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インドが描いた「トリウムの夢」、米企業の燃料技術で花開くか
Courtesy Photo
気候変動/エネルギー Insider Online限定
This American nuclear company could help India’s thorium dream

インドが描いた「トリウムの夢」、米企業の燃料技術で花開くか

米国政府は、米企業が自社開発した原子炉用燃料をインドに輸出することを承認した。既存の加圧水型重水炉で利用できるこの新燃料は、放射性廃棄物の生成を従来より減らせ、燃焼効率を高められるため、インドの原子力産業に革命をもたらす可能性がある。 by Alexander C. Kaufman2025.09.04

この記事の3つのポイント
  1. 米国政府がクリーン・コア社に対してインドへの原子力技術輸出承認を与えた
  2. 同社はトリウムとHALEUを混合した新燃料を開発し既存原子炉での使用を可能にする
  3. インドが原子力責任法の見直しを示唆し米国企業の参入障壁が緩和されつつある
summarized by Claude 3

インドに原子力技術を販売することを計画しているある米国企業に対し、米国政府はここ20年で2度目となる輸出承認を与えた。MITテクノロジーレビューの取材で分かった。クリーン・コア・トリウム・エナジー(Clean Core Thorium Energy)に対する今回の承認決定は、原子力エネルギーに関する両国のより緊密な協力に向けた大きな一歩である。ウランに代わる原子炉燃料としてのトリウムの開発において、マイルストーンとなる出来事だ。

8月の承認交付以降、シカゴに本社を置くクリーン・コアは、製造したトリウム燃料をインドに出荷できるようになった。インドに輸出されたトリウム燃料は、既存の原子炉の炉心に装填される可能性がある。クリーン・コアがインドの規制当局から最終的な承認を受ければ、同社はインドに原子力技術を販売する最初の米国企業の1つとなる。世界で最も人口の多い国であるインドは厳しい規制により、米国の民間企業による原子力産業への参入を長い間妨げてきた。今回の輸出承認は、インドがその規制を緩和し始めたタイミングとちょうど一致する。

「この輸出承認は、クリーン・コアにとってだけでなく、米国とインドの民間原子力パートナーシップにとっても、転換点となります」。クリーン・コアの創業者であるメフル・シャーCEO(最高経営責任者)は言う。「トリウムを世界的なエネルギー転換の中心に置くものです」。

トリウムはずっと以前から、ウランの優れた代替品と見なされてきた。ウランよりも豊富に存在し、長寿命放射性廃棄物の量も、半減期が数世紀にも及ぶ副生成物の量も少なく、さらには燃料サイクルから得られる物質が兵器製造に転用されるリスクも減らせるからだ。

しかし、トリウム原子を分裂させるためには少なくともいくらかのウラン燃料が必要なため、トリウムは不完全な代替燃料である。加えて、世界中の商業用原子力発電所の大部分で稼働している軽水炉での使用にも、あまり適していない。そしていずれにせよ、複雑で高度に規制された原子力産業は、変化に対する耐性が極めて高い。

ウランの埋蔵量が乏しいインドにとって、埋蔵量が豊富なトリウムの利用は、輸入燃料への依存を減らすための長期戦略の一環と位置づけられてきた。インドは2000年代初頭に米国と原子力輸出条約の交渉を開始した。2008年には、「123協定」(米国が民生用原子力製品を他国に送る前にその国と結ぶ必要がある、上院によって承認された条約)の締結が承認された。

新たなアプローチ

多くのトリウム推進派は、トリウムを燃料として稼働するように設計された新たな原子炉を構想してきた。それはつまり、原子力産業を一から再構築することを意味する。シャーCEOらのチームは、別のアプローチを採用している。クリーン・コアは、トリウムと、濃度をより高めた種類のウラン「HALEU(高純度低濃縮ウラン)」を混ぜ合わせた、新しいタイプの燃料を開発した。この混合燃料は、インドの既存の原子炉の大部分と、現在開発中の新しい原子炉の多くを占める、加圧水型重水炉で使用できる。

トリウム自体は核分裂性物質ではない。つまり、トリウムの原子は本質的に、余分に存在する中性子によって原子核が簡単に分裂してエネルギーを放出するほど不安定ではない。しかしこの金属は、「増殖性(fertile)」と呼ばれる性質を持つ。つまり、中性子を吸収し、核分裂性物質のウラン233に変わるのだ。ウラン233が生成する長寿命放射性同位元素は、従来の燃料ペレットの核分裂性部分を構成するウラン235よりも少ない。ほとんどの商業用原子炉は、ウラン235の割合が約5%の低濃縮ウランで稼働している。低濃縮ウランは、燃料として使用済みになった時点でも、潜在的なエネルギーのおよそ95%が残されている。残っているのは、セシウム137やプルトニウム239のような長寿命放射性同位元素で構成される毒性の高い混合物であり、この燃料廃棄物は何万年もの間、危険な状態であり続ける。もう1つの懸念として、プルトニウムが抽出されて兵器で使用される可能性があることも挙げられる。

最大で20%まで濃縮されたHALEUにより、原子炉は利用可能なエネルギーをより多く引き出せるようになり、廃棄物の量を減ら …

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