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「自然頼み」の温暖化対策に警鐘、環境悪化の可能性=国連
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The UN’s climate report highlights the dangers of natural solutions

「自然頼み」の温暖化対策に警鐘、環境悪化の可能性=国連

地球温暖化を抑えるための方法として炭素を吸収する樹木や作物を植えることが提唱されている。だが、食糧生産と競合し、生態系を変化させ、生物多様性に負担をかけるリスクを踏まえた、慎重な取り組みが必要だ。 by James Temple2022.03.08

自然を利用する気候変動対策の可能性は、さまざまな研究者によって強調されている。植林や作物栽培で大気中の二酸化炭素を吸収するといった方法だ。

しかし、国連の気候変動に関する委員会が発表した新たな報告書では、このような自然によるアプローチに頼り過ぎると、現実的なリスクを招きかねないと強調されている。

2月28日に発表された約4000ページに及ぶ気候変動の分析結果は、地球上の30億人以上が気候変動に対して「非常に脆弱」な状態で暮らしており、異常気象やその他の影響は、すでに人間が適応できる能力を超えていると警告している。化石燃料からの転換が数十年遅れていることを考えると、世界は今、温室効果ガス排出量を急速に削減するとともに、すでに進行中である変化に適応し、気候変動の原因となっている数十億トンの温室効果ガスを除去しなければならないと、研究チームは結論付けている。

国連の気候変動に関する委員会は以前、地球の気温上昇を1.5℃に抑えるには、「ベックス(BECCS:Bioenergy with Carbon Capture and Storage、回収・貯留付きバイオマス発電) 」として知られる二酸化炭素の回収・貯蔵の技術を活用し、今世紀半ばまでに年間80億トンもの二酸化炭素を大気中から回収する必要があると発表している。

ベックスでは、作物などの植物が成長する過程で温室効果ガスを消費するという自然の力を利用する。特別に設計または改修されたこれらの施設では、電気や燃料を生産するためにこれらの植物を活用できるだけでなく、その結果生じる温室効果ガスを回収して貯蔵できる。現在、このような取り組みをしている施設はほんの一握りであるものの、その数は増え続けている

しかし、国連の気候変動報告書は、十分な量の二酸化炭素を除去できるだけの作物を植えるためには、膨大な土地が必要になると警告している。これは、増え続ける人口に見合った食糧を生産する取り組みと相反することとなり、動物や植物の種にさらなる負担をかけることになりかねない。ある研究では、2℃の地球気温上昇を回避するために十分な土地を作物植え付け用に変換すると、気候変動で気温が4℃上昇した場合よりも多くのヨーロッパの鳥類種の生息域が移動する可能性があると指摘されている。

また、「1兆本の植林イニシアチブ(Trillion Trees Initiative)」をはじめとする数多くの団体が、気候変動対策として植林の可能性を強調している。さまざまな地域や団体が、こうした取り組みの一環として、土地所有者や企業に対し、カーボン・オフセットの売買を認めている。

今回の国連報告書は、かつて森林があった場所に木を植えることにより、複数の利点が生まれると述べている。一方、もともと木が自然に生えていない場所に木を植えることは、環境に悪影響を及ぼす可能性があるとも警告している。

広大な自然の草原に木を植えると、河川の水量が減少して火災の規模が増すことにつながる。また、森林は草地よりも熱を反射しにくいため、地球温暖化がより悪化しかねない。同様に、植林のために泥炭地から水を排水すると、天然の炭素吸収源である泥炭地から大量の温室効果ガスが放出されることにもなる。

植林によって温室効果ガスを確実に削減しつつ、マイナス面を最小限に抑えるには、現地の状況や条件を慎重に考慮する必要があると、本報告書の執筆者らは述べている。また、この結論は、大気からCO2を直接回収する技術(DAC)様々な種類の鉱物の使用などの新しい技術的方法をはじめとする、炭素除去の様々なアプローチを研究することの重要性を強調している。

今後数十年の間に、膨大な量の温室効果ガスを削減しなければならないことがますます明らかになってきている。そして、手頃な費用により、かつ効果的に、あるいは確実に温室効果ガスを大量に削減する方法を我々はまだ知らないということも同時に明らかになってきている。

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MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
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