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なぜ、企業のAI導入の95%は成果ゼロなのか? テクノロジー史から読み解く
FT/MIT Technology Review | Adobe Stock
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The State of AI: Welcome to the economic singularity

なぜ、企業のAI導入の95%は成果ゼロなのか? テクノロジー史から読み解く

AIプロジェクトの95%は利益を生んでいない。だが1990年代のITも、成果が現れるまで時間がかかった。FT・MITTR記者が、過去の教訓から現在の停滞と将来の可能性を読み解く。 by David Rotman2025.12.02

この記事の3つのポイント
  1. フィナンシャル・タイムズとMITテクノロジーレビューの記者が生成AIの雇用市場への真の影響について議論
  2. 現在95%のプロジェクトがリターンゼロの状況だが、IT生産性パラドックスと同様にAI導入には時間を要する
  3. 単純なコスト削減ではなく、労働者の能力増強と新雇用創出による生産性向上が今後の課題
summarized by Claude 3

「ステート・オブ・AI(The State of AI)」は、AIが世界の力関係をどのように再構築しているかを検証する、フィナンシャル・タイムズとMITテクノロジーレビューの共同企画である。6週間にわたり、両誌の執筆陣が、生成AI革命が世界のパワーバランスをどう変えているかという一側面について議論する。

今週は、フィナンシャル・タイムズのコラムニスト/元西海岸編集長のリチャード・ウォーターズと、MITテクノロジーレビューの編集主幹であるデビッド・ロットマンが、AIが雇用市場に与える真の影響について語る。

リチャード・ウォーターズ(フィナンシャル・タイムズ)の見解

広範囲にわたる新しい技術の普及には常にばらつきがありますが、生成AIほどばらつきが大きい例はほとんどありません。そのため、個々の企業への影響はもちろん、経済全体の生産性への影響を評価することは非常に難しいです。

一方の極端な例では、AIコーディングアシスタントがソフトウェア開発者の仕事に大きな変革をもたらしています。マーク・ザッカーバーグは最近、メタ(Meta)のコードの半分が1年以内にAIによって書かれるようになると予測しました。もう一方の極端な例では、多くの企業が初期投資からほとんど、あるいはまったく利益を得られていません。マサチューセッツ工科大学(MIT)が最近実施し、広く引用されている研究によると、これまでのところ生成AIプロジェクトの95%がリターンゼロに終わっているとのことです。

このような状況は、「生成AIは確率的な技術で幻覚(ハルシネーション)を起こしやすいため、ビジネスに深い影響を与えることは決してない」と主張する懐疑論者たちの主張に根拠を与えています。

しかし、テクノロジー史を研究している多くの専門家にとって、即時的な効果が見られないことは、変革的な新技術につきものの、通常の遅れにすぎません。1990年代初頭、当時MITの助教授だったエリック・ブリニョルフソンは、「ITの生産性パラドックス」と呼ばれる現象を初めて提唱しました。テクノロジーが人々の働き方を変えているという逸話的証拠は豊富にあったにもかかわらず、それが生産性の向上という形で統計データには現れていなかったのです。ブリニョルフソンの結論は、企業が技術に適応するには時間がかかるというものでした。

1990年代半ばから始まったITへの大規模投資は、米国における生産性向上の大きな回復としてようやくその成果を示しました。しかしそれは10年ほどで鈍化し、再び停滞期に入りました。

AIの場合、企業が成果を期待する前に、新しいインフラ(特にデータプラットフォーム)を整備し、主要な業務プロセスを再設計し、従業員の再教育を行なう必要があります。もし、遅れ効果が現在の成果の遅さを説明しているとすれば、少なくとも前向きに考える理由があると言えます。生成AIを広範なビジネス層に展開するために必要なクラウドコンピューティング・インフラは、すでにかなり整っているからです。

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