「高すぎる」薬の効果をミニ臓器で事前検証、オランダ新構想
年18万ドルの嚢胞性線維症治療薬「オルカンビ」を巡り、オランダ政府と製薬会社バーテックスの交渉が決裂した。「高すぎる」と厚生大臣が一蹴したこの薬に、オルガノイド(培養ミニ臓器)を使った画期的な解決策が浮上している。 by Antonio Regalado2017.07.13
2017年5月、オランダのエディット・スキッパーズ厚生大臣は、バイオテクノロジー企業バーテックス(Vertex)との交渉を打ち切った。問題となったのは、同社の画期的な嚢胞性線維症のうほうせいせんいしょう(CF症)の治療薬である「オルカンビ(Orkambi)」の、法外に高額な価格だった。
「高すぎる」と大臣は述べた。しかも十分な効果もない。患者はオルカンビなしで闘い続けるしかないだろう、と。
しかし今、患者団体、保険会社、そしてオランダの生物学者たちは連携して、この経済的行き詰まりを打破する新技術に期待を寄せている。彼らは、ヒトの臓器の構成要素におおよそ似た小さな細胞の塊である「オルガノイド」を用いたテストによって、医薬品の費用対効果が向上すると考えている。オルガノイドはどのくらい小さいのか? この文章のピリオドよりもわずかに大きい程度である。
2017年6月下旬、オランダの科学者たちは、オランダ国内のCF症患者1500人全員から採取した細胞を使って、ミニ臓器=オルガノイドを研究所内で培養する計画を厚生省(正式名称は保健・福祉・スポーツ省)に提案した。彼らによれば、この方法によってオルカンビや他の高額薬が、特定の患者に対して有効かどうかを研究所レベルで確認できるという。最終的には、患者のオルガノイドが薬に良好な反応を示した場合にのみ、薬代が支払われる仕組みを目指している。
「オルガノイドは患者の”アバター”のように機能します」と、ヒューブレヒト研究所(Hubrecht Institute)でこのプロジェクトを率いるハンス・クレヴァース博士は語る。「非常に高価な医薬品を、まずミニ臓器に投与できます。そうすることで、本当に効果がある人にだけ薬を処方することが可能になるのです」。
この計画が進めば、医薬品業界にとって重要な転換点になる可能性がある。というのも、史上初めて、オルガノイドというわずかにしみのような構造が、血液検査や症状チェックに代わり、世界で最も高額な新薬を「誰に処方すべきか、すべきでないか」を判断する手段として広く用いられることになるかもしれないからだ。
オルカンビは、特定の種類の遺伝子変異によってCF症を発症する患者を対象に設計された医薬品である。バーテックスによれば、同薬に関する最大規模の臨床試験では、その変異を持つすべての患者に効果が認められたという。つまり同社は、現時点ではオルガノイドに基づく支払いモデルを受け入れるつもりはないということだ。バーテックスは、被験者を用いた大規模な治験こそが依然として「究極の評価基準」であり、オルガノイドの結果でそれが置き換えられるべきではないとしている。「オルガノイドの科学はまだ初期段階にあることに注意すべきです」と、ボストンを拠点とする同社のCF症担当医学統括 …
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