フラッシュ2022年11月5日
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貴金属不使用で固体高分子型水電解用の酸素発生電極を開発
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]筑波大学、富山県立大学、大阪大学、高知工科大学の研究グループは、水の電気分解で水素と酸素を得る固体高分子型水電解装置の酸素発生電極を、貴金属を使うことなく開発することに成功した。固体高分子型水電解では、酸素を発生させる陽極として使える材料が酸化イリジウム(IrO2)しかないが、イリジウムは1グラム当たりの市場価格が2万円にも達する貴金属であり、コストの高さから本格的な実用化が難しかった。
研究グループは、不働態化しやすい卑金属と、電極としての触媒能力が高い卑金属を合金化することで、貴金属を代替する卑金属電極の開発に取り組んだ。卑金属合金には、組成や元素の種類、組み合わせがほぼ無限に存在するため、候補となる元素を1つずつ評価するような手法は役に立たないと判断。元素を入れられるだけ入れた多元合金を先に合成し、目的とする電気化学反応条件で不要な元素を取り除いていく手法を採った。今回は4元合金(Ti、Nb、Zr、Mo)、5元合金(Cr、Mn、Fe、Co、Ni)、9元合金(Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Mo)の3種類を作成した。
3種類の合金を対象に、それぞれ腐食測定を実施し、腐食電位と腐食電流を算出して、既存の金属や合金と比較したところ、貴金属である白金微粒子よりも腐食の進行が遅いことが分かった。硫酸水溶液中で電極としての性能を検証したところ、4元合金は腐食しないが電極性能もなく、5元合金は電極としての能力は高いが腐食耐性がないことが分かった。また、9元合金は、5元合金よりも電極としての性能は劣るが、腐食しないことが明らかになった。0.5モルの硫酸水溶液中で2A/平方センチメートルを維持できる電圧で定電流測定を実施したところ、酸素発生用9元合金は200時間劣化せずに働き続けた。
研究成果は10月22日、「アドバンスト・マテリアルズ(Advanded Materials)」誌に掲載された。今回開発した合金は量産可能で、価格もイリジウムの1000分の1程度まで下がることから、従来の貴金属電極を代替できると考えられるとしている。研究グループは国際特許を出願中であり、今後は実用化に向けた研究を進めていくという。
(笹田)
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