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ネットの自由と安全、米国後退でどう守る? ライツコン台北で議論
Stephanie Arnett/MITTR | Getty Images, Adobe Stock
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At RightsCon in Taipei, activists reckon with a US retreat from promoting digital rights 

ネットの自由と安全、米国後退でどう守る? ライツコン台北で議論

台北で先月開催された国際会議「ライツコン」で、トランプ政権下の米国におけるデジタル権利支援の大幅削減と、それが世界に及ぼす影響に活動家たちが危機感を表明した。 by Eileen Guo2025.03.23

この記事の3つのポイント
  1. 世界最大のデジタル権利会議ライツコンが台北で開催された
  2. 米国政府の方針転換がデジタル権利保護の取り組みを脅かしている
  3. 地域の組織による言語モデル構築などの対抗戦略が議論された
summarized by Claude 3

2月24日から27日にかけて台北で開かれた世界最大のデジタル権利会議「ライツコン(RightsCon)」に参加した。この会議には、活動家、テクノロジー政策の担当者や研究者、そして一部のテクノロジー企業の代表など3200人以上が集まった。

人権に関する会議というものは、控えめに言っても、深刻な現実を突きつけるものになり得る。こうした会議では、小さな市民社会組織がテクノロジーに関する意思決定において人権を中心に据えようと奮闘する、いわば「ダビデとゴリアテ」の構図が浮き彫りになる。時には、はるかに強大な政府やテック企業の優先事項に異議が唱えられることもある。

だが、2011年にシリコンバレー人権会議(Silicon Valley Human Rights Conference)として始まり、13回目となる今年のライツコンでは、特別な緊迫感が漂っていた。それは、主に、イーロン・マスク率いる「政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)」による、米連邦政府の急速な解体という衝撃的な出来事と、それが世界中にもたらす影響のためであった。

ライツコンでは、米国国際開発庁(USAID)の対外援助資金凍結が最大の関心事となった。開発支援組織であるUSAIDは、長い間デジタル権利支援への世界最大の出資者であり続けた。具体的には選挙期間中や、災害などの危機が起こった時にインターネット接続を維持する取り組みから、監視やハッキングの標的にされる人権活動家やジャーナリストのためのデジタルセキュリティ相談窓口の支援に至るまで、多岐にわたる活動を支援してきた。しかし現在、USAIDはトランプ大統領の命令により、90%以上の予算削減に直面している。

この予算削減は、デジタル権利の保護を目指す国際的なコミュニティの存続そのものを揺るがすものだ。そして、これに先行して、自由で安全なインターネットを支持する人々が懸念すべき他の動きも見られる。ライツコンの理事であるニッキ・グラッドストンは、開会の挨拶で次のように述べた。「残念ながら、我々が目の当たりにしているのは、複数の利害関係者による協力体制の崩壊です。市民社会の参加制限、民主主義の世界的な後退、企業が人権を支持するポリシーや慣行から撤退する動きが広がっています」。

デジタル空間における自由を擁護する電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)の理事であるシンディ・コーンはさらに率直に、「人々の権利に対する攻撃の規模と速度は前例にないものです。息を吞むほどです」と語った。

だが、デジタル権利を世界的に制約する要因は、予算削減だけではない。ライツコンを通して多くの登壇者が強調していたのは、米国政府が開かれた安全なインターネットを支える先導的な立場から、それを解体する手本を示す立場へと転じてしまったということだ。登壇者らが目の当たりにしていたのは、次のような現実である。

トランプ政権の政策は、他国では弾圧の道具として利用されている

米国時間の2月25日、ライツコンが始まる直前に、セルビア司法当局が、政府の説明責任を追及する地域の市民社会組織4団体の事務所を強制捜査した。その理由として、マスクとトランプ大統領が非難しているUSAIDによる詐欺行為(証明されていない)が引き合いに出された。

州検察官のネナド・ステファノヴィクは、強制捜査についてテレビ放送で次のように説明した。「(セルビアの)特別腐敗防止部門は(中略)USAIDによる資金の濫用、マネーロンダリングの可能性、そして米国の納税者の資金がセルビアで不適切に使用された疑いについて、米国司法省に情報提供を求めました」。

ライツコン参加者にとって、このやり口は、抑圧的な政権が反対派を追及するための理由を見つけたりでっち上げたりする典型例であり、よくある光景であった。しかし今回は、トランプ政権によるUSAIDの資金削減の正当化を利用する …

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