KADOKAWA Technology Review
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GPT-5ローンチ失敗、
企業95%が成果出せず …
転換期を迎えたAIブーム
Derek Brahney
人工知能(AI) Insider Online限定
The great AI hype correction of 2025

GPT-5ローンチ失敗、
企業95%が成果出せず …
転換期を迎えたAIブーム

ChatGPT登場から3年、生成AIが転換点を迎えた。GPT-5は期待外れ、企業の95%がAI導入で価値を見出せず、元オープンAIの主任科学者も限界を認める。バブルの懸念もあるが、期待値を調整し、技術を現実的に評価する好機と捉えるべきだ。 by Will Douglas Heaven2025.12.19

この記事の3つのポイント
  1. オープンAIのGPT-5が期待を下回る性能で登場し、AI業界に幻滅の空気が広がった
  2. 企業のAI導入率は頭打ちで95%が価値を見出せず、誇大宣伝への反動が顕在化
  3. 研究は活発化しており、期待値修正を経てAI技術の真の価値創出段階に移行中
summarized by Claude 3

いくらかの幻滅は避けられない運命だった。2022年末のオープンAI(OpenAI)による無料Webアプリ「ChatGPT」の公開は、業界全体の進路、さらにはいくつかの世界経済の方向性をも変える出来事だった。何百万人もの人々がコンピューターに話しかけ始め、コンピューターも応答するようになった。私たちはその魔法に魅了され、さらなる進化を期待した。

その期待は確かに実現された。テック企業は先陣を争い、音声、画像、動画といった新機能を次々に投入し、競合他社を上回る製品を発表し続けた。絶え間ない先手争いの中で、人工知能(AI)企業はあらゆる新製品を画期的なブレークスルーとして売り出し、「このテクノロジーは今後もひたすら進化し続ける」という広範な信念を強化してきた。推進者たちはその進歩を「指数関数的」と表現し、昨年のモデルからの飛躍を示すグラフを掲げて、「この線の上昇を見てください!」と声高に訴えた。生成AIによって、あらゆることが可能になるように思えた。

そして2025年は、現実を突きつけられる年となった。

まず、主要なAI企業のトップたちは、守れない約束をした。生成AIはホワイトカラーの労働力に取って代わり、豊かな時代をもたらし、科学的発見を促進し、病気の新たな治療法の発見にも貢献する――彼らはそう語った。世界中の経済圏、少なくともグローバル・ノースではFOMO(取り残されることへの恐れ)が広がり、その結果、多くの企業経営者たちが従来の戦略を放棄して、この潮流に飛び乗った。

その頃から、魔法のような輝きが薄れ始めた。生成AIは、時代遅れの業務プロセスを刷新し、コスト削減を実現する万能ツールとして売り込まれてきたが、今年発表された複数の研究によると、企業はその「魔法の粉」を効果的に活用できていない。米国勢調査局やスタンフォード大学などの調査・追跡データによれば、企業によるAIツールの導入は頭打ちとなっている。導入されたとしても、多くのプロジェクトは試験運用の段階で頓挫している。経済全体での広範な支持が得られない限り、大手AI企業がこの競争にすでに投じた莫大な資金をどう回収するのかは見通せない。

同時に、中核となる技術のアップデートは、もはやかつてのような飛躍的な進歩ではなくなっている。

その最も注目を集めた事例が、今年8月のGPT-5のローンチの失敗だった。現在のブームの火付け役であり、その大部分を支えてきたオープンAIは、自社のテクノロジーのまったく新しい世代を発表する予定だった。オープンAIは数ヶ月にわたりGPT-5を過熱気味に宣伝しており、CEOのサム・アルトマンはこのモデルを「あらゆる分野の博士レベルの専門家」と称した。また別の場面では、アルトマンはスター・ウォーズのデス・スターの画像を無言で投稿し、熱狂的なファンたちはそれを「究極の力」の象徴と受け取り、「間もなく登場だ!」と盛り上がった。期待は非常に高まっていた。

にもかかわらず、実際にリリースされたGPT-5は、以前と大して変わらないように見えた。その直後に起こったのは、ChatGPTが初めて登場して以来、最大の「雰囲気の変化」だった。AI研究者で人気ユーチューバーのヤニック・キルチャーは、GPT-5公開の2日後に投稿した動画でこう語った。「境界を突破するような進歩の時代は終わりました。AGI(汎用人工知能)は来ません。今はまるで、大規模言語モデル(LLM)がサムスン・ギャラクシーのように、毎年わずかにしか進化しない時代に突入したように感じます」。

この状況を、多くの人々(私自身も含めて)はスマートフォンになぞらえて説明している。10年ほど前まで、スマートフォンは世界で最も刺激的な消費者向けテクノロジーだった。しかし今では、アップルやサムスンの新製品発表もほとんど注目されなくなった。熱狂的なファンは小さなアップグレードに夢中になる一方で、大多数の人にとって今年のアイフォーンは、見た目も使い勝手も昨年のものとほとんど変わらない。生成AIも、今まさに同じような段階にあるのだろうか? それは問題なのだろうか? 確かに、スマートフォンはもはや「普通のもの」になった。しかし同時に、世界の仕組みを根本から変えた存在でもあった。

誤解のないように言っておくと、この数年には確かに本物の「驚きの瞬間」も数多くあった。たとえば、動画生成モデルの品質における驚異的な進歩、いわゆる推論(Reasoning)モデルによる問題解決能力、さらには最新のコーディングモデルや数学モデルが世界的な競技会で優勝するなど、目覚ましい成果が見られた。しかし、この驚異的なテクノロジーは登場からまだ数年しか経っておらず、多くの側面において、いまだに実験段階にある。その成功には、大きなただし書きが付きまとう。

おそらく私たちは、期待を再調整する必要があるだろう。

大規模なリセット

注意してほしいのは、誇大宣伝から反誇大宣伝への揺り戻しは、時に極端に振れすぎることがあることだ。過度に期待されていたからといって、このテクノロジーそのものを否定するのは軽率である。AIが期待された成果を上げられなかったとき、反射的に「進歩は壁に突き当たった」と言われがちだが、それは技術の研究やイノベーションの仕組みを誤解している。進歩とは常に、断続的に、飛び石のように進むものだ。壁を越え、回避し、あるいはくぐり抜ける道は常にある。

GPT-5のローンチを少し引いた視点で見てみよう。その直前の数カ月間、オープンAIはすでにいくつもの卓越したモデルをリリースしていた。たとえば、業界にまったく新たな枠組みをもたらした初の推論モデル「o1」「o3」や、動画生成の基準を再び引き上げた「Sora 2(ソラ2)」などだ。こうした状況を見る限り、進歩が止まったとは到底思えない。

AIは本当にすごい。たとえば、グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)の新しい画像生成モデル「Nano Banana Pro(ナノ・バナナ・プロ)」を見てほしい。このモデルは、本の1章をインフ …

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