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「逆さま揚水発電」で長期蓄電、米スタートアップが実証
Courtesy Quidnet Energy
This startup wants to use the Earth as a massive battery

「逆さま揚水発電」で長期蓄電、米スタートアップが実証

米国の新興企業であるクイドネットは、地下に加圧水を蓄えることで、エネルギーを数カ月間貯蔵できることを示した。エネルギー変換効率はリチウムイオン電池に劣るが、コスト競争力を持てれば送電網向けの有用な電力貯蔵手段になる可能性がある。 by Casey Crownhart2025.08.04

この記事の3つのポイント
  1. クイドネット・エナジーが地下圧送水による6カ月エネルギー貯蔵テストを完了した
  2. 同社が35メガワット時の放電に成功し自己放電なしを実現した
  3. 2026年初頭に公益事業との共同施設が稼働開始予定である
summarized by Claude 3

米国テキサス州を拠点とするスタートアップ企業、クイドネット・エナジー(Quidnet Energy)は、水を地下に圧送することで最大6か月間エネルギーを貯蔵できることを示す実証試験を完了した。

水を使って電気を貯蔵することは新しい概念ではない。揚水発電による貯蔵は1世紀以上にわたって利用されてきた。しかし同社は、この技術に独自の工夫を加えることで、安価で長期のエネルギー貯蔵を新たな地域にもたらせると期待している。

従来の揚水発電施設では、電動ポンプで水を高所にある自然または人工の貯水池へ送り込み、電力が必要になった際には水を放出、落下させてタービンを回すことで発電する。一方、クイッドネットの方式では、水を不透水性の岩盤へと圧送し、圧力をかけた状態で貯留。放出時に自然に上昇させて発電に利用する。「上下逆さまの揚水発電のようなものです」と最高経営責任者(CEO)のジョー・ジョウは言う。

クイドネットは2024年後半に6カ月間の技術試験を開始し、システムに圧力をかけて運用した。2025年6月には、井戸から35メガワット時のエネルギーを放放出することに成功。自己放電は事実上なく、エネルギーの損失はほとんどなかったという。

数週間から数カ月間にわたって電力を蓄えられる安価なエネルギー貯蔵手段は、風力や太陽光のような変動性のある電力源を送電網に接続するうえで有効だ。市販の機器を使用するクイドネットのアプローチは、迅速な導入が可能で、連邦税額控除の対象になる可能性があるため、コスト競争力を高められるかもしれない。

今後の大きな課題として、水に蓄えた圧力エネルギーを実際に電力へと変換する工程が残されている。現在、同社はタービンおよび補助機器を備えた施設を建設中だ。それらの部品はすべて既存の企業から調達可能なものである。「今日までに開発したものをベースにして新しいものを発明する必要はありません。非常に大規模な展開を開始できます」(ジョウCEO)。

このプロセスにはエネルギー損失が伴う。エネルギー貯蔵システムは通常、システムに投入された電力のうち、最終的に電力として返される量の割合である「往復効率」で測定される。ジョウCEOによると、計算上は、クイドネットの技術は最大約65%の効率を達成できる見込みだが、経済性を重視した設計上の選択により、実際には50%程度に落ち着く可能性が高いという。

この効率はリチウムイオン電池よりも低いが、長期間のエネルギー貯蔵が可能でコストが十分に低ければ、電力網にとっては依然として有用であると、米国国立再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory)のポール・デンホルム上級研究員は述べている。

「コスト競争力がなければなりません。すべてはそこに帰結します」。

エネルギー貯蔵において最も急成長している技術であるリチウムイオン電池は、クイドネットのような新しい形態のエネルギー貯蔵技術が追いかけなければならない目標である。リチウムイオン電池の価格は現在、15年前と比べて約90%安くなっており、新たな天然ガス発電所の建設に対して価格競争力のある代替手段となっているとデンホルム研究員は言う。

バッテリーとの競争において、クイドネットが差別化要因の一つとして期待できるのは、政府補助金となるかもしれない。トランプ政権はクリーンエネルギー技術への資金提供を削減したものの、エネルギー貯蔵設備に対する税額控除は継続している。ただし、最近可決された法案により、新たなサプライチェーン制限が追加された。

2026年以降に新しいエネルギー貯蔵施設が税額控除の適用を受けるには、プロジェクトの材料価格の少なくとも55%が、「懸念される外国事業体」由来ではないことを証明する必要がある。これにより、現在バッテリー生産を支配している中国からの調達は事実上排除される。クイドネットは「国内調達比率が高く」、新しい規則の下で税額控除の対象となると見込みだとジョウCEOは述べる。

クイドネットが公益事業パートナーであるCPSエナジー(CPS Energy)との共同プロジェクトで建設中の施設は、2026年初頭に稼働を開始する予定だ。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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