私の健康度はどれぐらい?
新しい「免疫スコア」が
見えない病気を教えてくれる
イェール大学の免疫学者から届いたメールには、筆者の免疫システムを100万個の細胞レベルで解析した結果が添付されていた。新たな「免疫スコア」は、症状が現れる前に病気を発見する時代の到来を告げている。 by David Ewing Duncan2025.11.21
- この記事の3つのポイント
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- イェール大学の免疫学者が血液から100万個の細胞・分子を解析し、免疫健康指標を算出する新検査法を開発した
- 従来検査は数種類の免疫細胞数のみ測定するが、新手法は細胞間相互作用まで包括的に評価できる
- 世界30億ドル規模のヒトイムノームプロジェクトで、25万人検査し個別化医療実現を目指す
自分の免疫システムの強さについて、メールを受け取ることは滅多にないだろう。だが昨春、私のスマートフォンにはまさにそれが届いた。
イェール大学の免疫学者であるジョン・ツァン教授から届いたそのメールは、私の血液が驚くほど多様な最新鋭の検査を彼の研究室で受けた後に送られてきたものだった。たとえるなら、全身の免疫システムを高解像度のCTスキャンで撮影したようなもので、その結果は私がこれまで受けたどの検査よりも健康状態について多くのことを明らかにするという。そして、その結果は、自分が知りたかったこと以上のことを教えてくれる可能性がある。
「デビッド、あなたは赤い点です」。メールにはこう書かれていた。
ツァン教授が言及していたのは、メールに添付されたグラフのことだった。そのグラフには、免疫システムの評価を受けた他の人々を表す黒い点が散在しており、その中にひとつだけ赤い点があった。そこには「0.35」というスコアも記されていた。
これが何を意味するのか、私にはまったく分からなかった。
この赤い点は、数か月前の秋の午後に始まった免疫学的探求の集大成だった。その日、ツァン教授の研究室のポスドク(博士研究員)が私の血液サンプルを数本採取したのだ。それはまた、生命科学と医学を取材してきたジャーナリストとしての、数十年におよぶ旅路の大きな節目でもあった。私はこれまで、自分の健康や寿命に関する新たな知見をもたらすとされる何百もの検査の「モルモット」役を買って出てきた。2001年には、DNA配列の解読を受けた最初の人間の一人となった。ほどなくして、研究者たちは私の血液中に循環するタンパク質、すなわちプロテオームを解析した。その後も、マイクロバイオーム、メタボローム、その他さまざまな項目の評価が行なわれた。私は常に最新のプロトコルやデバイスを試し、数十テラバイトにおよぶ自身のデータを蓄積し、その成果を数多くの記事や著書『Experimental Man』(2009年、未邦訳)で発表してきた。検査は年月とともに進歩し、有用性も増したが、ジョン・ツァン教授が提供する検査ほど包括的に私の健康の真実に迫ることを約束したものはなかった。
最初の検査を受けたときから20年以上の歳月が流れ、自分が年を取ったこともまた、私は意識していた。40代の頃は、驚くほど健康だった。それ以降、私は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に2回感染し、その後遺症にも悩まされた。加えて、さまざまな病原体、ストレス、怪我、そして人生そのものが私を打ちのめしてきた。
しかし、イェール大学システム・エンジニアリング免疫学センター(Center for Systems and Engineering Immunology)を率いる、スリムでいつも笑顔を絶やさないツァン教授が、ニューヘイブンのオフィスに私を招き、「ヒトイムノーム(human immunome)」なるものを紹介してくれたとき、私は不安を心の奥にしまい込んだまま、その話に耳を傾けた。
1兆8000億個の細胞、さらに数兆個におよぶタンパク質、代謝産物、mRNA、その他の生体分子で構成されるイムノームは、個人ごとに異なり、常に変化している。その構成は、DNA、過去の病歴、呼吸した空気、食べたもの、年齢、トラウマやストレスなど、要するに私たちが身体的・精神的に経験したすべてによって形作られる。今この瞬間も、あなたの免疫システムは、がん化する可能性のある、あるいはすでにがん化したウイルスや異常細胞を見つけては排除しようと奮闘している。そして、その働きがうまくいくかどうかは、その時点の健康状態に大きく左右されるのだ。
しかし、イムノームが私たち一人ひとりにとって極めて重要であるにもかかわらず、この細胞と分子の宇宙は、現代医学の手がほとんど届かない領域であり続けている。それは、ウイルスやがんへの脆弱性、老化の度合い、特定の食品への耐性など、あらゆることに強い影響を与えるにもかかわらず、アクセスが困難な巨大なオペレーティングシステムのような存在だ。
だが、今では、さまざまな新技術の登場と、チャン・ザッカーバーグ・バイオハブ・ニューヨーク(Chan Zuckerberg Biohub New York)の運営委員を務めるツァン教授のような科学者たちのおかげで、この重要で謎めいたシステムの理解が手の届くところまできている。それにより、病気をより正確に評価・診断・治療するための強力な新しいツールや検査が開発されつつある。
すでに新たな研究によって、私たちの体がストレスや病気にどう反応するかのパターンが明らかになりつつある。科学者たちは、弱いイムノームと強いイムノームの対比ポートレートを作成している。将来的には、こうしたポートレートが患者ケアに新たな知見をもたらし、症状が現れる前に病気を発見することにもつながると期待されている。さらに、この知識と技術を世界規模で展開し、気候、地理、その他数えきれない要因がイムノームに与える影響を観察できるようにする計画も進んでいる。その結果、健康であることの意味や、病気の発見・治療の方法が根本から変わるかもしれない。
そして、すべては免疫システムが健康かどうかを判定できる検査から始まるのだ。
イムノームを読む
昨秋、ツァン教授のオフィスで、私はイムノミクス(免疫オミクス)に関する個人講義を受けた。ツァン教授は、コンピューターサイエンスと免疫学を融合させた専門知識を持つシステム免疫学者である。彼は、自身のチームとともに執筆し、2024年にネイチャー・メディシン(Nature Medicine)誌に掲載された研究論文を紹介した。この論文は、270人の被験者から採取した血液サンプルの測定結果について述べたもので、彼のチームが私に実施しようとしている検査とよく似たものだった。この研究でツァン教授らは、さまざまな遺伝性疾患と診断された228人の患者と、健常者42人からなる対照群の免疫システムを調査した。
私の検査結果がどのようなものになるかを視覚的にイメージしやすくするため、ツァン教授はノートパソコンを開き、その研究で作成された色鮮やかな図をいくつか見せてくれた。図には、評価対象となった各人を表す黒い点が点在していた。それは、ジョアン・ミロの抽象画をなんとなく連想させるものだった。ただし、そこにあったのはカラフルな斑点や渦巻き、円ではなく、緑、青、オレンジ、紫などで色づけされた散布図、ガントチャート、ヒートマップの数々だった。
私にはすべてがちんぷんかんぷんだった。
幸いなことに、ツァン教授が親切にも私のガイドを引き受けてくれた。彼はいつものように穏やかな笑顔を浮かべながら、これらのカラフルで入り組んだ図は、各被験者から採取した血液サンプルをもとに、免疫細胞、タンパク質、mRNA、そのほか免疫系の構成要素がどれほど機能しているかを詳細に評価した結果を示しているのだと説明してくれた。
図は、黒い点で表された各人が、左から右へと、不健康なイムノームを持つ人から健康なイムノームを持つ人まで、連続的に配置されていた。一方、背景色は、それぞれ異なる免疫関連疾患を識別するために使われていた。たとえば、オリーブグリーンは自己免疫疾患のある人を、オレンジ色は既知の病歴のない人を示していた。ツァン教授は、私の血液の解析が終わったら、同様のグラフに私の位置もプロットすると話してくれた。
ツァン教授による測定は、現在一般的に行なわれている限られた免疫バイオマーカーの検査よりもはるかに高度だ。「医師が通常指示する代表的な免疫細胞パネルは『CBC白血球分画』と呼ばれるものです」と彼は説明した。CBCとは「全血球算定(complete blood count)」の略で、赤血球、ヘモグロビン、そして基本的な免疫細胞の種類(好中球、リンパ球、単球、好塩基球、好酸球)の数を測定する、数十年前から行なわれてきた検査である。これらの数値の変化は、免疫システムがウイルスや感染症、がん、あるいは別の何かに反応している可能性を示すものだ。心臓病に関連する炎症を示すC反応性タンパク質の上昇を調べる検査などは、CBCよりは特異性が高いが、それでも特定のタンパク質を単純に「数える」ことに依存している点では変わらない。
それに対して、ツァン教授の評価法では、最大100万個の細胞、タンパク質、mRNA、免疫関連生体分子を解析する。これはCBCなどの従来の検査よりもはるかに多くの情報を提供するものである。彼のプロトコルは、細胞や分子の単純な「数」だけでなく、それらの相互作用も解析することで、免疫システム全体のより包括的な姿を描き出すことを目的としている。
「CBCは、医師である私に、数えられた細胞が実際に何をしているかを教えてくれるわけではありません」と話すのは、ネイチャー・メディシン誌に掲載された研究の筆頭著者であり、現在は製薬大手アストラゼネカ(AstraZeneca)で橋渡し医療を担当する臨床免疫学者のレイチェル …
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