具体的なプロジェクトや時期については、まだ決定していないと述べている。一方、2028年の稼働を予定し、一般的に約30年の寿命を持つ新たな天然ガス発電所は、同州の化石燃料への依存をさらに固定化することになる。

この事態の進展が、米国議会の関心に火をつけた。上院環境・公共事業委員会の有力メンバーであるシェルドン・ホワイトハウス議員は、メタに書簡を送った。その中で彼は、「新たな未対策の天然ガス火力発電」によってデータセンターへ電力を供給するという同社の計画を問題視し、その結果生じる排出量を「二酸化炭素回収と太陽光発電プロジェクトへの資金提供によって」相殺するという同社の約束について、「曖昧であり、ほとんど安心感を与えない」と述べた。

AIの電力需要増加に対応するための手段として天然ガスが選ばれているのは、ルイジアナ州に限らない。天然ガスはすでに米国内で主要な発電源となっており、現在建設中または計画中のAIデータセンター向けに、全米各地で大規模な天然ガス発電所の建設が進行中である。一部の気候変動対策推進者たちは、よりクリーンな再生可能エネルギーがやがて天然ガスを上回ると期待してきたが、データセンターによる急増する電力需要により、米国が近いうちに天然ガスから脱却できるという見通しは、ほぼ消えかけている。

実際の現場では、天然ガスがAIデータセンターによる急増する電力需要を満たすための「デフォルトの手段」となっていると、カリフォルニア大学サンディエゴ校の政治学者であり、ディープ・デカーボナイゼーション・プロジェクトの共同責任者でもあるデイヴィッド・ヴィクターは語る。「天然ガス発電所なら、建て方もコストも(おおよそ)分かっており、スケールする方法も、承認の取り方も分かっています。低排出ガスの企業イメージを重視し、低炭素やゼロ炭素を積極的に推進するAI企業でさえも、天然ガスを使わざるを得ないのです」。

天然ガスが優先される傾向は米国南部で特に顕著であり、バージニア州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、ジョージア州などでは複数の大規模ガス火力発電所の計画が進行中である。最近のある報告書によると、それらの州の電力会社だけでも、今後15年間で約20ギガワット分の天然ガス発電所の新設を計画している。そして、特にバージニア州・サウスカロライナ州・ジョージア州では、新たな電力需要の多くがデータセンターによるものであり、これら3州では、予測される電力需要の65~85%をデータセンターが占めている。

「これは明らかに間違った方向性への長期的なコミットメントです」と、バージニア州シャーロッツビルにある南部環境法センター(Southern Environmental Law Center)の上級弁護士、グレッグ・バパートは語る。今後15年間に提案されているガス火力発電所がすべて建設された場合、「排出量削減目標の達成は事実上不可能になるでしょう」と彼は言う。

しかし、天然ガスが今後のエネルギーの中で大きな役割を占め続ける可能性が高まっているように見える一方で、その支配的地位が今後どのような形で維持されるのかについては、多くの疑問が残る。

その理由の一つは、AIデータセンターが将来的にどれだけの電力を必要とするのか、そして企業の天然ガスへの依存度がどの程度になるのか、誰にも正確には分からないという点だ。AIの需要が急速に縮小する可能性もあるし、AI企業が協調して再生可能エネルギーや原子力への移行を進める可能性もある。こうした可能性は、米国が天然ガス発電能力を過剰に建設しつつあるかもしれないというリスクを示唆している。その結果、各地域は不要で汚染を引き起こす時代遅れの化石燃料施設を抱えることになり、現在の投資の負担が電力料金の形で住民にのしかかるかもしれない。

幸いなことに、こうしたリスクは今後数年間にわたって適切に管理できる可能性が高い。ただし、それはAI企業が自らの膨大なエネルギー需要に対して、どの程度の柔軟性を持って対応可能かという点について、より高い透明性を確保できた場合に限られる。

天然ガスの支配

最近の米国では、天然ガスは安価で潤沢に存在している。20年前、米国各地に点在するシェール層で巨大な埋蔵量が発見された。2008年、水圧破砕法(フラッキング)によってシェール層から大量のガスを抽出できるようになり始めた当初、天然ガスの価格は100万Btu(熱量単位)あたり13ドルだった。しかし米国エネルギー情報局(EIA)によれば、昨年の平均価格は2.21ドルで、インフレ調整後の年間価格としては過去最低水準となった。

米国では2016年頃に、天然ガスが石炭を抜いて主要な発電燃料となった。そして現在では、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの急速な台頭と、それらの価格低下への正当な称賛があるにもかかわらず、天然ガスはいまだ支配的な地位を占めており、米国で発電される電力の約40%を担っている。最近の監査 …

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