逆風の気候テック、石油・ガス企業に問われる「本気度」
石油・ガス企業はエネルギー転換の重要なプレーヤーになり得るのだろうか。トランプ政権下で気候テック逆風が強まる中、これまで以上に企業の真剣度が試されている。 by Casey Crownhart2025.08.08
- この記事の3つのポイント
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- 石油・ガス企業の潜在的役割は大きいが、気候技術への投資は全世界のわずか1%にとどまる
- BPやシェルが再エネ事業から相次いで撤退、政治的風向きが変わると後退する傾向が顕著
- 地熱企業と石油企業との提携のような成功例もあるが、業界全体の本気度には疑問符
地熱スタートアップであるクエイズ(Quaise)についての新しい記事を執筆した(記事はこちら)。クエイズは、新しい掘削技術の商業化を試みている企業だ。地球上のあらゆる場所での地熱発電を可能にするため、「ジャイロトロン」と呼ばれる装置を使って、より深く、より安価に掘削することを目指している。
取材のため、私は米国テキサス州ヒューストンにあるクエイズの本社を訪問した。また、市内を横断してネイバーズ・インダストリーズ(Nabors Industries)を訪れた。同社はクエイズ社の投資家かつ技術パートナーであり、世界最大級の掘削会社の1社である。
ネイバーズ本社の裏庭にある掘削リグの上に立ちながら、私はエネルギー転換において石油・ガス会社が果たしている役割について考えずにはいられなかった。この業界は資源とエネルギーに関する専門知識を持っているが、同時に化石燃料に既得権益も有している。果たしてこの業界は気候変動への対処の一翼を本当に担うことができるのだろうか。
クエイズとネイバーズのように、類似分野の既存企業とスタートアップがパートナーシップを手を組むという構図は、気候テック分野においてますます頻繁に見られるようになっている。例えばセメント業界であれば、サブライム・システムズ(Sublime Systems)が世界最大級のセメント会社であるホルシム(Holcim)を含む既存企業から多大な支援を受けている例が思い浮かぶ。
クエイズは2021年にネイバーズから1200万ドルの初期投資を受けた。現在、ネイバーズはこのスタートアップの技術パートナーでもある。
「我々はどのような穴を掘るかについては中立です」。ネイバーズ・インダストリーズのエネルギー転換チームのプロジェクト・エンジニアであるキャメロン・マレシュは話す。同社は地熱産業における他の投資やプロジェクトにも取り組んでおり、クエイズとの作業は長年にわたる協力の集大成であるとマレシュは言う。「クエイズがどのような成果を上げるか、本当にわくわくしています」。
外部から見ると、両社のパートナーシップはクエイズにとって非常に理にかなうものだ。クエイズはリソースと専門知識を得ることができる。一方、ネイバーズは地熱発電の新たな方向性を示す可能性のある、革新的な企業との関わりを持つことになる。そしてより重要な点として、化石燃料が段階的に廃止されるとすれば、この取引により同社は次世代エネルギー生産における権益を得ることになる。
石油・ガス会社が気候変動対策において生産的な役割を果たす可能性は非常に大きい。国際エネルギー機関(IEA)の報告書では、これらの従来型企業が担う可能性がある役割について検証している。「エネルギー転換は石油・ガス業界の関与なしでも実現可能であるが、彼らが参加しなければ、実質ゼロへの道のりはより高コストで困難なものとなるだろう」と著者らは記している。
IEAが描く2050年の実質ゼロ排出エネルギーシステムの青写真では、エネルギーの約30%が、石油・ガス業界の知識とリソースが活用できる資源から得られると想定されている。これには水素、液体バイオ燃料、バイオメタン、炭素回収、地熱が含まれる。
しかし、これまでのところ、石油・ガス業界は気候変動にポジティブな影響を与えられる潜在能力をほとんど発揮していない。報告書でもIEAは、石油・ガス生産者が2022年の気候技術への世界投資のわずか約1%しか占めていないと指摘した。投資はそれ以降若干増加しているが、それでも業界がコミットしていると主張するのは困難である。
そして今や気候テックが米国政府の間で人気を失いつつあることから、石油・ガス会社が投資や約束を徐々に縮小していく可能性が高いと私は推測する。
BPは最近、石油・ガス生産を削減し、クリーンエネルギーに投資するという従来の約束を撤回した。そして昨年、同社は2023年に洋上風力投資で11億ドルの損失を計上したと発表し、他の風力発電資産も売却する意向を表明している。シェル(Shell)は昨年、カリフォルニア州の車両用水素燃料ステーションをすべて閉鎖した(米国では電気自動車が水素を圧倒的に上回っているため、これはそれほど大きな損失ではないかもしれないが、それでも注目に値する)。
石油・ガス会社は雀の涙ほどしか投資せず、政治的風向きが変わると後退することが多い。そして忘れてはならないのは、化石燃料企業は過去に問題行動を繰り返してきた長い歴史があるということだ。
おそらく最も悪名高い例としては、エクソン(Exxon)の科学者たちが1970年代に作成した気候変動モデルが挙げられる。この予測は極めて正確なものであったことが後に判明しているが、同社は研究結果を当時公表せず、気候変動が地球に与える影響を軽視した(念のため付け加えると、同社の代表者らは、これは隠蔽というよりも、社外に公表すべきではない社内の議論であったと主張している)。
化石燃料は依然として我々の近い将来の一部であるが、石油・ガス会社、特に生産者には、気候目標に合致するために抜本的な変化が必要だ。しかし、そうした変化は彼らの経済的な利益にはならないのだろう。本当に必要な転換への意思を示す企業はほとんどないようだ。
IEAの報告書が述べているように、「実際のところ、変化にコミットする者は、他の誰かが最初に動くのを待つべきではない」のである。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。