フラッシュ2024年3月15日
- 気候変動/エネルギー
可視-近赤外光領域における高量子収率の光触媒=東工大など
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]東京工業大学、台湾国立陽明交通大学工学院などの国際共同研究チームは、励起波長2200ナノメートル(nm、1nmは10のマイナス9乗メートル)で世界最高の量子収率を持つ「Au@Cu7S4」新型光触媒を開発し、可視光および近赤外線照射下で顕著な水素生産を達成した。量子収率は、光エネルギーをどれだけ効率よく化学的なエネルギーに変換するかを表す指標であり、太陽エネルギーの効率的利用を可能にする技術として、脱炭素社会の実現に貢献することが期待される。
研究が開発したAu@Cu7S4は、可視光および近赤外線励起下で長寿命の電荷分離状態を維持。さらにヨーク-シェルナノ構造(ナノサイズの核と殻からなる構造体で、核と殻の間に空隙があることが特徴)の利点を生かし、励起波長500nmで9.4%、2200nmで7.3%と、共触媒を必要としない水素生産において記録的な量子収率を達成したという。
半導体光触媒を用いたソーラー水素生産は持続可能なエネルギー開発の中核的コンセプトとして注目されている。なかでも太陽光のエネルギー分布の50%超を占める近赤外線は未利用のエネルギー源として重要であり、近赤外光照射に反応できる光触媒の開発が求められてきた。
研究論文は、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に2024年1月9日付けで掲載された。
(中條)
- 気候変動/エネルギー
脱炭素における水素・アンモニア発電の貢献は限定的=京大ら分析
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]京都大学の研究チームは、世界全域を対象としたエネルギー・シミュレーションモデルを用い、脱炭素化に向けた水素・アンモニア発電の役割について分析。その結果、脱炭素社会における水素・アンモニア発電の貢献は限定的であることを解明した。
研究チームは今回、国立環境研究所などと共同開発した、温室効果ガス排出量の予測、対策や影響を評価するための「アジア太平洋統合評価モデル(AIM:Asia-Pacific Integrated Model)」を使用。水素・アンモニアの費用が大きく低下する場合や、炭素回収貯留など他の火力発電からの排出抑制策を制限した場合など、多様な条件のもとで2050年までのシミュレーションを実行した。
同モデルは将来の人口、経済成長、技術の進展(効率・コストなど)を入力条件として、CO2排出量、エネルギー需給、エネルギー技術の導入量および費用を推計するモデルである。今回の研究では、混焼を含む水素・アンモニア発電を新たな技術オプションとして追加した。
その結果、水素・アンモニア発電が世界の発電電力量に占める割合は、最大でも1%程度に留まることがわかった。水素・アンモニアの費用が大きく低下すれば、火力発電設備の約半数が水素混焼付きとなる可能性があるが、年間を通じた稼働時間は太陽光・風力発電の出力が低下するごく限られた時間に留まるという。その一方で、航空・輸送燃料としての水素・アンモニア利用は、比較的進みやすいことが示された。
再生可能エネルギー等から製造された水素・アンモニアを利用して発電することは、石炭・ガスとの混焼も含め、火力発電からの二酸化炭素排出削減に寄与する可能性がある。だが、世界全体の脱炭素化にどの程度貢献し得るかは明らかにされていなかった。
研究論文は、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に2024年3月4日付けでオンライン掲載された。
(中條)
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