AI企業の軍事進出、戦争は完全自動化される?:FT・MITTR共同企画
AI企業が軍事分野へ進出している。オープンAIはドローン迎撃を支援し、防衛技術へのVC投資は前年の2倍に。だが専門家は「戦争の完全自動化は幻想」と指摘。FT・MITTR記者が、AI戦争の誇大宣伝と現実、倫理的懸念を検証する。 by James O'Donnell2025.11.21
- この記事の3つのポイント
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- フィナンシャル・タイムズとMITTRの記者が軍事AI利用の倫理的ジレンマについて語った
- オープンAIが防衛契約を締結しテック企業の軍事転換が加速、莫大な開発費回収が背景
- AI戦争システムの安全性検証と政治的説明責任の確立が急務、技術限界への懐疑も必要
「ステート・オブ・AI(The State of AI)」は、AIが世界の力関係をどのように再構築しているかを検証する、フィナンシャル・タイムズとMITテクノロジーレビューの共同企画である。6週間にわたり、両誌の執筆陣が、生成AI革命が世界のパワーバランスをどう変えているかという一側面について議論する。
この対話では、フィナンシャル・タイムズの調査報道記者で、元国防・安全保障担当編集者のヘレン・ワレルと、MITテクノロジーレビューのAI担当上級記者のジェームス・オドネルが、軍事におけるAI利用をめぐる倫理的ジレンマと経済的インセンティブについて考察する。
ヘレン・ワレル(フィナンシャル・タイムズ)の見解
2027年7月、中国は台湾侵攻の瀬戸際にあります。AIによる標的能力を備えた自律型ドローンが、台湾の防空システムを圧倒する準備を整え、AIが生成した一連の壊滅的なサイバー攻撃がエネルギー供給と重要通信を遮断しています。その間、AI駆動の親中ミーム工場による大規模な偽情報キャンペーンが世界中のソーシャルメディアで展開され、北京による侵略行為への抗議の声を封じ込めています。
このようなシナリオは、戦争におけるAI活用の議論にディストピア的な恐怖をもたらしています。軍司令官たちは、人間の指揮による戦闘よりも高速かつ正確な、デジタル強化部隊の導入を望んでいます。しかし、AIがますます中核的な役割を担うようになるにつれ、紛争が急速にエスカレートし、倫理的・法的監視が欠如することで、司令官たちが制御を失うのではないかという懸念も生じています。元米国務長官ヘンリー・キッシンジャーは晩年、AI主導の戦争がもたらす破滅の未来について警鐘を鳴らしていました。
これらのリスクを把握し、軽減することは軍事上の最優先課題であり、「我々の時代のオッペンハイマー・モーメント」と呼ぶ人もいます。西側諸国で形成されつつある共通認識の一つは、核兵器の配備に関する決定をAIに委ねるべきではないというものです。国連事務総長アントニオ・グテーレスはさらに踏み込んで、完全自律型致死兵器システムの全面禁止を求めています。規制が進化する技術に追いつくことは不可欠です。しかし、SF的な高揚感の中で、現実に何が可能なのかを見失うこともあります。ハーバード大学ベルファー・センターの研究者たちが指摘するように、AIに楽観的な立場をとる人々は、完全自律兵器システムの実戦配備の難しさを過小評価する傾向があります。戦闘におけるAIの能力が過大に評価されている可能性は十分にあるのです。
エクセター大学戦略・安全保障研究所の所長で、この議論の主要な提唱者であるアンソニー・キングは、AIは人間を置き換えるのではなく、軍事的洞察を高めるために活用されるべきだと指摘しています。戦争の性質が変化し、遠隔操作技術によって兵器システムが洗練されつつあるとはいえ、「戦争そのものの完全な自動化は単なる …
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