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米科学界に打撃、トランプ政権がNSF委員22人全員を解任
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock
Trump's mass firing just dealt another blow to American science

米科学界に打撃、トランプ政権がNSF委員22人全員を解任

トランプ政権は4月24日、全米科学財団(NSF)の委員会メンバー全員を解任した。長官不在、職員大量解雇に続く今回の解任で、米国の科学界は監督機能を失いつつある。 by Jessica Hamzelou2026.05.06

この記事の3つのポイント
  1. トランプ政権がNSB委員22名を一斉解任し、科学行政の監督機能が事実上喪失した
  2. NSFは予算削減・助成金打ち切り・職員40%減が重なり、超大型望遠鏡など主要プロジェクトが停滞
  3. ジム・オニールの長官就任が見込まれ、政権による恣意的な機関運営が懸念される
summarized by Claude 3

米国の科学界にまたも痛烈な一撃が加えられた。今回の標的は、約90億ドル規模の主要研究プロジェクトに資金を提供する連邦機関、全米科学財団(NSF)だ。同財団の運営は22人の著名な科学者からなる委員会が監督してきたが、4月24日に、その全員が解任されたのだ

NSFは2025年4月以降、長官が不在の状態が続いている。前長官のセトゥラマン・パンチャナタンが、DOGE(政府効率化省)主導の予算削減と大量解雇をめぐる混乱の中で辞任したのだ。トランプ大統領が後任の候補として指名したのは、投資家で長寿研究の熱心な支持者であるジム・オニールだが、科学的なバックグラウンドは持っていない。

科学界の今後がどうなるかを正確に予測するのは難しい。しかし、状況は楽観視できない。

NSFは「科学の進歩を促進する」ことなどを目的として1950年に設立された。以来、研究と教育への主要な支援機関として機能してきた。2024年には93億9000万ドルを支出した。これは相当な金額だが、連邦支出全体のわずか0.1%にすぎない。

その資金の使途に関する重要な意思決定を担ってきたのが、全米科学委員会(NSB)だ。4月24日まで委員会を構成していた科学者たちはそれぞれ、少なくとも当初は6年の任期で米国大統領から任命されていた。2022年末に委員に任命されたバンダービルト大学の物理学者・天文学者、ケイバン・スタッスン教授によれば、委員たちはNSFの方針策定、主要支出の承認、監督業務を担っていたという。

数年前には、委員会が主導して「技術・イノベーション・パートナーシップ」への資金供給を目的とした新たな「局」をNSF内に設置した米国超大型望遠鏡プログラムへの資金提供も承認した。

「比較的小規模なグループでありながら、膨大な責任と権限を担っていました」とスタッスン教授は言う。自身の任命を「この上ない名誉」と受け止めていたという。

そして4月24日、メールが彼の受信箱に届いた。「『トランプ大統領を代理して、全米科学委員会委員としてのあなたの職は即時終了となることをお知らせします。ご尽力に感謝します』と書いてありました」とスタッスン教授は言う。「非常に落胆しました」。

それでもスタッスン教授は、過去1年間にわたる政権の連邦科学機関に対する一連の行動を踏まえれば、驚きはなかったと言う。

ドナルド・トランプが2025年1月に大統領に就任して以来、NSFは他の多くの連邦機関と同様に、助成金の凍結・凍結解除・打ち切りを繰り返してきた。「委員会はそれらの打ち切りのいずれにも関与していませんでした」とスタッスン教授は話す。職員の解雇にも委員たちは関与できなかったという。現在、職員数は40%減少していると同教授は付け加えた。

2026年度予算要求において、トランプ政権はNSFの予算を約57%削減しようとした。2025年7月、NSFの職員たちはそのような大幅な削減が「米国の科学を壊滅する」と主張する反対書簡を提出した。提案された削減は、生物科学、工学、STEM教育に特に大きな打撃を与えるものだった。

これらの削減案は2026年に入って議会によって否決された。しかし助成金の打ち切りと解雇によって、事実上それと同じ効果が生じているとスタッスン教授は言う。「ホワイトハウスがNSFに配分してきた資金は、議会が意図した額をはるかに下回っています」。

その結果、多くの野心的な研究プロジェクトが停滞している。「超大型望遠鏡プログラムは今のところ完全に頓挫しているようです。科学教育を担う部門は、事実上ゼロになってしまいました」(スタッスン教授)。

ただし、すべてがそうというわけではない。政権の2027年度予算要求では、NSFが社会科学・行動科学・経済科学局を「閉鎖する」と明記している一方で、人工知能(AI)と量子情報科学を重要な「フロンティア・イニシアティブ」として位置づけている。生物工学は「重点分野」と記されている。

本誌がNSFにコメントを求めたところ、ホワイトハウス報道室へ問い合わせるよう案内された。ホワイトハウスはNSB委員解任に関する質問には直接回答せず、「NSFの業務は中断なく継続されています」と回答した。

NSFの長官候補であるジム・オニールは、生物工学に強い関心を持っている。具体的には、2026年2月に筆者がオニールと話した際、彼は自分をヴァイタリストだと思うと語った。ヴァイタリストとは、死は間違いであると信じ、人間の寿命延長に向けた取り組みを強硬に支持する人々のことだ。

オニールは数カ月前の幹部刷新まで、米保健福祉省の副長官および米疾病予防管理センター(CDC)の長官代行を務めていた。しかし彼は科学者ではない。そのことを懸念する科学者もいる。上院による承認はまだ得られていない。

その間にも、トランプ政権の動きは研究に実質的な影響を与え続けている。「私たちNSB委員は、科学・工学・技術、そして広く科学教育への継続的な投資を守ろうとしてきました。トランプ政権はこれで、望む通りに機関を運営できるようになります。邪魔をする統治機関はもういません」(スタッスン教授)。

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生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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