フラッシュ2024年4月26日
- 生物工学/医療
マウス実験でネオンカラー錯視の脳内メカニズムを解明=東大など
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]東京大学とマックス・プランク生物サイバネティクス研究所の研究グループは、マウスがネオンカラー錯視を見ていることを初めて実証した。オンカラー錯視とは、実際には存在しない色や光が見えるという現象で、今回の研究でマウスが人間と同様に錯視を経験することが示された。
研究グループはまず、ネオンカラー錯視によって生じる見かけ上の明るさの変化に、マウスの瞳孔が反応することを確認した。これは、ヒトと同様にマウスが錯視を見ている可能性を示しているという。また、オプトジェネティクスと脳の侵襲計測を組み合わせて、錯視がどのように脳によって処理されるかを調べた。その結果、特に、第一次視覚野のニューロンが高次視覚野の活動によってどのように影響を受けるかを明らかにし、錯視に対する高次視覚野の重要な役割を確認した。
この発見は、視覚情報の処理における高次の神経活動がどのように錯視を引き起こすかを理解する上で新たな洞察を提供し、視覚錯視の研究だけでなく、視覚に基づく神経障害の治療法開発にも寄与する可能性がある
研究成果は4月23日、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)にオンライン掲載された。
(笹田)
- 気候変動/エネルギー
大都市圏の熱中症搬送者数、2040年には2倍に 名工大ら予測
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]名古屋工業大学と海洋研究開発機構の研究グループは、2040年には日本の大都市圏で熱中症による搬送者数が2010年代に比べて2倍になるとの予測を発表した。2040年には日本の大都市圏の人口は現在と変わらない、あるいはやや減少すると見られているが、平均気温の上昇と高齢化によって熱中症による搬送者数が現在と比べて大きく増加するとしている。
研究グループは今回、2040年に全球平均気温が現在比で2℃上昇すると仮定し、東京、大阪、名古屋の3大都市圏における2040年の熱中症による搬送者数を予測した。その際に、名古屋工業大学が数値人体モデルを利用して開発した体内温度上昇及び発汗量解析手法を利用した。
また、海洋研究開発機構はデータ統合・解析システムで公開されている将来の気象予測データ「SI-CAT DDS5TK」を利用して、緩和努力に追加がないと仮定した場合の気温上昇を推定。その結果、2040年代の熱中症搬送者数は、2010年代に比べて平均で2倍となり、特に梅雨明け(7月下旬)から8月上旬に熱中症搬送者数が増加することが分かった。
研究成果は1月13日、エンバイロメンタル・リサーチ(Environmental Research)誌にオンライン掲載された。真夏日に医療資源がひっ迫する可能性があるといい、将来の医療体制の整備と啓発活動が必要だとしている。
(笹田)
- 気候変動/エネルギー
メタン放出、ゴミ埋立と畜産で増加 海洋研究開発機構ら新解析
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]海洋研究開発機構、東北大学、気象庁気象研究所などの共同研究チームは、大気中メタン濃度の変化に対し、化石燃料および微生物起源のメタン放出がそれぞれどのように影響したか観測データとモデルを組み合わせて解析する新たな手法を開発。1990年代から2010年代にかけて微生物起源のメタン放出が顕著に増加しており、廃棄物埋め立ておよび農業・畜産業の寄与が75%を占めることがわかった。
研究チームは今回、メタン(CH4)の放出源はそれぞれ特徴的な同位体比を持つことに着目。メタン濃度に加えてメタン同位体比を大気化学輸送モデルに新たに導入し、過去30年間の大気中のメタン濃度の変動の要因となった主要な放出部門を特定した。
その結果、特に1990年代から2000年代初頭に化石燃料起源のメタン放出が顕著に減少し、その後はほぼ一定であったことが明らかになった。さらに1990年代から2010年代にかけて微生物起源のメタン放出が顕著に増加しており、その大部分は廃棄物埋め立てと畜産によるものであることが判明。湿地からのメタン放出は年々の変動に大きく寄与しているが、全放出量の増加に占める割合は比較的小さいこともわかった。
これらの分析結果は、1990年代から2010年代にかけて石油および天然ガス、シェールガス採掘に伴うメタン漏出の増加を指摘する既存の推定結果とは異なるものであり、将来における、より効果的な温暖化の緩和策立案に資する情報となることが期待される。研究論文は、コミュニケーションズ・アース・アンド・エンバイロンメント(Communications Earth & Environment)に2024年4月17日付けで公開された。
(中條)
- ビジネス
大地震直前に観察される電離層異常、発生メカニズムを京大が提案
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]京都大学の研究チームは、大地震発生直前に観察される震源付近の電離層上空の電磁気学的異常の発生を説明する物理メカニズムを提案。同メカニズムに基づいて、電離層への影響を大気の静電容量によってモデル化し、モデルから予測される生成電場の大きさと観測されている地震発生前の電離層の伝搬異常の速度変化に整合性があることを示した。
最近の大きな地震の震源付近の地質調査から、プレートの境界面には、すべりやすいスメクタイトなどの粘土質が存在しており、水分も含まれている可能性が報告されている。京大の研究チームによると、その粘土質の破砕層内部にある水が地震発生前の高温高圧下で超臨界状態になり、絶縁性となって比誘電率が大きく低下することで、摩擦などで電荷が発生。この電荷によって破砕層間の電圧上昇が起こり、この電圧上昇分が大気の静電容量を介して電離層に伝わるという。
同チームは、このとき破壊層に蓄えられる電荷とエネルギーが、電離層の擾乱を引き起こすに足りる値であることを、破壊層の最大電圧の見積もりから推定。さらに、超臨界条件付近で水・粘土混合物が帯電する可能性を予備的な実験で示した。
研究論文は、国際学術誌「プラズマ環境科学技術国際ジャーナル(International Journal of Plasma Environmental Science and Technology)」に2024年3月19日付けでオンライン掲載された。
(中條)
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