KADOKAWA Technology Review
×
Helsinki Hopes This App Will Make People Ditch Their Cars

自動車所有ゼロを目指すヘルシンキの実証実験

ヘルシンキで実証実験中の交通プラットフォームは、公共交通機関と民間交通手段を組み合わせた最適な移動手段を提案してくれる。 by Nanette Byrnes2016.11.18

フィンランド南岸にある首都ヘルシンキの人口は120万人。バスや路面電車、地下鉄などの交通機関が整備されている。夏には、もちろんレンタル自転車も利用できる。しかし、相当数の人は依然として自動車を使っている。

自動車の利用者がもっと公共交通機関を使うように、管轄の行政当局は、現地のテクノロジー企業が開発したスマホアプリ「ウィム(Whim)」により、レンタカーやライドシェア、タクシーといった民間の交通サービスと公共交通機関を組み合わせて使えるようにした。最終的には、住民が自動車を所有せずに移動できる環境を提供することで、自然環境を保護し、渋滞を緩和することを目指している。

10月から試験中のウィムに目的地を入力すると、バスや電車、自動車による最適な経路を検索してくれる。提案の経路でよければ、ユーザーが確定することで自動的に支払いまで完了する。ウィムは現在月額で請求されるが、利用ごとに料金を支払うオプションも今後提供される可能性がある。

Of Helsinki's 1.2 million people, 900,000 have used public transportation in the past six months.
ヘルシンキの120万人のうちの90万人は、過去6カ月に公共交通機関を使った

ウィムはヘルシンキ以外の都市でも間もなく利用可能になる。ウィムのアプリを開発したマース ・グローバル(Maas Global、「MaaS」は「mobility as a service:サービスとしての移動」の略で、サービス形態の総称)のサンポ・ヒエタネンCEOによれば、バーミンガム(イギリス)を皮切りに、トロントやモントリオール、その後複数のアメリカの都市での展開を目指している 。

アリゾナ州立大学のデイビッド・キング教授(交通都市計画)は、交通機関では「大規模かつ資本集約的な、固定料金のサービスが重視されますが、大抵の人は料金形態から十分なメリットが得られる場所に住んでいるわけではありません。柔軟に乗り継げるような、交通機関を複合的に利用できる全体計画が必要なのです」という。

ヘルシンキはこのアイデアの実証実験に好適な場所だろう。携帯電話の普及率が高く、デジタル・インフラも十分に整備されている。公共交通機関の利用も多く、人口120万人のうち90万人が過去6カ月に少なくとも一度は公共交通機関を使っている。また、公共交通システムは一般的に、州と都市の担当部局がそれぞれ独立して管轄しており、実証実験には行政による支援が欠かせない。

懸念点のひとつは、アプリにより公共交通機関の利用が減ることだ。ヘルシンキ交通局で広報とマーケティングを担当するマリ・フリンクは、ウィムは自動車メーカーと販社によって資金援助を受けており、カーシェアリングの利用が増え、公共交通機関の利用が減る可能性を指摘した。実証実験でヘルシンキ交通局は、事実を見極めるため、ウィムにより公共交通機関の新規利用者がどれだけ増えるかを注視し、把握しようとしている。

人気の記事ランキング
  1. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  2. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  3. Job titles of the future: AI prompt engineer 未来の職種:LLMを操る「プロンプト・エンジニア」は生き残るか
タグ
クレジット Photograph by JIP | Wikimedia
ナネット バーンズ [Nanette Byrnes]米国版 ビジネス担当上級編集者
ビジネス担当上級編集者として、テクノロジーが産業に与えるインパクトや私たちの働き方に関する記事作りを目指しています。イノベーションがどう育まれ、投資されるか、人々がテクノロジーとどう関わるか、社会的にどんな影響を与えるのか、といった領域にも関心があります。取材と記事の執筆に加えて、有能な部下やフリーライターが書いた記事や、気付きを得られて深く、重要なテーマを扱うデータ重視のコンテンツも編集します。MIT Technology Reviewへの参画し、エマージングテクノロジーの世界に飛び込む以前は、記者編集者としてビジネスウィーク誌やロイター通信、スマートマネーに所属して、役員会議室のもめ事から金融市場の崩壊まで取材していました。よい取材ネタは大歓迎です。nanette.byrnes@technologyreview.comまで知らせてください。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  2. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  3. Job titles of the future: AI prompt engineer 未来の職種:LLMを操る「プロンプト・エンジニア」は生き残るか
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る