AI著作権訴訟でメタとアンソロピックが初勝利、今後の展開は?
アンソロピックとメタは6月下旬にそれぞれ、AIモデルの訓練における著作権侵害を争った訴訟で有利な判決を勝ち取った。この種の訴訟で初めて出された重要な判決ではあるが、それぞれの判断理由は異なっている。 by Will Douglas Heaven2025.07.07
- この記事の3つのポイント
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- アンソロピックとメタがAI訓練データの著作権侵害訴訟で勝訴した
- 両社とも無許可での書籍利用がフェアユースに該当すると認められた
- クリエイターとテック企業の対立は続き多数の類似訴訟が係争中である
6月下旬、テック企業のアンソロピック(Anthropic)とメタ(Meta)は、それぞれの訴訟で画期的な勝利を収めた。自社の大規模言語モデル(LLM)の訓練データとして著作権保護された書籍を無許可で利用したことが、著作権侵害に当たるかどうかを争ったものだ。今回の2件の判決は、この種の著作権訴訟において初めて出されたものである。これは、大ニュースだ。
人工知能(AI)モデルの訓練データとしての著作物利用を中心に、テック企業とコンテンツクリエイターの間では激しい争いが起こっている。この争いは、何が著作物の「フェアユース(公正使用)」に該当するか否かをめぐる技術的な議論の中で繰り広げられている。しかし、その究極の問題は、人間と機械の創造性が共存し続けることができる空間を切り開くことにある。
現在、裁判所では同様の著作権訴訟が数十件も係争中であり、アンソロピックとメタだけでなく、グーグル、オープンAI(OpenAI)、マイクロソフトなど、すべての大手企業に対して訴訟が起こされている。一方、原告は個人のアーティストや作家から、世界最大のデジタルコンテンツ提供・管理会社であるゲッティ イメージズやニューヨーク・タイムズ紙のような大企業まで多岐にわたる。
これらの訴訟の結果は、AIの将来に甚大な影響を与えることになる。事実上、AIモデル開発者が今後も「無料データ」を享受し続けられるかどうかが、この訴訟の結果によって決まることになる。もし享受できない場合、新たな種類のライセンス契約を通じて、そのような訓練データに対価を支払い始めるか、あるいはモデルを訓練させる新たな方法を見つける必要がある。こうした見通しは、AI業界を根底から覆す可能性がある。
だからこそ、今回のテック企業2社の勝利は重要になる。では、これで一件落着か? そういうわけではない。詳細を掘り下げてみると、この2件の判決は第一印象ほど単純なものではない。詳しく見ていこう。
両訴訟で著者グループ(アンソロピック訴訟は集団訴訟で、メタを提訴した原告はサラ・シルバーマンやタナハシ・コーツといった著名人を含む13人)は、テック企業が自分たちの書籍を大規模言語モデルの訓練に利用したことで著作権を侵害したことを証明しようと試みた。両訴訟において、企業側はこの訓練プロセスが「フェアユース」に該当すると主張した。フェアユースとは、著作物を特定の目的に使用することを認める、米国著作権法の法規定である。
2件の訴訟の類似点は以上だ。アンソロピックに有利な判決を下したウィリアム・アルサップ上級地方判事は6月23日、同社による書籍の使用は「トランスフォーマティブ(変革的)」であるため合法であると主張した。つまり、元の著作物に取って代わるのではなく、そこから何か新しいものを作り出したということだ。「問題となっているテクノロジーは、私たちの多くが生涯で目にする最もトランスフォーマティブなものの1つだった」とアルサップ判事は判決文に記している。
メタの訴訟では、ヴィンス・チャブリア地方判事が異なる主張を展開した。チャブリア判事もまた、テック企業側の主張を支持したが、判決の焦点はメタが著作物の市場に損害を与えたかどうかという点だった。チャブリア判事は、アルサップ判事が市場への損害の重要性を軽視したと考えていると述べた。「被告が無許可で他者のオリジナル作品をコピーしたという訴訟では、そのほぼすべての訴訟で一番問題となるのは、そのような行為を人々に許すことが、オリジナル作品の市場を著しく縮小させるかどうかである」と、チャブリア判事は6月25日の判決文にこう記した。
両訴訟とも結果は同じだが、判決の理由は大きく異なる。 そして、それが他の訴訟にどのような影響を与えるのかは明確ではない。少なくとも2つのフェアユース論拠が補強されたと言えるが、フェアユースの判断方法について意見の相違が存在するとも言える。
しかし、さらに注目すべき重要な点がいくつかある。チャブリア判事は判決の中で、メタが勝訴したのはメタが正しかったからではなく、原告側が十分に説得力のある主張を提示できなかったからだと非常に明確に述べている。「大きな枠組みでは、この判決の影響は限定的だ」とチャブリア判事は記している。「本件は集団訴訟ではないため、判決は原告13人の著者の権利にのみ影響し、メタがモデルの訓練に使用した他の無数の作品の著者の権利には影響しない。そして、ここまでで明白になっているように、判決はメタが言語モデルの訓練に著作物を使用することが合法であると主張するものではない」。これは、原告以外の不満を持つ人々に再挑戦を促す招待状のようにも解釈できる。
そして、2社ともにまだ無罪放免ではない。アンソロピックとメタはともに、モデルの訓練に著作権保護された書籍を利用しただけでなく、それらの書籍を海賊版データベースからダウンロードしたため、入手方法が違法だったという、まったく別の疑惑に直面している。アンソロピックは現在、これらの海賊版データベースからの違法入手の申し立てについて新たな裁判を控えている。メタは、この問題への対処方法について、告発者との協議を開始するよう命じられている。
では、私たちにはどのような影響が及ぶのか?この種の訴訟に対する初めての判決として、今回の判決は間違いなく大きな重みを持つことになる。しかし、この2件の判決はまた、多くの判決の最初の判決に過ぎない。この紛争における双方の主張は、まだ尽きていない。
「これらの訴訟は、どちらの側もそれぞれの判決から望むものを得るという点で、ロールシャッハ・テストのようなものです」と、進行中の著作権訴訟でさまざまなテック企業の代理を務めているポール・ヘイスティングス(Paul Hastings)弁護士事務所のアミーア・ガヴィ弁護士は述べている。ガヴィ弁護士はまた、この種の訴訟が最初に提起されたのは2年以上前であることを指摘し、「控訴の可能性や、現在係争中の40件以上の訴訟を考慮すると、裁判所がこの問題に決着をつけるまでには、まだ長い道のりがあります」と述べる。
「この2件の判決には失望しています」。複数の大人気ユーチューバーを代理するタイラー・チョウ・ロウ・フォー・クリエイターズ(Tyler Chou Law for Creators)の創業者兼最高経営責任者(CEO)のタイラー・チョウは述べている。「原告側は戦力不足で、裁判官が必要とする専門家やデータを提出する時間もリソースもなかったと思います」。
しかしチョウCEOは、これは数ある訴訟の第一歩に過ぎないと考えている。そしてガヴィ弁護士と同様に、これらの判決は控訴されると考えている。そしてその後、テック企業が手強い相手に遭遇する訴訟が次々と現れ始めるだろう。「出版社、音楽レーベル、報道機関といった次なる原告の波は、潤沢な資金を携えて現れるでしょう」とチョウCEOは語る。「それがAI時代におけるフェアユースの真の試金石となるでしょう」。
しかし、法廷での騒動が収まったとしても、その後はどうなるのだろうか? 問題は解決されていないだろう。なぜなら、個人であれ団体であれ、クリエイターの根本的な不満は、著作権が侵害されたことではないからだ。著作権は単に、クリエイターが手にしている法的手段に過ぎない。彼らの真の不満は、自分の生活とビジネスモデルが脅かされる危険にさらされていることだ。その上、AIスロップによって創造的な努力の価値が下がってしまったら、人々が作品を世に送り出す意欲は失われ始めるのではなかろうか?
そういう意味では、これらの法廷闘争は人類の未来を形作ることになるだろう。この広範な問題に対する有効な解決策はまだ示されていない。すべてはこれからである。
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- ウィル・ダグラス・ヘブン [Will Douglas Heaven]米国版 AI担当上級編集者
- AI担当上級編集者として、新研究や新トレンド、その背後にいる人々を取材しています。前職では、テクノロジーと政治に関するBBCのWebサイト「フューチャー・ナウ(Future Now)」の創刊編集長、ニュー・サイエンティスト(New Scientist)誌のテクノロジー統括編集長を務めていました。インペリアル・カレッジ・ロンドンでコンピュータサイエンスの博士号を取得しており、ロボット制御についての知識があります。