あの洪水は「作られた」——
相次ぐ異常気象で広がる
「気象兵器」陰謀論を検証
効果的な人工降雨テクノロジーから、暴風雨を兵器化しようとする長きにわたる秘められた歴史まで、気候変動による事象の背景には、陰謀論が萌芽・熟成される肥沃な土壌が存在している。 by Dave Levitan2026.02.13
- この記事の3つのポイント
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- 2024年のハリケーン「ヘレン」後、米議員が気象操作陰謀論を拡散し世界的に類似主張が頻発している
- 人工降雨技術は実在するが効果は降水量5-10%増程度で洪水やハリケーン操作は不可能である
- 気候変動による異常気象の激化と気象制御技術の発展が陰謀論拡散の温床となっている
2024年10月にハリケーンの「ヘレン」が米国南東部に壊滅的な打撃を与えた直後のことだ。ジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、責任をなすりつけるべき抽象的な対象を見つけた。「そうですとも、彼らは気象を操作できるのです」とXに投稿した。「誰であっても、そんなことは不可能だと嘘をつくのは馬鹿げています」 。
「彼ら」が誰であるかについては述べられていないが、おそらくその方が都合がよかったのだろう。
グリーン下院議員は、今ではかなりおなじみとなった人気の陰謀論を繰り返していた。闇の勢力が存在していて、未知のテクノロジーを駆使して気象を操作し、彼らが敵と見なす者たちに大混乱をもたらすというものだ。この主張は、科学的見地からは根本的に馬鹿げているが、近年はその声が大きくなり、より一般的になり、異常気象に見舞われると繰り返し浮上する。2024年4月のドバイ、2022年7月のオーストラリア、そしてカリフォルニア州の洪水やヘレンやミルトンなどのハリケーンの後に米国で見られた。英国では、陰謀論者たちは、政府が天候を操作し、2020年3月の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による初のロックダウン(都市封鎖)期間中に晴天で雨が降らないようにしたと主張した。より最近では、2025年7月にテキサス州中部を壊滅的な洪水が襲った際にこれらの陰謀論が再度広まった。この考えに刺激された一部の反政府過激派たちは、気象レーダー塔を破壊すると脅迫したり、実際に破壊しようとしたりさえしている。
しかし、問題はここからだ。グリーン下院議員や他の信奉者たちは正しくないが、他の多くの陰謀論と同様に、この陰謀論には大げさな主張の裏に、それよりもずっとささやかな核心的な真実が含まれている。
確かに、人間が気象を操作する方法は現時点で存在しない。大規模な洪水を引き起こしたり、ハリケーンなどの強力な暴風雨の方向を変えたりすることは不可能だ。これは、人間が気象を大幅に変化させるのに必要なエネルギーが、あまりに大きすぎるためだ。
しかし、気象を制御する方法は存在する。重要な相違は、達成可能な規模である。
最も一般的な気象制御の方法は「人工降雨(クラウドシーディング)」と呼ばれており、少量の塩などの物質を雲に注入し、雪や雨の量を増やすことを目的としている。これは通常、定期的に降水が不足している乾燥した地域で実施される。研究によると、実際に効果があると示されている。もっとも、テクノロジーの進歩により明らかになったのは、その影響は控えめであり、本来なら雨を降らさないような雲から5%から10%程度の水分しか引き出せないということだ。
とはいえ、人間が多少でも気象に影響を与えることが可能であるという事実そのものが、陰謀論者に「真実への足がかり」を与える。これに大規模な暴風雨を操作しようとする政府や軍による 過去の一貫性のない実際の取り組みや、気候変動対策を目的としたその他の新興テクノロジーによる、まだいかなる規模でも展開されていない活動が加わると、事態が混乱するのが分かるだろう。
そのため、より広範な気象操作という陰謀論者の主張は科学的見地からして結局馬鹿げているが、完全に愚かであると切り捨てることもできない。
このすべてが相まって、7月にテキサス州の洪水後に渦巻いた陰謀論は特に騒々しく強力となった。そのわずか数日前、洪水の中心地から約160キロメートル離れたランジという町で、人工降雨企業のレインメーカー(Rainmaker)が単発機を飛ばし、ヨウ化銀約70グラムを雲の中に放出した。その後、0.5センチメートルに満たないささやかな小雨が降った。しかし、同社は予報で暴風雨の前線の接近を見て、作業を中断した。雨が近づいていたため、人工降雨による種まき(シーディング)の必要はなかったからだ。
「7月2日に、規制当局に許可されている範囲を完全に守って作業を実施しました」と、レインメーカーの創業者兼CEO(最高経営責任者)であるオーガスタス・ドリッコが最近、私に話した。その後まもなく、さほど遠くない場所で約500ミリメートルもの豪雨が発生し100名以上の死者が出ると、陰謀論という装置が騒々しく動き出した。
悲劇の余波の中でドリッコCEOがワシントン・ポスト紙に語った内容では、彼とレインメーカーはソーシャルメディア上で「絶え間ない大混乱」に直面した。最終的に、同社のオフィスの外観写真を住所とともに投稿する者まで現れた。同CEOは、この集中攻撃にいくつかの要因が作用したと私に話した。それらは、人工降雨の詳細に対する知識不足や、同CEOが「政治家による意図的な扇動メッセージ」と呼ぶものなどだ。実際、同社と人工降雨に関する陰謀論は、グリーン下院議員や元国家安全保障担当大統領補佐官マイク・フリンなどの著名人を通じてインターネット上に拡散した。
残念ながら、このすべては気候温暖化が豪雨とそれに伴う洪水の可能性をより一層高めているのと時期を同じくして起こっている。「こういった気象事象はさらに頻繁に起こるようになるでしょう」と、コロラド大学地理学教授で、世界各地の気象制御へのアプローチと反応を調査してきたエミリー・イェーは話す。「テキサス州の洪水、またハリケーンの原因として、気候変動以外のどんな説でも信じようとする人たちの声の大きな巨大なグループがあります」。
悪化する異常気象、増加する気象制御の活動、向上するテクノロジー、時に怪しげな実績。これらはニッチな陰謀論が、ますます壊滅的となる気象事象の手っ取り早い説明を切望する人たちに素早く広めるための条件としては最適である。
以降で、何が可能で何が不可能かを区分し、人々が事実をはるかに超えた事柄を信じる多彩な理由のいくつかについて説明する。
気象に対してできること、誰が実行しているのか
人工降雨の基本概念は約80年前からあり、この分野への政府の関心はそれよりさらに昔にさかのぼる。
主要な方法は、飛行機やドローン、あるいは地上の発生装置を使って、既存の雲の中に小さな粒子(通常はヨウ化銀)を注入することだ。粒子が核となり、その周囲に水分が集積して氷の結晶が形成され、十分に重くなると雪や雨として雲から落下する。
「気象制御は古い分野です。1940年代から多くの盛り上がりを見せました」と、ノースダコタ大学の大気科学研究教授で人工降雨の専門家であるデビッド・デリーンは話す。気象制御を調査する委員会を設立するために提出された1952年の米上院の報告書の中で、著者たちは、雨が少し多く降ると「数十万ドル相当の電力を生み出し」、「農産物の収穫量を大幅に増やす」という可能性が述べられていた。他にも、「土壌侵食の軽減」や「ハリケーンの消滅」、さらには「航空機が飛行できるように雲に穴を開ける」といった用途も挙げられていた。
しかし、デリーン教授は「それらの盛り上がりは(中略)実を結びませんでした」と付け加えた。
1980年代を通じて、米連邦政府が資金提供もしくは実施を主導した多くの大規模な研究により、大気科学と雲物理学の理解が大いに深まったものの、気象制御テクノロジー自体の有効性を実証することはきわめて困難だと判明した。言い換えると、科学者たちは人工降雨の基本原理を解明し、理論レベルで効果があることを理解したが、降雨量にどれほどの影響を与えているかを明確にすることは困難だった。
ある雲と別の雲、ある暴風雨と別の暴風雨、ある山や谷と別の山や谷といった地形の間には、巨大なばらつき(個体差)がある。何十年もの間、研究者たちの利用可能なツールでは、特定の作業により正確にどれだけ増雨するかをはっきりと結論づけることはできなかった。この方法への関心は、1990年代には徐々に沈静化していった。
しかし、この20年ほどでかつての盛り上がりが戻ってきた。
人工降雨は降雨量や降雪量の増加が可能
核となるテクノロジーはほとんど変わらないものの、2000年代以降、米国と海外で開始された複数のプロジェクトでは、統計モデリングと新型および改良型の航空機ベースの測定方法や地上レーダーなどを組み合わせている。こうした方法により、人工降雨によって実際に達成可能な結果をより確かに予測できるようになった。
「雲に影響を与えられることは、明確に突き止めたと考えています」。このテーマに長年取り組んできたワイオミング大学大気科学科長で准教授のジェフ・フレンチは話す。しかし、人工降雨が降水量に影響を与える可能性について科学者たちはほぼ同意するようになったものの、その影響にはおそらくかなり控えめな上限があり、降水量の大幅な増加には程遠いことも広く認識されている。
「人工降雨によって、洪水を引き起こすほどに雲を改変できるというエビデンス(科学的根拠)はま …
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