KADOKAWA Technology Review
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先住民族の知と
人工知能が交差するとき
Courtesy of the artist
Indigenous knowledge meets artificial intelligence

先住民族の知と
人工知能が交差するとき

先住民アーティストたちは、テクノロジー、記憶、そして抵抗をめぐる関係を、新たなかたちで描き直そうとしている。 by Petala Ironcloud2025.08.19

ほとんどの先住アメリカ民族の言語には、「芸術」を表す言葉がない。その代わりに、最も近いものとして、対象性ではなく行動や意図を伝える用語がある。ラコタ語では、「wówačhiŋtȟaŋka」が深い思索や内省といったニュアンスを持ち、「wóčhekiye」は捧げ物や祈りを意味する。芸術は生活から切り離されたものではない。儀式であり、教えであり、設計である。建築やコードと同じように、芸術は知識を伝え、責任を果たす。その力は保存されたり展示されたりすることの中にあるのではなく、どのように動き、教え、使用を通じてつながるかということの中にある。これは、知性と相互作用に関するテック業界の前提に異議を唱える原則である。

スザンヌ・カイト(オグララ・ラコタ族)、レイヴン・チャコン(ディネ族)、ニコラス・ガラニン(トリンギット族)といった先住民アーティストの新たな先駆者たちは、この原則を土台にしている。彼らは、ステレオタイプの織物や彫刻、あるいはシリコンバレーに対する報復主義的な批評によってではなく、搾取的なデータモデルを拒否し、関係性に基づくシステムを支持するという立場で一致している。そのようなテクノロジストたちは、人間とテクノロジーの関係性を自身の作品の中心に据えている。

たとえば、スザンヌ・カイトのAIアートインスタレーションは、ラコタ族の考えるデータ主権の枠組みをモデル化している。それは、相互的で合意的な相互作用を通してのみ生まれる知性である。不可解な利用規約を通じたユーザーの同意を前提とするシステムとは異なり、カイトの動態的な仕掛けは鑑賞者の物理的な存在を必要とし、その見返りとして何かを返してくれる。

「それは私のデータであり、私の訓練用データセットです。私はそれを訓練するために何をしたのか、正確に知っています。それは大規模なモデルではなく、小規模で親密なモデルです」。カイトは言う。「技術的に進んだものを作ることに特に興味はありません。私はアーティストです。テクノロジーのデモは作りません。だから、技術だけではなく、多くのレイヤーからもたらされる複雑さが必要です」。

カイトが同意に基づくAIの実際に動作するプロトタイプを構築しているのに対し、仲間の他のアーティストたちは、音、ロボット工学、パフォーマンスが、自動化や監視、搾取の論理に立ち向かうことができる方法を探求している。しかし、先住民たちはテクノロジーから決して切り離された存在ではない。米国のインフラ(テクノロジーを含む)を築き上げた土地、労働力、生活様式は、先住民たちのものだ。問いは、先住民の文化が今貢献しているかどうかではなく、それがなぜ切り離されてきたと考えられてきたのか、ということである。

先住民の技術は、多くの西洋のイノベーションの基礎となっている誤った二項対立を拒絶する。これらのアーティストたちは、より根本的な問いを投げかける。もし、関係性が構築されるまで知性を集めることはできないとしたら? もし搾取ではなく拒否がデフォルトだとしたら? これらのアーティストたちは、今日のシステムの中に組み入れられることを求めているのではない。次に来るべきものを構築しているのだ。


スザンヌ・カイト

stones arranged on a reflective surface
Wičhíŋčala Šakówiŋ(7人の少女)
2023
カイトにとって、西洋のテクノロジーの根本的な欠陥は、知識を身体から分離していることである。このインスタレーションでは、センサーが埋め込まれた4メートルの三つ編みの髪が、アーティストの身体の動きを機械学習アルゴリズムに変換する。ライブパフォーマンス中、カイトが踊ると、彼女のジェスチャーの力とリズムを三つ編みが読み取り、音声レスポンスを生み出す。その音声レスポンスが、ニューメキシコ州サンタフェにあるアメリカンインディアン芸術研究所のミュージアムギャラリーを満たす。彼女の下には、ラコタ族の星図を反映する模様で石が配置されており、このパフォーマンスを伝統的な天文学の知識につなぎとめている。
COURTESY OF THE ARTIST
Ínyan Iyé(語りかける岩)
2019
このインスタレーションは、埋め込まれたAIを使って鑑賞者に語りかけ、反応することで、知性と主体性に関する前提を覆す。「人々は耳を澄まし、私はささやく/岩は聴覚を超えて語りかける…多くの部族が語りかけている/私たちは言葉なしに互いに語りかける」と、この作品は唱えるように語りかけ、鑑賞者がその編み込まれた蔓と関わり合うと、光が変化する。この作品は、カイトが「人間以上の知性」と呼ぶもの、つまり、すべての関係性は相互交換と責任を伴うという基本原則である、相互関係性に根ざしたシステムを伝えることを目的としている。
COURTESY OF THE ARTIST

レイヴン・チャコン

artist performing in a church
声なきミサ
2021
ピューリッツァー賞を受賞したレイヴン・チャコンの音楽作品「声なきミサ(Voiceless Mass)」は、2021年にミルウォーキーの伝道者聖ヨハネ大聖堂で初演された。この作品は、彼が「建物が聴くことのできる音」と呼ぶ電子周波数を発生させ、この大聖堂の音響特性を利用して人間の声帯を使わずにスペクトルの声を作り出す。それはまるで、歴史的に姿を消したものに存在感を与えるテクノロジー的な降霊会である。それぞれの場所に特化したパフォーマンスは録音され、センサーのネットワークが存在を記録する方法を反映した素材が生み出される。ただしその記録は、明示的な同意のもとでのみ行われる。
COURTESY OF THE ARTIST

ニコラス・ガラニン

Aáni yéi xat duwasáakw(我は大地と呼ばれている)
2025
ガラニンの機械的な太鼓のインスタレーションは、機械の動きと人間の記憶との対立を演出し、同意する身体なしに文化が演じられるときに何が起こるのか問いかけている。箱太鼓は、歴史的にはレッドシダーを彫って作られ、編まれたトウヒの根で吊るされる楽器だが、ここではチェリーウッドで作られ、トリンギット族の板張りの家で伝統的に行われているように、ボストンのマスアート美術館の天井から吊るされている。部族の集会、祝賀、儀式で演奏されるこの太鼓は、社会的機能を持つだけでなく、音の記憶も刻んでいる。機械のアームが、心臓の鼓動のテンポで揺らぐことなく太鼓を打つ。警告のようなその音は、自動化と先祖性の間の緊張感を伴って脈打つ。
COURTESY OF THE ARTIST
私はこのように考えている(自分自身を奮い立たせる)
2025
分解された模造トーテム像から鋳造されたこの大掛かりなブロンズ彫刻は、先住民の技術と文化に対する入植者の破壊行為を告発する役目を果たしている。家系のデータベースから聖書のような聖典のバーチャル版に至るまで、今日のデジタル記録とは異なり、トリンギット族のデータは木に彫られている。ガラニンのトーテムポールは情報システムとしての機能を強調しており、その彫刻は、歴史、神話、家族を符号化している。
COURTESY OF THE ARTIST

著者のペタラ・アイアンクラウドは、ラコタ族/ダコタ族とユダヤ人のルーツを持つカリフォルニア生まれの作家であり、ニューヨークを拠点に活動するテキスタイル・アーティストでもある。

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