電力需要40%増へ、AIはどう影響? IEA報告3つのポイント
AIによる電力需要は今後、世界にどのような影響を与えていくのか? 国際エネルギー機関(IEA)が発表した2025年の「世界エネルギー展望」から、3つのポイントを解説する。 by Casey Crownhart2025.11.21
- この記事の3つのポイント
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- IEAが世界エネルギー展望2025を発表し今後10年で電力需要が40%増加すると予測
- エアコン普及とAI・データセンター投資拡大が電力需要急増の主要因となっている
- 再生可能エネルギー転換は進むが温室効果ガス削減には変革速度が不十分である
2025年を通じて私が追い続けている主要なテーマの一つは、電力である。どこで、どのように需要が増加しているのか、コストはどの程度か、そしてこれらすべてが今話題のトピック、すなわち「AIとどのように交差するのか」ということだ。
国際エネルギー機関(IEA)は先週、世界のエネルギーの現状を把握し将来を展望する年次報告書「世界エネルギー展望」の最新版を発表した。この報告書には、電力、送電網、気候変動の状況について興味深い洞察といくつかの驚くべき数字が含まれている。今回は、3つのポイントからこれらの数字を見ていこう。
1. 我々は電力の時代に生きている
人口増加と経済成長に伴い、世界全体でエネルギー需要はおおむね増加している。主役は電力であり、今後10年間で需要は40%増加すると予測されている。
中国は過去10年間の電力需要増加の大部分を占めており、今後もその傾向は続くだろう。しかし、将来的には中国以外の新興経済国がより大きな割合を占めるようになる。米国や欧州を含む先進経済国では、過去10年間需要が横ばいだったものの、AIやデータセンターの台頭により、今後は需要が増加するとみられている。
エアコンは電力需要増加の主要因の一つである。経済成長により、より多くの人々がエアコンを利用できるようになる。所得の増加によって生じるエアコン需要の伸びは、2035年までに世界のピーク電力需要を約330ギガワット押し上げる見込みだ。さらに気温の上昇により、同期間に170ギガワットが追加される。これらを合わせると、2024年比で10%以上の増加となる。
2. AIは地域ごとの話題である
今年、AIは誰もが無視できない話題となっている。この報告書で目を引く数字の一つは、2025年にデータセンターへの投資額が5800億ドルを超えると予想されている点だ。これは、世界の石油供給に費やされる5400億ドルを上回っている。
したがって、AIによるエネルギー需要が注目を集めているのも不思議ではない。重要なポイントの一つは、これらの需要が地域によって大きく異なるということだ。
データセンターは、現在から2035年までの総電力需要増加予測のうち、10%未満を占めるにすぎない。無視できる存在ではないが、エアコンを含む産業や家電など、他の分野に比べるとはるかに小さい。電気自動車(EV)でさえ、データセンターよりも多くの電力需要を送電網に追加する見込みである。
しかし、世界の一部地域では、AIが送電網にとって最大の要因になるだろう。米国では、データセンターが現在から2030年までの電力需要増加の半分を占めると見込まれている。
そして、これまでの記事でも取り上げてきたように、データセンターは特有の課題を抱えている。というのも、データセンターは特定の地域に集中する傾向があるため、電力需要も特定の地域社会や送電網に集中しがちである。現在建設計画中のデータセンター容量の半分は、大都市の近くに位置している。
3. 石炭の転換点に注目せよ
送電網にますます多くを求める中で、これが気候変動にとって何を意味するかを左右する最も重要な要因は、我々が使う電力を何が供給しているかという点である。
現在、世界の送電網は依然として主に化石燃料に依存しており、電力需要の増加のすべてが地球温暖化を加速させる温室効果ガスの排出を伴っている。しかし状況は徐々に変化している。
太陽光と風力は今年前半、電力の主要供給源となり、初めて石炭を上回った。石炭使用量は2020年代の終わりまでにピークを迎え、減少し始める可能性がある。
原子力は化石燃料の代替として一定の役割を果たす可能性がある。20年間の停滞を経て、世界の原子力発電設備は今後10年間で3分の1増加する可能性がある。太陽光発電も引き続き急速に拡大する見通しだ。今後10年間に予想される電力需要の伸びのうち80%は、日射量の多い、すなわち太陽光発電に適した地域に集中している。
最終的には、エネルギーに関して世界が正しい方向に進んでいる点は多い。しかし、そのスピードはまったく足りていない。世界の温室効果ガス排出量は、今年も再び過去最高を記録すると見込まれている。地球温暖化を抑え、気候変動の最悪の影響を回避するためには、電力を含むエネルギーシステム全体を再構築し、それを今よりもはるかに速く進める必要がある。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。