米クリーンテック支援削減は「中国への贈り物」 太陽光の教訓生きず
トランプ政権のクリーンテック部門への締め付けは、経済や国際協調にも悪影響しかなく、最大のライバルである中国を利することになる。 by James Temple2025.09.09
- この記事の3つのポイント
-
- トランプ政権がクリーンエネルギー補助金を廃止し科学予算を大幅削減すると発表した
- 中国は国家戦略で太陽光発電市場を支配し米国の技術的優位性が失われた
- 米国企業の海外流出が加速し中国のクリーンテック分野での覇権が確立される
1954年春、ベル研究所(Bell Labs)の研究者たちは、ニュージャージー州マレーヒルでの記者会見において、初の実用的な太陽光パネルを披露した。そして、太陽光を使って玩具の観覧車を回転させる実演に、集まった群衆は驚愕した。
太陽光発電の未来は明るく見えた。しかし、自国が発明した技術を商業化する競争において、米国は完敗することになる。ニューヨーク・タイムズ紙によると、昨年中国は400億ドル相当の太陽光パネルとモジュールを輸出したが、米国はわずか6900万ドルしか出荷しなかった。米国が巨大な技術的優位性を誇った座を、あっけなく放棄したという驚くべきことである。
そして今、米国は同じ過ちを繰り返すことに固執しているようだ。老朽化した化石燃料産業を支えるため、トランプ政権は新興のクリーンテック部門への連邦政府支援を大幅に削減することは、米国の主要な経済的ライバル国にこれ以上ないほどの寛大な贈り物を送ったのに等しい。ライバル国の新興エネルギー技術の支配を確固たるものとし、ライバル国が未来を担う産業において優位な立場をさらに固められるまたとないチャンスを提供したのである。
中国の太陽光発電における支配的地位は偶然ではない。2000年代後半、中国政府は単純にこの分野を国家的優先事項であると決定した。その後、政府は、大規模な補助金、的を絞った政策、価格競争などを活用して生産を拡大し、製品改良を推進し、コストを大幅に削減した。中国はバッテリー、電気自動車(EV)、風力タービンにおいても同様の動きを見せている。
一方、ドナルド・トランプ大統領は、苦労して勝ち取った米国のクリーンエネルギー分野における成果を無にする施策に着手した。よりクリーンで持続可能な方法で国家のエネルギー部門を再構築する機運を摘み取ったのだ。
トランプ大統領が7月上旬に署名して成立させた税制・歳出法案は、2022年のインフレ抑制法に含まれていた太陽光発電と風力発電への補助金を段階的に廃止した。この法案はまた、中国製材料に過度に依存するクリーンテック・プロジェクトへの連邦政府支援も打ち切った。これは中国産業を罰しようとする的外れな試みで、代わりに米国内の多くのプロジェクトが財政的に行き詰まることになる。
同時に、トランプ政権は科学への連邦予算を大幅に削減し、一流の研究大学の財政基盤を弱体化させている。これは将来のエネルギー革新と産業分野の発展を根幹から破壊する施策である。
これらの政策の多くを推進する動機は、石炭、石油、天然ガスといった、米国が地質学的に恵まれている従来のエネルギー産業を保護しようとする動きだ。しかし、この戦略はイノベーターのジレンマが国家規模で展開されることを意味する。つまり、将来を形作る産業に投資するのではなく、衰退しつつある産業にしがみついているのである。
トランプ大統領が気候変動を信じているか、あるいは関心があるかは特に重要ではない。現代的で持続可能な産業に投資することが、経済および国際的な安全保障にとって議論の余地がないことは、温室効果ガスの化学的性質と同じくらい明白だからだ。
イノベーションを後押しする持続的な産業政策がなければ、米国の起業家や投資家は、新しい事業の創出、新製品の開発、あるいは前例のないプロジェクトを国内で立ち上げるために資金と時間を投じるリスクを負わないであろう。実際、ベンチャーキャピタリストたちは私に、多数の米国気候テック企業がすでに海外に目を向けており、政府の支援が期待できる市場を求めていると語った。補助金が消失し、開発が停滞し、資金調達が低迷する中で、今後数カ月のうちに多くの企業が破綻するのではないかと懸念する声も聞かれる。
こうしたことのすべてが、すでに圧倒的にリードをしている中国の優位性をさらに大きくすることになるだろう。
中国は米国の約3倍の風力タービンを設置し、2倍以上の太陽光発電を実行している。世界最大のEV企業10社のうち5社を擁し、風力タービンメーカー最大手3社を有している。中国はバッテリー市場を完全に支配しており、世界の車両、電力網、電子機器を動かすアノード、カソード、バッテリーセルの大部分を生産している。
中国はクリーンエネルギー転換を活用して大気を浄化し、国内産業を高度化し、国民の雇用を創出し、貿易関係を強化し、新興経済国圏に新たな市場を構築した。その結果、中国はこれらのビジネス関係を利用してソフトパワーを蓄積し、影響力を拡大している。一方、米国は国際協調に背を向けている。
こうした中国や米国の姿勢が拡大することで、中国は外部からの圧力、特にトランプ大統領の常套手段である貿易戦争の勃発や激化による圧力があっても、影響を受けにくくなっている。
世界最大の経済大国として、一世紀以上にわたって米国をテクノロジー分野における世界的な勢力として確立したのは、硬直的な関税と強硬な発言のおかげではない。教育、科学、研究開発に対する深く、継続的な連邦政府の投資だ。これらはまさに、トランプ大統領と共和党が熱心に削減しようとしている予算の項目である。
別の事柄
今夏の初め、米国環境保護庁(EPA)は、国の温室効果ガス排出を規制する法的基盤である、オバマ政権時代の「(環境)危険性認定」を撤回する計画を発表した。
EPAの論拠は、数十年前の気候変動否定論の論点を蒸し返し、排出量の増加は科学者が予想した被害をもたらしていないと主張している報告書に大きく依存している。この夏は、中西部と東部では記録的な熱波が発生し、今も西部は山火事の煙で覆われている。こうした目と耳でつかんだエビデンスを否定するよう求める、異常な、まるで小説の世界のような主張だ。
8月末、85人を超える科学者が連邦政府に対して459ページに及ぶ詳細な反論書を送付した。ラトガース大学の気候科学者ボブ・コップがBluesky(ブルースカイ)に投稿したように、EPAが論拠している報告書は数多くの点で「偏向的で、誤りに満ち、政策決定の参考にするには不適切である」と指摘した。
EPAが論拠している報告書の査読をした数十人の科学者は、「(報告書の)著者らはエビデンスの選択的な取捨選択(チェリー・ピッキング)、不確実性の過度な強調、査読済み研究の誤引用、そして数十年にわたる査読済み研究をほぼ全面的に無視することで、これらの欠陥のある結論に到達しました」と述べた。
トランプ政権は、温度計(科学的データ)と対立する「危険性認定」を撤回するという規定方針を正当化するために、望むような報告書を書く研究者たちを恣意的に選んだ。しかし、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の気候研究者であるカレン・マッキノン准教授が指摘しているように、(政府は)他の者の意見も聞く法的義務がある。
「幸いなことに、行動を起こす時間はまだあります」とマッキノン准教授は声明で述べた。「報告書に意見を述べ、過去の耐えられる夏を取り戻すための行動を起こす必要があると知らせるため、あなたの代表者(議員など)に連絡を取りましょう」。
元の完全な記事はこちらで読むことができる。また、NPR(米国の非営利のラジオ・ネットワーク)の見解はこちらである。そして、ケーシー・クラウンハート記者が以前書いた危険性認定に関する記事もぜひ読んでほしい。
- 人気の記事ランキング
-
- How a 1980s toy robot arm inspired modern robotics 世界の工学者を魅了し続ける 80年代の日本のおもちゃ
- This American nuclear company could help India’s thorium dream インドが描いた「トリウムの夢」、米企業の燃料技術で花開くか
- How a 1980s toy robot arm inspired modern robotics 世界の工学者を魅了し続ける 80年代の日本のおもちゃ
- How to run an LLM on your laptop チャットGPTからの卒業:自分のパソコンでLLMを動かしてみよう

- ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。