フラッシュ2023年2月3日
- 持続可能エネルギー
マグネシウム蓄電池の高エネルギー正極材料を開発=東北大など
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]東北大学や慶應義塾大学などの共同研究チームは、リチウムイオン電池に代わる次世代蓄電池「マグネシウム蓄電池」に利用可能な酸化物の正極材料を開発。マグネシウム蓄電池の室温における高エネルギー動作を実現した。
研究チームは、マグネシウム蓄電池の正極材料として有望視されているスピネル(マグネシウムとアルミニウムからなる酸化物の天然鉱物)型のマグネシウムマンガン系酸化物(MgMn2O4)に着目。酸化物正極材料へ高速にマグネシウムを出し入れ可能にするために、酸化物粒子を「ナノ粒子化」して酸化物内部へのマグネシウム移動距離自体を減らすと同時に、酸化物粒子を「多孔質化」して酸化物表面までのマグネシウムイオンの移動経路を十分に確保する技術を開発した。
これにより粒子サイズ2.5ナノメートル(nm)以下、比表面積500平方メートル(m2)/グラム(g)以上の超多孔質極小ナノスピネルを合成することに成功。低温で熱処理し、酸化物表面を活性化させることによって、理論容量となる270ミリアンペア時(mAh)/グラムの放電が室温で進行することを見い出した。
希少金属(レアメタル)であるリチウムの代わりに地球上に豊富なマグネシウムを用いた蓄電池「マグネシウム蓄電池」が、安全・安価な蓄電池として注目されている。だが、マグネシウムイオンは酸化物イオンとの親和性が強く、高速にマグネシウムを出し入れ可能な酸化物正極材料は見つかっていなかった。今回の研究成果は、米国化学会のナノテクノロジー専門誌ACSナノ(ACS Nano)に2023年1月20日付けでオンライン掲載された。
(中條)
- ビジネス・インパクト
東北大など、マヨラナニュートリノを世界最高感度の検出器で探索
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]東北大学ニュートリノ科学研究センターなどの国際共同研究チームは、ニュートリノがマヨラナ粒子である場合に起こる稀な崩壊「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊」を探索。崩壊の半減期に対して世界で最も厳しい制限を与え、マヨラナニュートリノの質量が36~156ミリ電子ボルトより小さいことを示した。
我々の宇宙は、始まった直後は粒子と反粒子が同じ数だけ生成されたとされているが、現在は反粒子はほとんど観測されず、粒子だけでできている。これは「物質優勢宇宙の謎」と呼ばれる。粒子・反粒子の区別がないマヨラナニュートリノ(現在、未発見)は、この謎を解明する手がかりとされており、その存在を確認することは物理学における重要なテーマになっている。
研究チームは今回、反ニュートリノ検出器「カムランド」を用いた「カムランド禅実験」において、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊を探索した。カムランドは、1キロトンの液体シンチレータ(粒子のエネルギーで光る液体)を使った検出器で、岐阜県飛騨市神岡鉱山の地下1000メートルにある。カムランド禅実験では、二重ベータ崩壊核の同位体「キセノン 136」入り液体シンチレータを保持する直径3.0メートルまたは3.8メートルのミニバルーンを、カムランドの中に用意した。
2019年から2021年の夏頃まで約2年分のデータを、二重ベータ崩壊とそれ以外のノイズ信号を機械学習で見分ける手法などを用いて分析した結果、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の崩壊数は、最高感度のデータ中に8事象未満と判明。このことから、マヨラナニュートリノが存在することで見える信号の崩壊半減期を、従来の2倍以上の精度にあたる、90%の信頼度で2.3×1026年以上と予測した。さらに、マヨラナニュートリノの質量が、36~156ミリ電子ボルトより小さいことを示した。
今回の研究成果は、米国物理学会のフィジカルレビュー・レターズ(Physical Review Letters)に、2023年1月30日付けで掲載された。
(中條)
- ビジネス・インパクト
有用金属を短工程で製造可能に、京大が新手法
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]京都大学の研究チームは、アルキン(炭素―炭素三重結合を持つ有機化合物)の三重結合に金属を結合させる新手法を開発。これまで入手困難であった有用な有機金属化合物を簡便に調製することに成功した。
炭素原子と金属原子の間に結合を持つ有機金属化合物は、医農薬や機能性有機材料を製造する上で極めて重要な中間体となる。研究者はこれまでに、有機ハロゲン化物を基にしてさまざまな有機金属化合物を作ってきたが、従来の手法では作れないものも多かった。
研究チームは今回、アルキンの三重結合に電子を注入しながら、マグネシウムやアルミニウムの金属ハロゲン化物を反応させて、二重金属化アルケン(炭素―炭素二重結合を持つ有機化合物)を簡単に作り出す方法を発見。さらに、この新規の有機金属化合物が斬新かつ有用な化学反応を起こすことも明らかにし、中間体としての有用性を明確にした。
今回の研究成果により、単純分子から有用物質を短工程で製造可能になるとともに、持続可能な物質生産プロセス構築への波及効果が期待できるという。研究論文は、ネイチャー・シンセシス(Nature Synthesis)」に2023年1月2日付けでオンライン掲載された。
(中條)
- 生命の再定義
持久運動能力を向上させる腸内細菌、青学陸上部員に多く
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]慶應義塾大学、アサヒクオリティーアンドイノベーションズ、青山学院大学の研究グループは、ヒトの持久運動能力を向上させる腸内細菌を発見した。
研究グループは、青山学院大学陸上競技部に所属する48人の男性学生と、同年代の一般男性10人の腸内細菌叢を比較した。その結果、陸上競技部の学生の腸内にはBacteroides uniformis(バクテロイデス・ユニフォルミス)が多く生息していることが分かった。さらに、陸上競技部の学生のうち3000メートルの走行タイムを提供した25人を対象に、バクテロイデス・ユニフォルミスの菌数と3000メートルの走行タイムの関連を調べたところ、バクテロイデス・ユニフォルミスの菌数が多いほど3000メートルの走行タイムが良いとの相関関係が見出されたという。
バクテロイデス・ユニフォルミスが利用できる環状オリゴ糖であるα-シクロデキストリンの摂取が運動能力に与える影響も調べた。運動習慣がある20〜40歳代の日本人男性10人にα-シクロデキストリンを含有するサプリメントを摂取してもらったところ、摂取開始から8週間後にバクテロイデス・ユニフォルミスの菌数が摂取開始前に比べて有意に増加していた。α-シクロデキストリンを摂取した10人は、エクササイズ・バイクで10キロメートル漕ぐのにかかる時間が摂取前に比べておよそ10%短縮しており、プラセボ対照群の11人と比較して有意に速い結果だという。さらに、α-シクロデキストリンの摂取者では運動後の疲労感も低下していた。このことから、バクテロイデス・ユニフォルミスが好むα-シクロデキストリンの摂取は、ヒトの持久運動能力や運動後の疲労感を改善させることが分かった。
研究成果は1月25日、サイエンス・アドバンシズ(Science Advances)誌に掲載された。バクテロイデス・ユニフォルミスが持久運動能力を向上させる仕組みとしては、この腸内細菌が腸内で産生する酢酸とプロピオン酸が、運動中の肝臓でグリコーゲン分解と糖新生を促進し、運動に必要なグルコースを全身に供給するという仕組みが考えられるという。
(笹田)
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