来るか米リチウムラッシュ、
水使用10分の1の新技術で
「つるはし」売る企業
米ライラック・ソリューションズが、水使用量を従来法の10分の1に削減する新リチウム抽出技術の実証に成功。「つるはし」を売る戦略で、2年後には米国のリチウム生産量を倍増させ、業界に革命を起こす可能性がある。 by Alexander C. Kaufman2025.11.12
- この記事の3つのポイント
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- ライラック・ソリューションズが独自ビーズによる直接リチウム抽出法で従来比10分の1の水量での抽出に成功した
- 電気自動車普及でリチウム需要が急増する中、環境負荷の少ない新抽出技術開発競争が世界的に激化している
- 2027年稼働予定の商業施設が成功すれば米国初のDLE施設となり中国依存からの脱却に貢献する可能性がある
8月の明るい午後、米ユタ州ボックスエルダー郡のグレートソルト湖のノースアーム岸辺は、灼熱の異星を舞台にしたSF映画のワンシーンのようだった。砂漠の太陽は、水辺に雪のように積もり、足元で砕ける白い塩に反射して眩しい。ボートには浅すぎるこの湖の一部では、バクテリアの影響で水がペプトビズモのようなピンク色に染まっている。そして周囲は、ギザギザの赤い山々と茶色の低木に囲まれている。人の気配が感じられるのは、水際から100メートルほど離れた、輸送コンテナとトラックで作られた仮設キャンプまで伸びる、塩まみれのホースの存在だけだ。
この別世界のような光景は、ライラック・ソリューションズ(Lilac Solutions)という企業の試験場である。同社は、電気自動車やバッテリーに必要な、別名「白い金」と呼ばれるリチウムの世界供給の支配権を中国から奪おうという、米国の試みを劇的に変える技術を開発しているという。2026年稼働予定の初の商業プラント建設に向けた実証施設を解体する前に、同社はソルトレイクシティから車で約2時間離れたこの辺鄙な場所にある拠点を視察する最初のジャーナリストとして、私を招待してくれたのだ。
このスタートアップ企業は、「直接リチウム抽出法(DLE)」という、岩石からリチウムを抽出する新たな方法の商業化を目指す競争に参戦している。この方法は、従来のリチウム採掘における最も一般的な2つの方法、すなわち硬岩採掘と塩水抽出による環境への悪影響を軽減するよう考案されている。
世界最大のリチウム生産国であるオーストラリアは、前者の方法を採用している。リチウムを豊富に含む岩石を地中から削り取り、化学的に処理して工業用グレードのリチウムに加工する。世界第2位のリチウム産出国であるチリは、後者の方法を採用している。太陽が降り注ぐアタカマ砂漠の一帯に水を張るのだ。その結果、リチウムを豊富に溶け込んだ池ができ、その後、この池を乾燥させるとリチウム塩が残る。リチウム塩は、採取して別の場所で加工することができる。
DLEとして知られる多様な手法もリチウム塩水を使用する。だが、いずれも水を大量に消費する蒸発法ではなく、リチウムイオンを選択的に分離する高度な化学的または物理的なろ過プロセスを採用している。DLEはまだ普及途上であるが、水と土地の必要量が少なくて済む。そのため、電気自動車の普及、さらには電力網のバックアップ用としてより大型なバッテリーの使用がますます進む中、リチウム需要の増加に対応して生産量を拡大しようとする企業や政府にとって、主要な注力ポイントとなっている。世界で採掘されるリチウムの3分の2以上を処理する中国は、原料の国内生産量を増やすため、独自のDLEを開発している。これらの新たな手法はまだ研究中だが、現在10社あまりの企業がDLE技術の商業化に積極的に取り組んでおり、一部の産業大手はすでに基本的な市販ハードウェアを提供している。
8月にライラックは、自社技術のこれまでで最も高度な試験を完了した。同社によると、この技術は従来のリチウム抽出法よりはるかに少ない水量で済むだけでなく、他のDLE法と比べてもわずかな水量しか必要としないという。
同社は、独自のビーズを用いて水からリチウムイオンを抽出する。そのプロセスでは、DLE業界を席巻しているアルミナ吸着剤技術の10分の1の水量でリチウムを抽出できるという。ライラックはまた、自社のサプライチェーンが「オールアメリカン」であることも強調している。たとえば、コーク・インダストリーズ(Koch Industries)が開発した技術には、一部中国製のコンポーネントが使われている。一方、ライラックのビーズは、ネバダ州にある同社の工場で製造されている。
ライラックによると、このビーズは特に低濃度のリチウム抽出に適しているという。かといって、どこにでも使用できるという意味ではない。ハドソン川で近いうちにリチウムが抽出されるようになることはないだろう。しかし、ライラックの技術は、現在市場に出回っている技術に比べて、大きな利点をもたらす可能性がある。ライラック自身が大手生産者になる計画を断念し、最高の装置を求めるリチウム採掘企業に訴求することで、世界の生産量の一定の割合を獲得できる可能性がある。そう述べるのは、カーネギー国際平和財団の研究員で、最近DLEに関するレポートを執筆したマイロ・マクブラ …
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