翻訳の方法論

英語をどう日本語に翻訳するか、MITテクノロジーレビュー編集部は真剣に考えています。基本方針は単なる「和訳」ではなく、「ローカライズ(日本化)」することです。この場合ローカライズとは「通常の生活を送る日本人が、米国の生活様式や社会問題、政治課題、学術知識なしに理解できる日本語にすること」とします。なお、当社はライセンサーから記事のローカライズについても許諾を得ています。

グーグル翻訳について

MITテクノロジーレビュー編集部は、グーグル翻訳の使用を推奨します。機械翻訳の水準に満たない人間の翻訳に価値はありません。一方で、手を抜くためにグーグル翻訳を使うことは、翻訳という仕事の否定と同じです。効率を高めるためにグーグル翻訳を使うのは構いませんが、そのまま完成とせず、人間らしい工夫をしてください。また、グーグル翻訳には重大な欠点があります。グーグル翻訳特有の欠点がある場合は「手抜き」とみなし、編集部は受け取りを拒否し、報酬を支払いません。

グーグル翻訳の精度は上がったが、使い物になるとは限らない

一番大事なこと

翻訳をいったん終えたら、一度全部読み直してください。簡単なミスが意外に残っているものです。

基本ルール

MIT Technology Reviewはニュースメディアであり、文学作品でも論文でも外交文書でもありません。一字一句正確に翻訳しようとしたり、自然な日本語表現を目指しすぎて時間がかかったりすると、ニュース記事としての価値が下がってしまいます。また翻訳された文章は編集者が確認しており、そのままサイトに掲載されるわけではありません。

だ、である調で翻訳する

地の文は「だ・である」調で訳してください。原文で「”」~「”」で囲まれた直接話法の会話は「です・ます」調で「」内に訳してください(「”」~「”」で囲まれているからといって、会話とは限りません。論文や公式発表、ブログからの引用の場合もあり得ます)。

英単語と日本語の間に空白を入れない

Gengoの翻訳ガイドラインとは異なり、英単語と日本語の間に空白文字を入れる必要はありません。

リンクが設定された[[[~]]]を翻訳しない

自動発注の際、翻訳元テキストにはHTMLタグや編集部確認用の原文が指定されることがあります。また、MIT Technology Review(英語版)等へのリンクを含む箇所は、日本版の記事タイトルや記事の内容を確認しないと適切な日本語訳にならないことから、Gengoへの発注時は[[[~]]]で囲み、原文を残す指定をしています。翻訳しにくいことは承知していますが、編集作業に必要ですので、そのままの状態を保って翻訳してください。無理に翻訳する必要はありません。

人称代名詞や指示代名詞はそのままにせず固有名詞にする

Tesla has a reputation for aggressively exploring new technologies, and many of its customers are enthusiastic about being on the cutting edge of automotive innovation. The company also has the capacity to fix problems quickly by updating its vehicles using a cellular data link.

「テスラ」のブランド価値は最新のテクノロジーを積極的に採用することで成り立っており、顧客の多くが、自動車イノベーションの最先端を体験できることに熱狂している。実際、テスラが今回の問題を解決するには、携帯電話網のデータリンクにより、自動車のソフトウェアを更新するだけで済む。

彼、前者、同社、あなた、それ、これ等の人称代名詞や指示代名詞は、多くの場合翻訳する必要がありません。翻訳する場合は、固有名詞として訳し、読者にその人称代名詞や指示代名詞が何を指すのか考えさせないようにしてください。

―や,や:や;でつながっている文を、そのまま長大な文にしない

No more does an image recognition algorithm make dumb mistakes when looking at the world: these days, it can accurately tell you that an image contains a cat.

最近の画像認識アルゴリズムは、以前のような、おかしな間違いをしなくなった。たとえば、正確に、画像にネコが写っていることを認識できる。

“―”~”―”や”,”~”,”は、”(”~”)”に訳すと、多くの場合はうまくいきます。また、:は=のような働きがあり、;は”.”と”,”の中間のような、文がつながっていそうでつながっていない接続詞として訳すとうまくいくことが多いです。重要なのは、記号に注目しすぎて、文意を損なうことです。上記の文の場合、”:”は”=”のように働いており、2つの文が同じことを言っていると大ざっぱに理解するとよいでしょう。全体が最近の画像認識アルゴリズムについて説明していると分かれば、these daysは前半の文の冒頭に持っていっても構わず、後半の文は「たとえば」で始めて、前半を後半で例示していることを表しました。

通貨は円換算しない

通貨(米ドル)は、日本円に換算する必要はありません。MITテクノロジーレビューの読者の多くは第一線で活躍するビジネスリーダーであり、米ドル表記でも金額の価値はおおよそ理解できること、数日単位でも為替レートは大きく変動するため、換算しても参考にならないからです。米ドルの金額さえわかれば、記事の公開日や記事中のニュース発生日などから、読者は自分の知りたい方法で金額を算出できます。

Last week, a small Arizona startup closed a $15 million round of funding led by Silicon Valley venture capital firms Canaan Partners and Norwest Ventures.

先週、アリゾナ州の小さなスタートアップ企業が、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、カナン・パートナーズとノーウェスト・ベンチャーズによる1500万ドルの資金調達に成功した。

MIT Technology Review(英語版)は、原則として通貨を米ドルで表記します。もし他の通貨で表記されている場合は編集部でその都度検討しますので、そのままにしてください。

計量単位は変換する

米国と日本では、長さや重さの単位が異なります。マイルやポンドなどの計量単位は日本で使われている単位に変換して翻訳してください。元の値は不要です。

Tesla pointed out in its statement that this was the first fatality in more 130 million miles of driving with Autopilot activated, compared with one fatality in every 94 million miles of regular driving.

テスラが声明で指摘したのは、総走行距離約2.09億キロメートル以上の実績がある自動運転モードで今回が初めての死亡事故であり、通常の自動車では約1.51億キロメートルに1件の割合で死亡事故が発生していることだ。

130,000,000マイルは209,214,720キロメートル、94,000,000マイルは151,278,336キロメートルですが、原文で130×100万マイル、94×100万マイルと2、3桁しかない精度の値を、2億921万4720キロメートル、1億5127万8336キロメートルと変換する必要はありません。「約2.1億キロメートル」、「約1.5億キロメートル」あるいは「約2.09億キロメートル」、「約1.51億キロメートル」と「約」を付けて、原文と同じ2、3桁の精度の値として変換すれば十分です。

固有名詞はなるべくカタカナにする

人名や会社名など、固有名詞の読み方は価値のある情報です。読み方がわからなくても、原語をGoogle翻訳に入力すると、主要言語なら読み上げてくれます。人名を動画検索すると、本人の出演動画が見つかり、読み方がわかることが多いです。ただし、製品名、サービス名は原語のままで構いません。

読み方がわからない名前でも発音やカタカナ表記の参考がグーグル翻訳で得られる場合がある

「自然な日本語」にする方法論

MITテクノロジーレビュー編集部は、以下の方法によって、翻訳文はより自然な日本語になると考えています。なお、ここで開示している方法論は、文学や法律を専門とする翻訳家からすると、とんでもなく邪道です。あくまでもニュース記事を素早く理解し、鮮度が保たれるうちに和訳するときの、ニュース記事専門の方法と理解してください。

大前提は、英語と日本語の単語は1対1の対応関係にはない、という認識です。一般的に訳語と考えられている言葉でも、ほとんどの場合は、意味がズレていたり、欠けていたりします。たとえばfriendは誰でも知っている言葉ですが、「友だち」と訳すより「仲間」や「味方」と訳した方が適切な場合が意外と多くあります。ひとつひとつの単語を忠実に訳そうとするのではなく、原文の文や段落で著者が言いたいことを、日本語の段落や文章に置き換えることを目指してください。つまり、一語一句を正確に翻訳するのではなく、著者が言いたいことを段落や文章全体で日本語として表現してください。

翻訳手順の例

英文和訳の試験対策のままのテクニックで以下の文章を頭の中で翻訳してみましょう。

Tesla has been criticized for promoting the convenience of Autopilot—a name that suggests no human intervention is needed—while also maintaining that drivers must constantly be ready to take over from the software.

上記の文は恐らく、以下のような日本語になるでしょう。

テスラは「オートパイロット」機能の利便性を推奨していることで批判されており(人間の介在が必要でないことを示唆する名前だ)、一方でドライバーは常にソフトウェアから引き継ぐ準備をしなければならないことも維持している。

私たちは、上記のような「和訳」と「ローカライズ」を明確に区別します。MITテクノロジーレビューが求めるのは、以下のような日本語です。

テスラが批判にさらされているのは、「オートパイロット」機能(人間の介在が不要に思える言葉だ)の利便性を宣伝で訴求する一方、ドライバーは常にソフトウェアから運転を替われるようにしておくこと、という主張は変えなかったからだ。

一般的に「言葉」はnameの、「主張を変えない」はmaintainの訳語とはされていません。では、どうすれば英文を「通常の生活を送る日本人が、米国の生活様式や社会問題、政治課題、学術知識なしに理解できる日本語にすること」を即時性が求められるニュースの翻訳作業として効率化できるでしょうか。

AutopilotとAを大文字で表記しているのは、一般名詞としてのautopilotではなく、固有名詞として「テスラのオートパイロット機能」の意味です。「オートパイロット」機能の利便性を訴求しておきながら、文字通り「オートパイロット」なら不要のはずのドライバーには自動運転中でも運転を引き継ぐ準備も課していた、つまり、それは本当に「オートパイロット」と呼んでいいものなのか?という意味で批判されている、ということです。そこでnameを「名前」ではなく「言葉」と訳しました。また、maintainingはpromotingとともにcriticized forの理由になっています。そうなるとmaintainは「維持する」と翻訳するより「変えない」と逆の意味の否定で訳し、「変えない」に「主張を」と補って意訳した方が明確になります。単語単位で辞書どおりに訳さなくてもよい、とはこういうことです。

次に、文をどう訳すかを説明します。ここで重要なのは、学校英語風に後ろから訳さないことです。

Tesla has been criticized for promoting the convenience of Autopilot.

は、英語の授業では、

テスラは、「オートパイロット」の利便性を促進していることで批判されている。

のように、最初に主語を訳した後、後ろから訳すように指導されたでしょう。しかし、漢文の読み下し文が自然な日本語と言えないのと同様、英単語を辞書通りに日本語に直し、機械的に並べ替えても自然な日本語にはなりません。

英語は、日本語よりも文法的な柔軟性がありません。つまり、英語の話者は主語、述語、目的語、補語のような文型を、無意識的によりどころにして発想しています。この場合、主語としてTeslaと記述した著者は、述語としてTeslaがどうしたかを書く必要にかられます。そこでhas been criticisedと書くわけです。Teslaがhas been criticisedだと書けば、いったい何に対してか?を書く必要があります。そこでpromotingと書くわけです。これで、Teslaは何かをpromoteしたことでhas been criticisedだと分かりますが、今度は何をpromoteしたのかが分かりません。そこで、the convenience of Autopilotと書くわけです。英語を母国語とする人が、学校英語のように文章を後ろから組み立てるはずがなく、いかにも英語的な発想で文を書いているわけです。

自然な日本語を目指すには、この「いかにも英語的な発想」を訳文にも生かすべきです。文法を完全に無視するわけにはいきませんが、英文の要素をなるべく出現する順番どおりに訳した方が、書き手の思考法をそのまま翻訳することになり、結果として、原文の著者の思考の痕跡を含む、自然な日本語になるはずです。この方針に沿って訳すと、

Tesla has been criticized for promoting the convenience of Autopilot.

は、

テスラが批判されているのは宣伝で訴求したのが「オートパイロット」機能の利便性だからだ。

のように、原文に登場しない「宣伝で」をpromoteが内包していた言葉として必然的につむぎだし、補えるようになります。大変ですが、ぜひ身につけてください。

対比について

政治家の演説やジャーナリズムの文章には、読者の感情を揺さぶり、強烈な印象を与えるために、文章内には多くの対義語がちりばめられています。特に米国の専門教育ではそう訓練されるので、変わった言葉の使い方だと感じたら、対義語であることを強調して訳す方が、原文のニュアンスを掴めるようになります。たとえば、

There’s been some stunning progress in artificial intelligence of late, but it’s been surprisingly flat.

は、「stunning progress」と「surprisingly flat」で人工知能の話題を対比的に表現しています。progressとflatを画像検索するとわかりますが、このふたつの言葉は、対比的なイメージを想起させます。そこで、

人工知能は近年、見事に盛り上がっているが、その実態はまったく平坦な状態だ。

と訳せば、ひとつの文に対比的な言葉を込めて、文を修飾していることを日本文でも表現できます。

基本単語の訳し方

中学で習うような基本単語でも、文脈によって適切に訳さないと自然な日本語にはなりません。

to work / work:働く / 仕事

Now AI researchers are moving beyond two-dimensional images and pixels. Instead they’re building systems capable of picturing the three-dimensional world and taking action. The work could have a big impact on robotics and self-driving cars, helping to make machines that can learn how to act more intelligently in the real world.

上記のworkは人工知能学者による研究をひとことでthe workと言い表していますが、単純に「仕事」と訳してしまうと、一般的な事務作業や商業的意味が含まれてしまい、適切な訳になりません。オックスフォードの辞書によれば、workは

Activity involving mental or physical effort done in order to achieve a result.

の意味です。そこで「the work」を「何かを達成するための作業」といったん抽象的に捉え、続くcouldが仮定法(この場合はほぼcanの意味)なのを利用すれば、「研究が成果を出せば」ということだと理解できます。すると、以下のように翻訳できます。

現在、AI研究者は二次元画像とピクセルの世界から抜け出そうとしている。その代わりにAI研究者が構築しているのは、三次元で世界を理解し、行動できるシステムだ。研究が成果を出せば、ロボット工学や自動運転車に大きな影響を与え、現実世界の中でより賢く行動する方法を学習する機械を開発しやすくするだろう。

to license:ライセンスを与える

Dallas-based Abeona Therapeutics licensed the technology from Gray’s lab last September and is now moving toward clinical trials.

licenseは他動詞なので、辞書には「ライセンスを与える」の意味しか載っていません。しかし、上記の場合、

ダラス拠点のアベオナ・セラピューティクスは昨年9月、グレイ研究室から技術のライセンスを与え、現在臨床試験に向けて準備中だ。

と訳すと、結局ライセンスを与えられたのが誰なのかわからないのに、アベオナ・セラピューティクスが臨床試験に向けて準備中の意味になってしまいます。ネイティブに確認したところ、

Abeona Therapeutics licensed the technology from Gray’s lab.

Abeona Therapeutics was licensed the technology from Gray’s lab.

Gray’s lab licensed the technology to Abeona Therapeutics.

は、どれも同じ意味です。

ダラス拠点のアベオナ・セラピューティクスは昨年9月、グレイ研究室から技術のライセンスを与えられ、現在臨床試験に向けて準備中だ。

と訳すべきなのです。licenseは他動詞だから「ライセンスを与える」の意味しかないと決めてかかると、意味不明の翻訳になります。あくまでも、通常の生活を送る日本人が理解できる日本語を目指して翻訳してください。

皮肉や冗談について

MIT Technology Reviewの記者・編集者には、ハーバード大学やオックスフォード大学など、世界の一流大学を卒業し、ニューヨークタイムズ紙やビジネスウィーク誌などの一流メディアで記者・編集者として活動経験のある人が多くいます。記事に、いかにも高学歴な人が言いそうな皮肉や冗談が含まれていると、素直に読むと意味が取りにくいことがあります。引っかかる表現を見つけたら、皮肉や冗談ではないか?と疑うことも、自然な日本語に翻訳する近道です。

The new process, known as “regulation crowdfunding,” represents the latest easing of securities laws set in motion by the JOBS Act of 2012 and is meant to modernize investing.

Nicholas Tommarello, cofounder and CEO of Wefunder, estimated that since May, private companies have raised more than $5 million under the new crowdfunding rules. That’s a fairly slow start for the idea, although Tommarello notes that about 29 percent of investors have invested just the $100 minimum.

上記の文で、JOBS Actは「Jumpstart Our Business Startups Act」のことだと知らないと、slow startの部分が皮肉であると気づけません。気づけば、以下のように訳せます。

新株発行の新しいプロセスは「規制型クラウド・ファンディング」として知られており、証券法関連の規制を緩和する最近の政策の一環として、2012年に制定されたJOBS法(スタートアップ事業促成法)に端を発している。

ウィーファウンダー共同創業者のニコラス・トマレロCEOの推計では、5月以降、非上場企業は500万ドル以上を新たなクラウド・ファンディング規制の下で調達した。トメレロCEOの指摘では、約29%の投資家は最低額の100ドルしか投資していないとはいえ、事業促成という新ルールの理念からすると、ずいぶん遅いスタートだ。

「slow start for the idea」は、文脈的にはやや唐突な表現です。遅々として進まないことを「start」という必然性はあまりありませんが、Jumpstartの逆なので、slow startといっているわけです。ニヤリとしかできない冗談ですが「JOBS Act」を「JOBS法」と訳して終わりにせず、ところでJOBSって何の略?と調べておけば、後に出てくる皮肉の前振りだったのか、と気づけるわけです。

 2016年8月1日作成
2016年12月21日改訂
2017年3月24日改訂

翻訳の発注について

MITテクノロジーレビューは、以下のルールでクラウドソーシング型翻訳サービスGengoのAPI経由で翻訳を自動発注しています。

通常発注

専門性が比較的低い分野や単語数の少ない原文は、GengoのStandardトランスレーターの方に発注します。ただし、一部の記事は、お気に入りに指定されたトランスレーターを優先する場合があります。もし、原文の専門性が高く、Proトランスレーターの方が、時間をかけてじっくり翻訳すべきと思う場合、Gengo内のメッセージ機能でお知らせください。翻訳案件を一時的に取り下げ、Proトランスレーター限定で再発注するか、検討します。なお、Gengoの定める品質基準や当方法論で説明している当社基準に満たない場合は、再提出をお願いする場合があります。

高品質発注

専門性が比較的高い分野や単語数の多い原文は、GengoのProトランスレーターの方に発注します。なお、Gengoの定める品質基準や当方法論で説明している当社基準に満たない場合は、受領をお断りする場合があります。

Gengoを経由しない翻訳について

医学生物学チャネルエマージングテクノロジー フロム アーカイブ(Emerging Technology from the arXiv)等の専門性が高い記事は、Gengoではなく、フリーランスの翻訳者に編集部が直接依頼する場合があります。したがって、当サイトの翻訳記事は、すべてがGengoによる成果物ではありません。

参考図書

『翻訳教室』(柴田元幸・著)