フラッシュ2022年6月15日
iPS細胞を使って毒性検査、京大などがAIシステムを開発
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]京都大学と協和キリン、資生堂などの共同研究チームは、幹細胞を用いて人体への毒性物質を検出できるシステム「ステムパントックス(StemPanTox)」を開発した。成人への有害性が知られている24の物質を幹細胞に添加した際の遺伝子ネットワークの変動を人工知能(AI)に学習させることで、極めて高い精度で毒性の有無を判定できるシステムを構築した。
研究チームはまず、24の有害物質を6つの毒性カテゴリー(神経毒、心毒、肝毒、腎・糸球体毒、腎・尿細管毒、発がん性)に分類。ES(胚性幹)細胞にこれらの物質を添加した際の遺伝子ネットワークの変動をAIモデルに学習させたところ、AUC(曲面下面積、Area Under the Curve)が0.9~1.0という非常に高い精度での予測を達成した。AUCは機械学習の評価指標として用いられ、0から1までの値をとり、機械学習の能力が高いほど1に近づく。
さらに、すでにES細胞で学習したモデルを用いて、iPS細胞で物質を添加した際の毒性の有無を予測する「転移学習」を試したところ、iPS細胞のデータでもAUCが0.82~0.99という非常に高い予測精度を維持できることがわかった。将来的には、iPS細胞を用いて個人の特性を反映した毒性検査ができる可能性があるという。
我々の周りには10万種以上の工業生産物質があり、これらの安全性を正確・迅速・低コストで検査できる方法の開発が必要とされている。近年、世界中で動物愛護の声が高まる中、米国環境保護庁では2035年までに哺乳類を用いた安全性研究を停止するという宣言があり、毒性検査の新手法の確立は喫緊の課題となっている。
研究成果は2022年6月5日に米科学雑誌であるアイサイエンス(iScience)オンライン版で公開された。
(中條)
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