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MIT教授が模索する
AIで都市をもっと
住みやすくする方法
ADAM GLANZMAN
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How AI can help make cities work better for residents

MIT教授が模索する
AIで都市をもっと
住みやすくする方法

都市が持つ大量のデータを住民が活用できない現状を変えたい。MITのサラ・ウィリアムズ教授はボストン市と協力して、AIによる市民参加の革新に取り組んでいる。 by Ben Schneider2025.06.18

この記事の3つのポイント
  1. MIT教授がAIを活用して行政と住民の情報格差を解消する手法を研究
  2. ボストン市で市議会議事録の検索システムや住民苦情の可視化を実験
  3. 透明性確保と住民参加促進により都市運営の民主化を目指す
summarized by Claude 3

ここ数十年の間に、都市はあらゆる種類のデータをうまく集められるようになってきた。しかし、行政職員がアクセスできるすべての情報を、分析したり活用したりすることはおろか、伝えることさえできなければ、それらのデータは限定的な影響力しか持ち得ない。

マサチューセッツ工科大学(MIT)のサラ・ウィリアムズ教授(都市計画とテクノロジー)にとって、こうした状況は悩みの種だった。「私たちは多くの空間分析やデータ分析を実施しています。都市を計画・設計する方法に大きな影響を与える可能性がある学術論文や研究もあります。ですが、うまく社会に伝えられていませんでした」。

2012年にMITの教員になった直後、ウィリアムズ教授はその溝を埋めるために市民データデザインラボ(Civic Data Design Lab)を創設した。それから長年にわたり、ウィリアムズ教授らはその時点の最新のテクノロジーを利用して、都市計画データのナラティブ(物語)性と説明性の限界を押し広げてきた。そうして、人間の物語や印象的なグラフィックを通して数字を生き生きと表現し、理解しやすいものにしている。ウィリアムズ教授が関わったプロジェクトの1つである、ニューヨーク市の地区別収監率に関するプロジェクトは現在、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の常設展示コレクションになっている。ほかにも、大気環境監視装置を使って北京の大気汚染の広がりと影響を追跡したものや、地理情報システムを使ってナイロビ住民の毎日の通勤・通学状況をマッピングしたものなどのプロジェクトがある。

近年、人工知能(AI)がより利用しやいものになるにつれ、ウィリアムズ教授は、AIが都市について明らかにする可能性に興味を抱くようになった。「『都市計画にとってどのような意味があるのか?』と考えるようになりました」と、ウィリアムズ教授は話す。AIのようなツールは、膨大な量のデータを瞬時に整理し、視覚的にわかりやすく説明する力を持っている。しかし、より多くの情報を持つということは、偽情報や情報操作のリスクを高めることにもなる。「私は、こうしたツールのプラス面とマイナス面を考えることにおいて、都市が検討する手助けをしたいと思ったのです」。

2024年、その探究はボストン市との協力につながった。ボストン市はエマージング・テクノロジー局を通じて、さまざまな行政機能におけるAIの導入の可否と導入方法を模索していた。ウィリアムズ教授らのチームは1年をかけ、ボストン市が行政におけるAIの新たな応用をいくつか実験し、地域集会でフィードバックを収集する様子を追跡調査した。

調査結果に基づき、ウィリアムズ教授と市民データデザインラボはこの春、『市民参加のための生成AIプレイブック(Generative AI Playbook for Civic Engagement)』を発表した。このプレイブックは、都市政府がAIの能力を活用し、それに伴うリスクをうまく管理するための資料として、一般公開されている。 連邦政府のAI規制に対するアプローチがますます自由放任に …

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