
マテリアル・カルチャーズ:
「未来の建築」への
オルタナティブな提案
パロマ・ゴームリー率いる建築事務所「マテリアル・カルチャーズ」は、石油依存の現代建築システムからの脱却を目指し、麻や藁など地元の自然素材を活用した建築を実践。伝統技術を現代に蘇らせ、ハイテク志向の建築界のパラダイムシフトに挑んでいる。 by Patrick Sisson2025.08.27
- この記事の3つのポイント
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- 英マテリアル・カルチャーズは石油依存の現代建築システムからの脱却を目指す
- 麻や藁など地元自然素材を活用し、伝統技術を現代建築に応用する実践的取り組み
- 建築界の主流であるハイテク志向に対する思想的オルタナティブを提案
グリーン認証の取得、材料調達の改善、集成材などの持続可能な材料の使用といった数十年にわたる取り組みにもかかわらず、建築環境はいまだに世界全体の温室効果ガス排出量の3分の1を占めている。2024年の国連報告書によると、建設部門は、持続可能性に向上に向けた「進展に大幅に遅れをとっている」という。建物の建築方法や運営方法を変えることは、気候目標に少しでも近づくための重要な鍵であり続けている。
「建設において何かをいつもと違う方法でやろうとすると、すぐに壁にぶつかるものです」。こう話すのは、英国ロンドンを拠点に設計と研究に取り組む非営利団体「マテリアル・カルチャーズ(Material Cultures)」のパロマ・ゴームリー理事だ。「そこで止めることもできますし、一歩引いて別の道を探すこともできます」。
ゴームリーは、自らが「オイル・ヴァナキュラー(oil vernacular)」と呼ぶ石油依存の建築システムを修復するために、伝統的な手法を新たなかたちで活用する方法を体系的に探ることで「回避策」を見つけようとしてきた。「オイル・ヴァナキュラー」とは、地元の自然素材ではなく、化石燃料から作られた世界的な商品やプラスチック製品によって形作られた現代の建築システムを指す。
著名な英国人彫刻家アントニー・ゴームリーの娘として、芸術とデザインにあふれる家庭で育ったパロマ・ゴームリーだが、自らを優れた作り手とは思っておらず、むしろ「ボジャー(bodger)——不器用で雑な仕事をする人」だと語る。
むしろ即興的なモノづくりをする人、DIY愛好家という方が正確かもしれない。彼女が最初に手がけた建築の一つは、20代の夏に英国を巡る旅に使ったトラックの荷台に建てた仮設住宅だった。2009年にケンブリッジ大学を卒業後に共同設立した建築事務所「プラクティス・アーキテクチャー(Practice Architecture)」の初期の仕事は、ロンドンのDIYサブカルチャーや非公式なアートスペースの影響を強く受けていた。「そうした空間は物事の間のすき間に存在していましたが、その中で可能性を強く感じました」と彼女は語る。
2009年にゴームリーがペッカムの立体駐車場の屋上に建てた、彫刻公園を併設したバー・レストラン「フランク・カフェ(Frank’s Café)」は、ラチェット式ストラップや足場板、材木置場で調達した廃材を、古いボルボのルーフラックに載せて運んで建設された。このプロジェクトは、彼女とパートナーのレティス・ドレイクが、低予算で地元の資材を用いて生み出した一連の文化的・社会的空間の最初の取り組みである。
マテリアル・カルチャーズは、ゴームリーがロンドン・メトロポリタン大学で教えていた際に築いた人脈から誕生した。2019年、彼女はサマー・イスラムとともに授業助手を務めていた。イスラムはジョージ・マスードと友人関係にあり、2人はどちらも建築家であり、事務所スタディ・アブロード(Study Abroad)のパートナーでもあり、より社会的意識の高い設計を提唱していた。3人は、持続可能性と建築慣行に対する共通の関心を持っていた。また同時に、ハイテク設計によって持続可能性を追求するという建築界の傾向にも、違和感を覚えていた。3人は、炭素集約型の鋼材などを用いて効率的な商業・住宅空間を建てる近代的手法の代わりに、建築の原則そのものを再検討してみてはどうかと考えた。地元の自然素材で建てれば、そもそも炭素排出 …
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