AIが「隠れた地熱」を発見、地表に兆候なくても地下の熱源を特定
地熱発電に適した場所には、地表からは分からないいくつかの条件がある。新興企業のザンスカーは、商用の地熱発電所の設置に適した場所を、人工知能(AI)ツールを使って特定することに成功した。 by Casey Crownhart2025.12.09
- この記事の3つのポイント
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- ザンスカー社がAIを活用し、米ネバダ州で地表に兆候がない隠れた地熱システムを初めて発見した
- 従来の地熱探査は深井戸掘削による力任せの手法で、多大な時間と資金を要していた
- 発電所建設許可取得と投資確保が課題だが、同様の隠れた地熱源発見拡大が期待される
地熱のホットスポットは時として明らかで、地表の間欠泉や温泉によって示される。しかし、地下数百メートルに隠されている場合もある。今、これらの隠れた潜在的な電力源を見つけるのに、人工知能(AI)が役立つかもしれない。
ザンスカー(Zanskar)という新興企業は先日、AIなどの高度な計算手法を使用して、米ネバダ州西部の砂漠で「ブラインド(隠れた)地熱」システムを発見したと発表した。ブラインドは、地表にその兆候がないことを意味する。同社によるとこれは、特定され、30年以上にわたって商業的見通しがあると確認された初の隠れた地熱システムだという。
これまで、地熱発電に適した場所を新たに見つけることは力任せの作業だった。企業は多くの時間と資金を費やして深井戸を掘削し、発電所を建設するのに適した場所を探していた。
ザンスカーのアプローチはより精密である。AIの進歩により、同社は「何十年もの間解決不可能だったこの問題を解決し、最終的には地熱資源を見つけて、以前考えられていたよりもはるかに大きいことを証明する」ことを目指している。そう述べるのは、同社の共同創設者兼CEO(最高経営責任者)のカール・ホイランドだ。
地熱発電所を成功させるためには、その場所に、到達可能な深度での高温と、流体が岩石を通って移動して熱を運ぶための隙間が必要である。同社が「ビッグ・ブラインド(Big Blind)」と呼ぶ新しい場所には、地表から約820メートル下におよそ120℃に達する貯留層がある。
世界中で電力需要が増加する中、このような地熱システムは気候変動を引き起こす温室効果ガスを排出することなく、安定した電力源を提供できる可能性がある。
同社はこれまで、自前の技術を使用して多くの潜在的なホットスポットを特定してきた。「似たような場所が数十カ所あります」と、ザンスカーの共同創設者兼CTO(最高技術責任者)のジョエル・エドワーズは述べる。ビッグ・ブラインドについては、モデルの予測を確認するため、同社は現地調査を実施した。
場所を新たに特定する最初のステップは、地域AIモデルを使用して広い地域を検索することである。チームは既知のホットスポットと作成したシミュレーションでモデルを訓練する。そして断層線に関する情報を含む地質学的、衛星、そのほかのタイプのデータを入力する。訓練を終えたモデルは、潜在的なホットスポットがどこにあるかを予測できる。
この作業にAIを使用することの強みの1つは、手元にある情報の膨大な複雑さを処理できることである。「地球上に学習可能な何かがあれば、たとえそれが私たち人間には理解しにくい非常に複雑な現象であっても、十分なデータが与えられれば、ニューラル・ネットワークはそれを学習できます」とホイランドCEOは述べる。
モデルが潜在的なホットスポットを特定すると、現地調査チームがその場所(おそらく約260平方キロメートル程度)に向かい、地下温度の上昇を探すための浅い穴の掘削をはじめとする技術を用いて追加情報を収集する。
ビッグ・ブラインドの場合、この探査情報のおかげで同社は連邦リースを購入し、地熱発電所の開発に着手するのに十分な自信を得ることができた。リースを確保した後、チームは大型掘削装置を持って現場に戻り、7月と8月に数百メートル下まで掘削したところ、期待していたとおりの高温で透水性のある岩石を発見した。
今後は、発電所建設と送電網への接続の許可を取得し、発電所建設に必要な投資を確保しなければならない。チームはまた、熱と水の流れを追跡する長期試験を含む、現場での試験を継続することになる。
「大規模な特徴を探すことができる手法には途方もない需要があります」。米国エネルギー省が資金提供する地熱エネルギーの国立研究所現地サイト「ユタ・フォージ(Utah FORGE)」の資源管理技術責任者であるジョン・マクレナンは言う。ザンスカーの新しい発見は「有望です」とマクレナンは付け加えた。
ビッグ・ブラインドは、以前に探査や開発がされておらず、ザンスカーが初めて発見し、確認した。だが、同社は他の地熱探査プロジェクトでもAIツールを使用している。2025年に入って、同社は以前に業界によって探査されたが開発されなかった場所における発見を発表した。さらに、ニューメキシコ州の地熱発電所を購入し、復活させている。
これはザンスカーにとって始まりに過ぎないかもしれない。エドワーズCTOが言うように、「これは発電所を支えるのに十分な熱を持つ、新しい天然の地熱システムの波の始まりです」。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
