「体型で決まる」は間違い?
人工気候室での実験が明かす
体温調節の意外な事実
背が高く痩せた人は寒さに弱く、がっしりした人は強い——100年前の定説が揺らいでいる。人工気候室で極寒・酷暑への耐性を測る研究者たちは、気候変動によって迫られる、体温調節科学の刷新を目指している。 by Max G. Levy2025.12.03
- この記事の3つのポイント
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- 米テキサス州の研究チームが人工気候室で極限温度への人体反応を実験し、従来の体温調節理論を検証している
- 気候変動により極端な気温が世界規模で人命を脅かし、体温調節メカニズムの科学的解明が急務となっている
- 個人差が予想以上に大きく、体型以外の要因が重要。新たな予測モデルと対策システムの開発が必要だ
2025年6月25日、米テキサス州フォートワース。私は研究室から支給された下着姿で震えていた。もふもふのパーカーを着た人類学者のリビー・カウギルが、4℃に設定された金属製の壁の部屋へと私と簡易ベッドを運び込んだ。天井からはファンの風が大きな音とともに吹きつけ、下からは簡易ベッドのメッシュを通して体温の残りかすが吸い取られていく。大きな呼吸マスクが、ぴったりと私の鼻と口を覆っている。この装置は、呼気中の二酸化炭素濃度を追跡するもので、実験を通して私の代謝がどのように増減するかを測る指標となる。実験の最後に、カウギルは呼吸マスクを外し、針金のように細い金属の温度検出器を私の鼻に数センチメートル差し込んだ。
カウギルと大学院生が、「人工気候室」と呼ばれる部屋の隅から静かに私を観察する。ほんの数時間前、私は彼らの隣に座り、別のボランティアである24歳の男性パーソナルトレーナーが寒さに耐えている様子を観察していた。数分ごとに、サーモグラフィー・カメラで皮膚温、ワイヤレスピル(内服型温度センサー)で深部体温、さらには彼の身体が極度の寒さにどのように対処しているかを示す血圧やその他の指標が計測された。彼はほぼ1時間、震えることなく耐えた。私は自分の順番が来ると、簡易ベッドの上でほぼ1時間、激しく震え続けた。
極端な気候に対して人体がどのように反応するか? その答えを探る実験について学ぶため、私はテキサスを訪れている。「これまででもっとも震え始めた記録は?」。私の胸と脚にバイオセンサー装置をテープで貼り付けながら、カウギルは冗談めかして尋ねた。寒い人工気候室での実験が終わると、彼女は私を驚かせた。「信じられないかもしれませんが、あなたはこれまで見てきた中で最速ではありませんでしたよ」。
ミズーリ大学で准教授を務めるカウギルは、40代の人類学者だ。休みの日にはパワーリフティングに励み、クロスフィットを教えている。小柄ながらもたくましく、黒い前髪と幾何学模様のタトゥーが目をひく。2022年からは、北テキサス大学健康科学センターで夏休みを過ごし、こうした不快な実験に取り組んでいる。彼女の研究チームは、体温調節の科学を刷新したいと考えているのだ。
人々がどのように体温調節をしているかは大まかに分かっているが、温かさや涼しさを保つための科学には、まだ多くの解明されていない謎が存在する。「全体像は分かっていますが、(外気温の)影響を受けやすい脆弱な集団に関する具体的な知見はあまりありません」。ワシントン大学の疫学者で、暑さと健康について30年以上研究してきたクリスティー・エビ教授はこう話す。「心臓病を患っている場合、体温調節はどのように機能するのでしょうか?」
「疫学者たちは、この問題に応用できる特別なツールを持っています」とエビ教授は続ける。「しかし、他の専門分野からの答えがもっと必要です」。
気候変動は、脆弱な人々を限界を超える気温に曝している。2023年には、欧州で熱中症関連の死者が約4万7000人に達したと推定されている。研究者たちは、気候変動によって今世紀中に欧州で、熱中症関連の死者がさらに230万人増える可能性があると試算している。そのため、極限の環境下で人体に何が起こるのかという謎を解明する重要性が高まっているのだ。
極寒・酷暑はすでに世界の広い範囲を脅かしている。中東、アジア、サハラ砂漠以南のアフリカの人々は、「人間が暑さに耐えることができる」と広く受け入れられている水準を超える高温に日常的に直面している。さらに今や、米国南部、北欧、アジアの広い地域では、前例のない低温にも見舞われている。2021年にテキサス州を襲った猛烈な寒波では少なくとも246人が死亡し、2023年の極渦(ポーラー・ヴァルテックス)は中国最北端の都市の気温をマイナス53℃にまで急落させた。これは低体温症を引き起こしかねない記録的な寒さである。
こうした変化はすでに起こっており、さらなる変化が迫っている。気候科学者たちは、炭素排出量を制限することで、致命的となる極端な気候が他の地域に及ぶのを防げると予測している。しかし、炭素排出量がこのまま推移すれば、猛烈な暑さと寒さがすべての大陸の奥深くまで及ぶだろう。世界で最も暑い地域では、約25億人がエアコンを持っていない。そして、エアコンを使えば、屋外の気温はさらに高くなり、人口密集都市のヒートアイランド現象が深刻化する。また、熱波や寒波で送電網が機能不全に陥った場合、エアコンも暖房器具もほとんど役に立たない。
カウギル准教授のような実験を通して、世界中の研究者たちは、極端な気候が「不快」から「致命的」へと変化するタイミングに関する法則を見直そうとしている。その研究結果は、暑さと寒さの限界、そして新しい世界で生き残る方法について、私たちの考え方を変えるものとなるはずだ。
具体化された変化
考古学者たちは、かつて人類が想像を超える寒さに耐えてきたことを以前から知っていた。人類は、約1万1700年前の最終氷期が終わるずっと前に、ユーラシア大陸と北米大陸に進出した。この時代を生き延びた唯一のヒト族は私たちだけであった。ネアンデルタール人、デニソワ人、そしてホモ・フローレシエンシスはすべて絶滅した。これらの種が何によって絶滅したのかははっきりとは分かっていない。しかし、人類が衣服による保護、大規模な社会ネットワーク(生存に必要な物資や知恵の共有)、そして生理学的な柔軟性によって生き延びたことは確かだ。極寒・酷暑に対する人間の耐性(レジエンス)は、私たちの身体、行動、そして遺伝子コードに焼き付いている。そうでなければ、私たちはいま存在していないだろう。
「私たちの身体は常に環境とコミュニケーションをとっています」。極限の状況におけるエネルギー消費について研究するノートルダム大学の人類学者、カーラ・オコボック准教授は言う。彼女はフィンランドのトナカイ飼いやワイオミング州の登山家たちと密接に協力してきた。
しかし、身体と気温の関係は、驚くべきことに、科学者にとっていまだに謎に包まれている。1847年、解剖学者のカール・バーグマンは、動物種は寒冷な気候で大型化することを発見した。1877年には、動物学者ジョエル・アサフ・アレンは、寒冷地に住む動物は付属肢(手足や耳など)が短いことを指摘している。さらに、鼻に関する指摘もある。1920年代、英国の人類学者アーサー・トムソンは、寒冷地の人々は、吸い込んだ空気を温め、湿らせるのに効果的な、比較的長く細い鼻を持っているという説を唱えた。この理論は、クマやキツネといった動物の観察から生まれたもので、その後に続いた他の理論は、寒さに慣れた先住民集団の身体と、対照群となる白人男性の身体を比較した研究から生まれた。表面積の最適化に関するものなど、理にかなったものもある。例えば、背が高く細い体は、余分な熱を放出するための皮膚の量を増やすというのは合理的に思える。問題は、科学者たちが実際に人間でこのような事柄を実験したことが一度もないことだ。
これまで、私たちが気温の耐性について知っていることの一部は、100年前の人種科学、あるいは人体がすべてを制御しているという仮説に由来している。だが、科学は進化し、生物学は成熟した。幼少期の経験、ライフスタイル、脂肪細胞、そして不安定な生化学的フィードバック・ループは、これまで想像もできなかったほど人体は柔軟であるというイメージにつながる。そして、そのことが研究者たちに研究方法の転換を促している。
「とても背が高く、ひょろっとした痩せ型の人を寒冷地に連れて行ったとしたら、背が低く、がっしりとした人よりも、体温を維持するために多くのカロリーを消費するでしょうか?」とオコボック准教授は言う。「誰もその点を検証してきませんでした」。
オコボックとカウギルの両准教授は、北テキサス大学フォートワース校解剖科学センターのスコット・マダックス准教授とエリザベス・チョー助教授と共同研究を実施した。4人と …
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