MITの学生は「世界を変える10大技術」から何を学んでいるか?
MITテクノロジーレビューの「世界を変える10大技術」リストの中から「失敗作」を見つけ出し、それを成功に「ひっくり返す」方法を構想する——。MITの大学院にはそんな授業がある。正しいアイデアが間違ったアプローチで頓挫する過程を分析することで、技術予測の本質が見えてくる。 by Fábio Duarte2026.02.10
- この記事の3つのポイント
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- MITにはMITテクノロジーレビューが選出する「世界を変える10大技術」の失敗例を分析する演習がある
- 失敗技術の分析により将来予測の精度向上と技術開発における批判的思考の重要性を養うことが目的
- 技術の成否は技術力だけでなく文化的背景や市場競争、タイミングなどの複合的要因で決まる
MITテクノロジーレビューは毎年、「世界を変える10大技術(10 Breakthrough Technologies)」のリストを発表している(本日掲載の2026年版のリストはこちら)。同誌の編集部がこのリストを選定するのは今年で25年目だから、これまでに250ものテクノロジーが「世界を変える技術」として選ばれたことになる。
MITテクノロジーレビューの編集主幹であるデビッド・ロットマンは数年前、2001年に発表した最初の10大技術のリストを再検証し、すべての技術が依然として関連性を保ちながら、それぞれが予測不可能な形で進化・発展していたことを明らかにした。私はマサチューセッツ工科大学(MIT)建築・計画学部において、ジェームズ・スコット講師と共に担当する大学院の授業で、学生たちに同様の演習をさせている。
私たちはMITの学生に、過去のリストから「失敗作」を見つけ出し、その失敗に至った要因や意思決定を分析した上で、それらの否定的な結果を成功に「ひっくり返す」現実的な方法を構想するよう求めている。この演習の目的は、技術を考察する際に批判的思考と創造性を養うことにある。
どの技術が未来を変えるか、ということを構想することほど華やかではないにせよ、失敗した技術を分析することも同じくらい重要である。こうした分析は、技術そのもの以外の文化的背景、社会的受容、市場競争、それに単純にタイミングなどの要因が、成功にどのように影響するかを明らかにする。
場合によっては、技術の背後にあったビジョンには先見の明があったが、当時の技術水準では実現できなかったものもある。2010年にリスト入りした(リンク先は米国版)「ソーシャルTV」はその一例だろう。提唱者たちは、物理的に離れた場所にいても、ライブ配信を見ながら友人とチャットや交流ができるように、ソーシャル・プラットフォームとストリーミング・サービスを組み合わせるさまざまな方法を提案した。
このアイデアは、携帯電話、ブロードバンド、Wi-Fiが普及した現代における接続性の可能性を正しく捉えていたものの、衰退しつつあるメディア、つまりテレビの生放送に賭けてしまった。
それでも、パンデミック期に子どもを育てていた人なら、類似の現象が現実に起こったことを目の当たりにしているはずだ。若者たちはストリーミング・プラットフォームで映画やテレビ番組を同時視聴しながら、ソーシャルメディアのコメントをチェックし、メッセージアプリで友人とやりとりするようになった。
地理的に離れた友人たちとのリアルタイム視聴は一般化したが、それは1つの集中的なサービスではなく、複数のプラットフォームやデバイスをまたいで有機的に生まれたものであった。そしてこの体験は、テレビの放送スケジュールに縛られず、見たいものを好きな時に見られるという点で、友人グループごとにユニークなものとなった。
記録を評価する
2025年の私のクラスの学生たちが「世界を変える10大技術」から選び出した失敗作と、それぞれから得られる教訓をいくつか紹介しよう。
「DNAアプリストア」はケイリー・スピアーズが2016年のリスト(リンク先は米国版)から選んだ。当時はすばらしいアイデアに思えた。ヘリックス(Helix)というスタートアップが、わずか80ドルでゲノムを解析する。その後、同社のアプリストアで、祖先、フィットネス、健康、栄養などに関連する医療情報を分析したり、遺伝的要因による疾病の発症確率などを分析すると約束する第三者とそのデータを共有したりする、というものだ。しかしヘリックスはその後ストアを閉鎖し、現在は消費者への直接販売はしていない。
プライバシーへの懸念と第三者アプリの精度への疑問が、サービスが定着しなかった主な理由だった。特に米国では、ヘルスアプリを対象とした規制が最小限にとどまっていることも理由に挙げられる。

エルヴィス・チピロは、2005年のリスト(リンク先は米国版)から、「ユニバーサル・メモリー」を選んだ。これは、1種類のメモリー技術がすべての記憶装置を代替するという構想だった。カーボンナノチューブと呼ばれる微細構造を用いて、フラッシュメモリー、RAM、ハードディスクを統合し、より多くのデータを1平方センチメートルに格納しようとするものであった。この技術の開発企業であるナンテロ(Nantero)は巨額の資金を調達し、ライセンスパートナーも得たが、予定通りの製品化には至らなかった。
ナンテロは、ナノチューブの配置のわずかな誤差がエラーを引き起こす可能性があることから、大規模生産に課題を抱えた。また、すでに広く浸透していた既存のメモリー技術を覆すのは困難であることも明らかとなった。
チェリー・タンが2012年のリスト(リンク先は米国版)から選んだ「ライトフィールド写真」は、写真を撮影した後で焦点を調整できるという技術だった。ぼやけた写真とは無縁になるはずだった。これを実現するために、スタートアップのライトロ(Lytro)は光の色や強度に加えて、光線の角度も捉える特殊なカメラを開発した。これは消費者向けとしては初の製品群だった。しかし、同社は2018年に閉鎖された。

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最終的に、ライトロのユニークなカメラは、ソニーやノキアのような既存の大手企業に太刀打ちできなかった。カメラのディスプレイは小さく、画像の解像度も低かった。焦点を調整するには専用ソフトが必要で、操作も手間がかかった。その一方で、スマートフォンには便利な内蔵カメラが搭載され、急速に普及していた。
これまで、長年にわたって多くの学生が選んできたのが、2015年のリストに選出された(リンク先は米国版)「プロジェクト・ルーン(Project Loon)」である。これはグーグルXによるいわゆる「ムーンショット」の1つで、主にへき地でのインターネット接続を実現するため、携帯電話基地局のネットワークを巨大な気球で置き換えるという提案だった。同社は複数の国でフィールド試験を完了し、ハリケーン・マリア後のプエルトリコにも非常用インターネット・サービスを提供した。しかし、グーグルは2021年にこのプロジェクトを終了した。グーグルXのアストロ・テラーCEOは、「商業的実現可能性への道のりは期待よりもはるかに長く、リスクが高いことが判明した」とブログで述べた。
2025年の私のクラスの学生であるショーン・リーは、この失敗の理由をプロジェクト自体の使命にあると見た。プロジェクト・ルーンは購買力が限られた人々が暮らす低所得地域での運用を想定していた。また、地元の通信会社との提携や、各国の領空での飛行に関する政府の承認といった、実質的な商業的・規制的障壁が開発の遅れにつながった可能性もある。

ANDREJ SOKOLOW/PICTURE-ALLIANCE/DPA/AP IMAGES
このプロジェクト自体はブレークスルーにはならなかったが、高高度からの接続によってインターネットをより利用しやすくしようという全体的な目標は、他社、特に低軌道衛星のコンステレーションを運用するスターリンク(Starlink)によって引き継がれた。ときに、企業は正しいアイデアを思い付くが、アプローチが誤っている。その後、別の技術を持つ企業がそのアイデアを前進させることがある。
このクラス演習では、学生たちに将来的に失敗する可能性のある技術を現行リストから選ぶことも求めている。ここでも、彼らの選択は非常に興味深い。
リン・グロッソは、2022年のリストから、「AIのための合成データ」を選んだ。これは、他のAIモデルの訓練用に現実のパターンを模倣するデータをAIで生成するというものである。企業が実データを使い果たす中で注目を集めているが、彼女はこの手法が「モデル崩壊」を引き起こす可能性があり、合成データだけで訓練されたモデルが、現実のデータとの接続を失ってしまう危険性を指摘している。
そしてエデン・オライウォレは、「TikTok(ティックトック)の「おすすめ」アルゴリズム」(2021年のリスト)が長期的に成功するかどうかは、その技術がもたらす潜在的な害や、クリエイターがアイデアを「電子レンジで温める(つまり即席で仕上げる)」ことを促進する傾向への認識が高まる中で、疑わしくなる可能性があると考えている。
しかし、彼女は可能な解決策も提示している。私たちはすべての学生に、選んだ失敗または失敗しつつある技術を「ひっくり返す」にはどうすればよいかを尋ねており、それはこれらのツールをより良く構築・展開する方法を考えるきっかけとなっている。
オライウォレは、TikTokについて、過去の視聴履歴に基づいて無限に動画を流し続けるのではなく、ユーザーが好む動画の種類やトーンを自ら選択できるようにすることを提案している。TikTokはすでにトピック単位での関心表明は可能だが、彼女はさらに一歩進んで、教育的な動画や落ち着いた内容など、コンテンツの性質に関する選択肢も提供すべきだと提案している。
何を学んだか?
動き続ける未来をテクノロジーがどのように形作るかを予測するのは、常に困難を伴う。予測とは、単に未来についての主張であるだけでなく、予測者が何を重要と考えているかというビジョンでもあり、私たちの行動、イノベーション、投資のあり方にも影響を与える。
私がこの演習を学生と何年も続けてきて得た大きな教訓の1つは、成功したブレークスルーと真の失敗作との間には、常に明確な境界があるわけではないということである。ある技術は単独では成功しなかったかもしれないが、他のブレークスルーの基盤となっている場合がある(自然言語処理、2001年=リンク先は米国版)。また、期待されたほどの成果を上げていなくても、将来的に大きな影響力を持つ可能性もある(脳機械インターフェース、2001年=リンク先は米国版)。あるいは、華やかさにかけるために十分な投資が集まらず、発展に時間がかかるケースもある(マラリアワクチン、2022年)。
数々の失敗作があったにもかかわらず、大胆でときにリスクを伴う予測を提示するこの恒例行事には、依然として意義がある。このリストは、その時点でテック・コミュニティのレーダーに映っている進歩の感覚を与えてくれ、それぞれの選出に影響を与えた経済的・社会的・文化的価値観を反映している。数年後に2026年のリストを再検討する時、どの価値観が生き残ったのかが明らかになるだろう。
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ファビオ・ドゥアルテは、MITセンサブル・シティ・ラボ(Senseable City Lab)の副所長兼主任研究科学者である。
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- fabio.duarte [Fábio Duarte]米国版
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