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ビタミンDはなぜ重要? 骨だけでない、免疫・心臓への影響も
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We’re learning more about what vitamin D does to our bodies

ビタミンDはなぜ重要? 骨だけでない、免疫・心臓への影響も

日照時間が減る冬は、「サンシャインビタミン」とも呼ばれるビタミンDが不足しがちだ。骨の健康だけでなく、免疫システムや心臓の健康にも影響することが最近の研究で明らかになりつつある。 by Jessica Hamzelou2025.11.25

この記事の3つのポイント
  1. ビタミンDの血中レベルが精神的健康、妊娠転帰、がん患者の生存期間と関連することが判明
  2. 100年前にくる病治療法として発見されたが、骨以外への多面的効果が近年明らかになりつつある
  3. サプリメント効果の証拠は混在しており、理想的な血中濃度についても専門家間で合意できていない
summarized by Claude 3

ここロンドンでは、この数日間で本当に冬らしくなってきた。朝は霜が降り、風は身を切るように冷たく、子どもたちを学校に迎えに行く頃にはもう暗くなっている。特にこの暗さが、「サンシャインビタミン」とも呼ばれるビタミンDについて考えさせる。

数年前の健康診断で、私は医師からビタミンDが不足していると言われた。しかし医師はサプリメントの処方箋を書いてくれなかった。というのも、英国では誰もがビタミンD不足だからだという。国民全体にサプリメントを処方するのは、国民保健サービス(NHS)にとってコストがかかりすぎると医師は説明した。

しかし、医療保険で補償されるかどうかに関係なく、サプリメントの摂取は重要である。北半球に暮らす私たちが日光を浴びる時間が少なくなる今、ビタミンDの重要性について考えてみたい。

確かに、ビタミンDは骨の健康にとって重要な存在だ。しかし最近の研究では、このビタミンが免疫系や心臓の健康など、体の他の部分に及ぼす影響について、驚くべき新たな知見が明らかになりつつある。

ビタミンDが発見されたのは100年以上前のことで、当時「英国病」と呼ばれていた病気の治療法を医師たちが探していた時期だった。現在では、子どもの骨が弱くなるくる病はビタミンD不足によって引き起こされることが知られており、ビタミンDは骨の健康において最もよく知られる栄養素となっている。

それは、ビタミンDが体内でのカルシウム吸収を助けるためである。骨は常に分解と再構築を繰り返しており、この再構築にはカルシウムが必要となる。カルシウムが不足すれば、骨は弱く、もろくなり得る(憂慮すべきことに、くる病は依然として世界的な健康問題であり、このため乳児は少なくとも1歳になるまでビタミンDのサプリメントを摂取すべきだという国際的な合意がある。)

その後の数十年で、科学者たちはビタミンDが骨以外にも影響を及ぼすことを明らかにしてきた。たとえば、ビタミンDが不足している人は高血圧のリスクが高まるという証拠がある。日常的あるいは週ごとのサプリメント摂取が、そうした人々の血圧を下げるのに役立つ可能性がある。

ビタミンD不足は、心臓発作などの「心血管イベント」のリスク増加とも関連づけられている。ただし、サプリメント摂取がそのリスクを下げられるかどうかは明らかではない。証拠はかなりばらついている。

ビタミンDは、免疫の健康にも影響を及ぼしているようである。たとえば、ビタミンDレベルが低い人は風邪をひきやすいという関連が、いくつかの研究で示されている。また、他の研究では、ビタミンDサプリメントが、免疫システムの機能に重要な役割を果たすタンパク質の遺伝子発現に影響を及ぼすことも示されている。

しかし、こうした関係が正確にどう機能するのかはまだ分かっていない。残念ながら、37件の臨床試験の結果を評価した最近の研究では、ビタミンDサプリメントが「急性呼吸器感染症」の予防にはおそらく効果がないことが示された。

他の研究では、ビタミンDの血中レベルが精神的健康、妊娠の転帰、さらにはがんと診断された人の生存期間と関連していることが示されている。安価なサプリメントが、私たちの健康の多くの側面に恩恵をもたらす可能性があると想像すると、心惹かれるものがある。

しかし、ここまで読んでいただいた方ならお察しかもしれないが、私たちはまだそこに到達していない。こうしたさまざまな症状に対するビタミンDサプリメントの効果に関する証拠は、せいぜい混在しているという状況である。

研究者たちを擁護するならば、ビタミンDサプリメントのランダム化比較試験を実施するのは難しいことがある。それは、多くの人がビタミンDの大半を日光から得ているからである。私たちの皮膚はUVB(紫外線B波)を、体内で利用できる形のビタミンに変換する。食事からもビタミンDは得られるが、量はそれほど多くない(主な供給源は脂肪の多い魚、卵黄、キノコ、一部の強化シリアルや植物性ミルクなどである)。

ビタミンDの状態を評価する標準的な方法は、肝臓で代謝された際に生成される25-ヒドロキシコレカルシフェロール(25(OH)D)の血中濃度を測定することである。ただし、その「理想的」な濃度については、専門家の間でも意見が一致していない。

仮に数値に合意できたとしても、その目標値に達するにはどの程度のビタミンDを摂取すればよいのか、あるいはどの程度の日光曝露が必要なのかは明確ではない。複雑な要因のひとつは、個人によって紫外線に対する反応が異なることであり、それは皮膚のメラニン量に大きく左右される。また、脂の多い魚とキノコを食べ、強化ミルクで流し込んでいるとしても、追加でどれだけ必要かを判断するのは難しい。

ただし、ビタミンD不足の定義についてはより多くの合意がある(念のため言うと、血中濃度が1リットルあたり30ナノモル未満であることを指す)。そして、ビタミンDが私たちの体内でどのように働いているのかがより明らかになるまでは、不足を避けることに重点を置くべきである。

私にとってそれは、サプリメントで補うことを意味する。英国政府は、国内すべての人に対し、秋から冬の間は10マイクログラムのビタミンDサプリメントを摂取するよう推奨している。この推奨は、年齢、血中濃度、皮膚のメラニン量といった要素を考慮していない。しかし現時点では、私にできることはそれだけである。

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生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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